第8話
「……その、どんな風に声をかければいいかわからないっていうか。自分からあんまり声をかけることがなくてさ」
「それなら、誰か側近を通じて呼び出すとか、色々あると思うけど」
「……そ、そうか。そこまで頭が回らなかったな」
ガルス……。
この人、案外抜けているのかもしれない。
彼は先ほどとは打って変わって落ち着いた雰囲気とともに、咳ばらいをする。
「とにかくだ。ナーサはあんまり穴を探すのに興味がないっていうか……本人が乗り気じゃないからな。あいつには、街での指示を任せようと思っているんだ」
「それは……分かったけど、でも私でいいの? そこまで評価してもらえるようなことはしてないけど」
確かに、依頼で魔人を討伐こそしているが、あくまでそれだけ。
魔人と戦っている精霊術師なんて他にもいるだろうし、私だけが特別扱いされているような気がしてあまり気が進まない。
「一応、第三師団の二人から話を聞いて決断させてもらった。今回の話はそんなところだな」
二人っていうことは、ファイランとベールドの二人かな。
ファイランとベールドが、自分をどのように伝えたのかは分からないけれど、二人からはそれなりに評価を受けているんだと思う。
それは嬉しいことだけど、こうしてガルスに誘われてしまうのは面倒だった。
「話は……これだけ?」
「ああ、そうだ」
「それなら、別に一緒に乗り込む必要もなかったんじゃない?」
「いや一応大事な話だしな。できればきちんとおまえの意思が聞けるタイミングで聞きたいと思ったんだ。ほら、みんなの前だと有無を言わさぬ圧力を与えかねないだろ?」
「別に、本気で嫌なら断るけど」
「……そういえば、おまえはそういうところはっきりしていたな。……まあ、それで、どうだ?」
「私は大丈夫。何かあれば手伝うから」
「了解だ。とはいえ、向こうについてから色々と状況も変わるかもしれないからな。向こうについてからまた詳細については話していこうと思う」
「分かった。もともとの予定だと、私たちは治療とかポーション製作のお手伝いをするんだよね?」
「そうだな」
「魔物の数はどうなの? まだまだたくさんいるの?」
そこがもっとも気になっていたところだ。
結構な数の兵を送るのだから、それなりに戦う可能性もあるのではないだろうか?
そんな私の期待を、しかしガルスは首を横に振って否定した。
「向こうの兵士たちが努力したおかげでかなり魔物は減っているそうだ。だから、復興支援のほうに力を入れれば問題ないはずだ」
「……そうなんだ」
「なぜそこで残念がるんだ」
「戦いたかった……」
ただ、あくまで私は安全が確保されている状況で戦いたい。
つまり、もう安全が確保されているのなら、それはそれでよかった。
呆れた様子でこちらを見ていたガルスだったが、その時馬車が大きく揺れた。
これまでまったく感じなかった衝撃を感じたため、いったい何かと思ったが、しばらく揺れは続く。
「この辺りは道が悪いからな。ルクス、大丈夫か?」
「うん、別に」
外を見てみれば、ガルスの言葉を証明するように、確かに道は荒れている。
「そういえば、馬車での移動は慣れているのか?」
「どちらかといえば苦手。ただ、この馬車はあんまり揺れないから……まだ大丈夫」
「そうなのか……もしかして、その子に普段は乗ってるのか?」
私の膝の上に載ってきたティルガを指さす。
「うん、普段はティルガで移動してる」
「ああ、その子か。そういえば、その子って大きさを自由自在に変えられるのか?」
馬車に乗るときにティルガが小さくなっていたのを見ていたのだろう。
ガルスが興味深そうにこちらを見てくる。
「うん」
「へぇ、珍しい魔法を使うんだな。その子って従魔、でいいんだよな?」
従魔。
従えた魔物のことをそう呼ぶらしい。
だから、ティルガは従魔という扱いにしておいたほうが私からすれば都合がよかった。
正確に言うと、従魔とも少し違う気もしたけど、その辺を詳しく説明するのには時間がかかる。
何より面倒。
「従魔で、大丈夫」
「なるほどなぁ。ルエコムンドには従魔部隊というのもあるそうだ。ルクスも従魔を持っているし、もしかしたら声をかけられるかもしれないな」
「そうなんだ」
従魔部隊って、どんな子たちがいるんだろうか?
動物とかは好きなので、興味を惹かれないこともないけど、見学に行くわけじゃないからね……。
時間に余裕があるときとかに、見て回れたらいいんだけど。
「そういえば……従魔の力を借りて戦う方法もあるそうだ。そういった技術も教えてもらえるかもしれないぞ?」
「従魔の力? 何かガルスも知ってるの?」
それってもしかして魔法を用意してもらうとかなんだろうか?
それとは別に何かあるのかな?
私の知らない方法があるというのなら、今後の戦いのためにも是非とも教えてもらいたい。





