第7話
北門に到着してすぐ、馬車は見つかった。
いくつもの馬車がずらりと並んでいる姿は圧巻だ。
何の事情を知らない人でも、何かが起きているんだろうというのが想像できるほどの数だ。
ガルスの後を追うように歩いていた私だけど、ちらと後ろを振り返る。
そちらを見ると、続々と馬車へと乗り込んでいく人たちの姿が見えた。
ちょうどアレアと目が合って、彼女が小さく手を振ってくる。それに返事をしていると、脇に挟み込まれるようにして連れていかれるラツィも見つけられた。
再び視線を前に戻す。ガルスの馬車は……おそらくあの一番目立つやつだ。
そう判断できるほどに、その馬車はきらびやかな装飾がなされていた。
ガルスがまっすぐにそこへと向かっているのを見て、自分の判断が間違いではないということを理解する。
まさか自分があんな馬車に乗ることになるとは。
昔の私ならそんな想像はしたこともないと思う。そもそも馬車が苦手なんだし。
「ルクス。あの馬車だ。ついてきてくれ」
ガルスの発言で、予想が確信に変わる。
やっぱりあの馬車なんだ……。
ガルスの声が、まだ馬車に乗っていなかった人たちにも届いたようで、羨ましがるような視線も向けられる。
代われるのなら代わってほしいとは思うけど、一応口には出さなかった。
私はティルガとともにその馬車へと乗りこんだ。
中は広々としている。
向かい合えるように座席は作られており、窓もある。御者が座る、御者台のほうにも窓はあり、前方の様子もわずかにだが確認できた。
腰に差していた刀を手に持ち、それを脇に置いた。
私の膝上に、小さくなったティルガが乗る。こうしていると、子犬にしか見えない。
「乗るのは私だけ?」
「ああ、そうだ」
別にもっと乗り込んでも問題なさそうだけど。
席に座って少しして、御者の姿が見えた。
それからすぐに馬車は動き出した。
窓の外を見れば、この馬車を追うように続々と馬車が動き出している。門からしばらく走ると、別の部隊の馬車たちも続々と見えた。
後ろへと視線をやれば、街もどんどんと小さくなっていく。
思っていたよりも、馬車の衝撃は少ない。よい馬車というのは、街の馬車とはそもそもの構造が違うのかもしれない。
馬車が走り出し、軌道に乗ったのを見届けたのか、ガルスがふうと息を吐く。
安堵の吐息、といった様子だ。
彼は体を休めるように姿勢を崩したところで、私へと視線を向けてきた。
「悪いな、ルクス。付き合ってもらって」
「何か用事があったの? 周りに変な目で見られた」
「はは、そうかそうか」
喜ぶかのように笑ってみせたガルスに、私は刀を振りぬいてやろうかと一瞬思った。
脇に置いた刀に手を置いたまま、私は絶えずガルスへと視線をやる。
ガルスが人気者なのは十分分かった。下手な誤解を与えると、嫉妬に狂った女性たちに変に絡まれるかもしれない。
冒険者時代にそんな話を聞いたこともある。あれは男女が真逆だったけど、あるパーティーで一人の女性を奪い合い、パーティーが壊滅したことがあったのだとか。
ガルスは微笑みながら、ゆっくりと口を開いた。
「向こうについてからだが、色々としてもらいたいことがあってな。例えば、一緒に行動して次元穴を探す手伝いをしてもらうとかな」
「次元穴? それが原因で魔物が発生しているの?」
次元穴とは、魔界とつながっているといわれている黒い穴だ。
実際、その先がどこに繋がっているのかは不明。
でも、突発的に世界に出現しては、その穴から魔物が現れるんだ。
破壊する方法はそう難しくはない。大量の魔力をぶつけることで、次元穴を破壊することができる。
突如として魔物が大量発生した場合、この次元穴が原因という可能性が高い。
「……一応な。まだ見つかってはいないようだけど、魔物たちの繁殖期でもないしおそらくはそうじゃないかってな」
「次元穴を探すのは別に構わないけど。逆に聞きたいけど私でいいの?」
「ああ。今回連れてきた宮廷精霊術師の中で、実力が十分にあるのはナーサとルクス、あとベリトーラくらいだからな」
ベリトーラ。たぶん、一緒にいた男性だと思う。
「オレが次元穴を探している間はナーサに指揮を執ってもらうから必然的にルクスくらいしか候補がいなくてな」
「それなら私がナーサと一緒に次元穴を探すのはダメなの?」
「なんだ、オレと一緒は嫌か?」
「嫌」
「なんだと? オレが泣いてもいいのか?」
「泣けばいい」
「酷い話だぜ。そんなにオレが何かしたか?」
「色々している。周りに誤解されるように振舞ってるとか」
「それは……悪かったよ。でも、悪気はないんだって」
「本気で言ってるの?」
「……本気だ」
ガルスはそう言ってから、少し頬を赤らめてそっぽを向く。
何その反応は?
私がじっと見ていると、彼はぼそりと口を開いた。





