第55話
会場は宮廷ではなく、王城になる。ここから歩いて数分程度だ。
会場に近づくにつれ、盛り上がっているのが伝わってくる。
「あれ、もう始まっちゃってますかね?」
「たぶん、事前に話しているだけだと思う」
私は軽く髪をかきあげ、それから会場へと向かった。
会場内へと入ると、各部署ごとに集まっているようでテーブルが用意されていた。
ちらと見ると、宮廷精霊術師団はすぐに分かった。
ファイランとベールド様もこちらに気づき、手を上げた。
アレアとラツィも、それぞれのもとへと向かう。
「本当は他のメンバーにも参加してほしかったんだけど、今は任務中だからね」
「……他にもいたんだ」
「あと三人いるんだけど、ちょうど他の街で任務中なんだよ」
「そうなんだ」
初耳だった。
「まあ、パーティーは自由だから。自由に楽しんでくるといいよ」
「分かった……とりあえず、お腹空いたから食べてくる」
今日は立食形式のパーティーのようで、テーブルには様々な料理が並んでいる。
食べるのは好きなので、非常に楽しみだった。
私はメイドから取り皿を受け取り、それから料理へと近づく。
お肉の料理だ。なんかよく分からないソースがかかっている。
おしゃれな味だと思う。もっとこうワイルドな味付けでも私はいいなと思っていた。
次に食べるのはどれにしようか。そう思って料理を見ていると、
「少しいいかい?」
「……え?」
振り返ると、貴族の男性と思われる人に声をかけられた。
彼は爽やかな笑みを浮かべている。私の知らない人だ。
「……えーと、何でしょうか?」
一応敬語で対応する。ファイランと話していた通り、面倒なことに巻き込まれないためだ。
「俺は伯爵家のベイクド・ラルザと言いまして……美しい女性だったのでつい声をかけてしまいました。お名前はなんというのですか?」
「私は、ルクス……宮廷精霊術師です」
「宮廷精霊術師ですか。まだお若そうなのに、凄いですね」
「あ、ありがと」
距離が近い。彼は美しい歯を見せるような微笑を浮かべている。
私は早く食事を再開したかったので、どうにか逃げ出せないかと思いながら周囲を眺めていた。
「本日は後半にダンスの時間もありますが、俺と一曲どうですか?」
「……明日も任務で忙しいので、その頃にはパーティー会場から帰ろうと思っていましたので」
「そんな。一曲だけですから……! どうしても、あなたと一度踊りたいのです!」
私は自分の頬が引きつっているのが分かった。
こ、ここまで積極的に声をかけられるとは思っていなかった。
ていうか、周りにはもっと綺麗な女性たくさんいるんだからそっちに行けばいいのに。
他の貴族令嬢の中には、この男性を狙っている人もいるのか、私を凄い目で見てくる人もいる。
嫉妬に狂ったような表情の人も。いやいや、私は別にそんな気はまったくないから。
「ごめんなさい。あっ、ちょっと用事があるので」
私は無理やりにそう言ってその場から逃げ出した。
「あっ、待ってください!」
男性が手を掴んで来ようとしたので、身体能力を駆使してかわした。
……そうして人の多い方へと逃げ、姿を隠した。
まさかあんな風に声をかけられるとは思っていなかった。
ため息をついていると、こちらに誰かが近づいてきた。
顔を上げたところで、私は思わず目を見開いた。
それは、向こうも同じだった。
「……お、おまえ……!? ま、まさか……ティーナ……か!?」
私は自分の喉の奥がしまったような気がした。
その男性は――私の元父、ゴーシュ・リーストだったからだ。





