第50話
事件自体は解決したため、これで私たちの任務は終わりだ。
朝を迎えたところで私たちは乗ってきた馬車へと乗りこむ。
この街で遊んでいく余裕なんてない。仕事が終わればまた次の仕事が来るかもしれないので、王都に帰還する必要がある。
馬車に乗った私たちだけど、思っていたよりも静かだ。
私たちの向かいに座っていたスティーナたちが、一言も喋らないからだ。
怪我自体はほとんど治っているようだったけど、二人とも疲労しているみたいだ。
結局、王都に到着するまで私たちは一言もかわすことがなかった。
王都へと帰還した私たちは、それぞれの師団長への報告へと向かう。
報告書の作成は、後日五人でまとめて行うそうで、今は口頭での状況の説明のみだ。
「――というわけだった」
私の言葉を聞いたベールド様はもっていたペンで自身の額を何度か突いていた。
神妙な面持ちの彼は、私の報告を聞いて黙り込んでいた。
「相手は魔人。知性あり、ね。了解したよ。いきなりで大変な任務だったみたいだけどやり遂げられたようで何よりだよ」
「……うん」
「今日はとりあえず午後は休みにしておくよ。ゆっくり休んでまた明日、報告書の方は提出してくれればいいからね」
「あの……少し、聞きたいことがある」
「聞きたいこと? 何かな?」
確かに、事件は解決できた。
でも、私の中には確かにモヤモヤがあって。
それを解消できるかどうか分からないけど、このまま胸の中に秘めておきたくはなかった。
「今回の事件、もっと早く宮廷精霊術師が動くことは出来なかったの?」
「難しいね」
一秒と考えることなく、ベールド様は答えた。
それから彼は真剣な眼差しでこちらを見てきた。
難しいのはもちろん分かっているけど、けどそれでもどうにか出来ないかと思っていたからだ。
「今回、被害者はどのくらい出たんだい?」
「正確な数字は分からないけど、孤児院の子どもで五人の被害が出た」
「そうか。……現状、宮廷精霊術師が動くのは最後の最後になることが多いんだ。色々な事件があちこちでほぼ毎日発生している状況でね。なるべく精査していかないと、こちらの手がまわらないんだ」
「……はい」
「現状、この国の戦力よりも脅威の方が多く発生してしまっていることが多いんだ。そしてここ最近、増え始めているのが魔人による被害だ。彼らは……非常に強い。ルクスは問題なく対応できるようだけど、多くの人間は苦労する。……はっきり言って、魔人以外の問題にまで宮廷精霊術師を派遣することはできない」
ベールド様の言う通りだ。
もしも、私たちが右に左に事件解決で向かうとしよう。
その中には、きっと私たちが動かなくてもいい仕事もあるはずだ。
そうして、本当に危険な、私たちが対応しなければならない事件が後回しにされてしまうことだって……可能性としてはある。
「なら、人員を増やさないと」
「増やすとしても、精霊術師の人員自体が少ない。それに、試験に突破できないような子だと……任務を失敗しかねないんだ」
「……それは、うん。そうだけど」
「それに、この宮廷に限らず、まだ貴族の間では危機感が薄くてね。コネだけで重要な役職についている人もいれば、同じく騎士、精霊術師になっている人もいる。そういった人たちは仕事をせず、毎日を休日のように過ごしている」
「……」
「そういった部分から改革をしていかないと、この国はどんどん危険な状態に陥るだろうね。貴重で、優秀な人材だって、育つ前に失われていってしまうかもしれない。何より、そんな人材を見つけ出すことだってできないかもしれないんだ。僕たちだって、下手をすればルクスという優秀な人材を見つけられなかったかもしれないんだしね」
今回の被害者の中にだって、もしかしたら将来的に宮廷で仕事が出来るような才能を持っていた子もいたかもしれない。
ベールド様は続けて口を開いた。
「子どもにきちんとした教育を施せるのは貴族くらいだ。それは、貴族が自分の立場を脅かされるのを恐れているからでもある」
コネとかが通用しなくなる、完全実力主義の国。
そうなれば不都合と感じてしまう人も出てくるだろう。





