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第5話




 いや、それは私の反応なんだけど


「お、おぬし……我の声が聞こえるのか!?」

「え? うん。聞こえたら駄目? なら、耳塞いでおく」


 私が両手を耳に当てると、ワンちゃんは首を横に振った。


「違う違う……い、いや。普通の人には我の声は、ただ、『ニャー』としか聞こえないはずなのだ」

「……ニャー? ワンじゃなくて?」

「わ、我は誇り高き白虎のティルガだ。犬ではない、どちらかといえば猫だ」

「……そ、そうなんだ。ティルガ……狼じゃなかったんだ」


 でも、耳とか尻尾とかどう見てもウルフに近い。

 

「お、狼と一緒にするでない。我は誇り高き虎!」

「……でも、その虎がどうしたの? 微精霊たちは、霊獣って言っているけど」

「……おぬし、微精霊の声も聞こえる、か。我は、とても運が良かったようだ。いや、これこそが運命なのかもしれない」

「勝手に運命感じてないで、説明がほしい」

「……うむ。そうだったな」


 ティルガは人間のように咳ばらいをし、それからお座りの態勢でこちらを見てきた。


「我は、近い未来の危機に備え、封印から目覚めた霊獣の一体だ」

「……近い未来?」

「そうだ。すべての微精霊を喰らう、魔人たちの出現が確認されたからだ」

「……魔人」


 魔人というのは、ずっと昔に微精霊を食べていたとされる存在だ。

 魔物が進化し、人のような姿を、そして知能を獲得した生物だ。

 彼らは極めて凶悪で、見た目以外は魔物そのものだったらしい。


 ……でも、この存在だっておとぎ話に出てくる魔物だ。

 ずっと昔に、そんな存在がいたかもしれないって言われている程度の、そんな認識。

 本当なのかな? っていう気持ちが浮かんできてしまう。


「おぬしは、微精霊に愛された世界でただ一人の精霊術師だ。かつて、我が仕えていた精霊術師と同じ資質を有している」

「私が……?」

「ああ、そうだ。我の声が聞こえ、そして微精霊たちの声が聞こえるのが何よりの証拠だ。……出会えてよかった」


 安堵した様に息を吐いたあと、ティルガは私の目をまっすぐに見つめてきた。


「おぬし、名前はなんという?」

「……私はルクス」

「そうか。ルクスよ。霊獣の一人、白虎のティルガである我と契約を結んではくれないか? ……ともに、魔人と戦ってほしい」


 魔人と戦う。

 まだ現実のこととして受け止め切れていなかった。

 でも、と思う。


 すべて本当の話だとして、今一緒にいる微精霊たちが死んでしまうのは嫌だった。

 

「ティルガ、私はそんなに強くない」

「まだ、力をつけていないだけだ。我だって同じだ。復活したばかりで、まだ力が思うように発揮できていない。だが、これから鍛錬を積んでいけば、必ず強くなれる。我も、そしてルクスもだ」


 ティルガは改めて私の目をじっと見てきた。

 真剣だ。嘘は、ないと思えた。


「よく分からないけど、私は微精霊たちが好き。この子たちを傷つけるやつがいるなら、許さない」


 私がそういうと、近くにいた微精霊たちが私の体に触れてきた。

 ……これまで、何度も助けてくれた微精霊たちを、私が助けられるのなら力を貸したい。


「戦う理由はなんでもいい。それでは、契約をしよう。手を貸してもらってもいいか」

「こう?」


 私はお手をするようなつもりで手を差し出す。

 ぽん、とティルガが私の手のひらに前足をのせてくる。

 肉球がぷにぷにで柔らかい。


 そんなことを思った次の瞬間、体の奥底から力が沸き上がってきた。


「……これで、契約は完了だ。我は風の霊獣ティルガ。ルクスよ。おまえはこれまで以上に風の精霊魔法への理解が強まったはずだ」

「……うん、確かに――」


 私は自分の体へ本能に従うように力を籠める。

 魔力を練り上げ、手のひらへと集める。

 そして、近くの木々を狙い撃つように、片手を振り下ろした。


 私の手から風の刃が生まれ、それが木々を切り裂いた。

 できる、と思っていたけどその事実に、驚く。

 だって、人間だけでは精霊魔法を使うことはできないからだ。

 

「ティルガ、これって」

「我の力だ。我と契約したものには、風の精霊魔法が使えるようになるんだ」

「……そっか」

「これは、ルクスにのみ許された力だ。今後、ほかの霊獣たちが目覚め、契約を結べば同様に力が使えるようになるはずだ」

「私が他の霊獣とも契約を結ぶの?」

「ああ、そうだ。ルクスは精霊に愛された存在だからな」

「そっか」


 私は少しだけ家のことを思い出していた。

 もっと早くこのことが分かれば、私も家にいられたのだろうか?

 なんとはなしに、ティルガの体へと手を伸ばす。

 その銀色の毛並みに触れると、ふわりと布団のような柔らかな感触が手に返ってくる。

 ふわふわ、もふもふだ。


「ど、どうしたルクス。あまり撫でるでない」

「……ダメ?」

「……い、いや別にダメではないが。くすぐったくてな」


 ティルガは少し照れくさそうな声を上げながらも、私の手を払うようなことはしなかった。

 その体をなでていると、少し落ち着けた。

 布団よりもずっと気持ちいい。


「ティルガの毛で布団が作れたらとても気持ちよさそう」

「ぶ、物騒なことを言うでない!」

「冗談。……うん。まだちょっと理解しきれていない部分もあるけど、私精霊術師として頑張る」

「おお! そうか! ありがとう、ルクス!」

「それで、これからどうしたらいいの?」

「ふむ。ひとまずは、力をつけよう。いずれ現れるはずの魔人との闘いや、霊獣たちと契約を結ぶためにな」

「うん、わかった。これからよろしくティルガ」

「こちらこそだ」


 ティルガの話通りなら、私は今後も冒険者として活動していれば問題ないだろう。


「ルクス。我は体のサイズを自由に変えることができる。移動は我に任せろ」

「え? ほんと?」

「ああ」


 ティルガは調子よく微笑むと、その体が一回り大きくなった。


「わー、すごい。でも、それだけ体大きく出来たらゴブリンも倒せたんじゃないの?」

「……これはルクスの魔力を借りることでできるのだ。契約もしていない我なんて、ゴミのように弱いんだ」

「ゴミなの?」

「……あ、ああそうだ。霊獣とは言っても、契約者がいなければ何もできないんだ」

「そうなんだ」

「ほら、乗るといい。目的の場所まで運んでやろう」


 いわれるがまま、私はティルガの背中に乗った。

 ティルガの背中は柔らかく、温かい。

 乗ると同時、私の体をふわりと風が包んだ。

 そして、ティルガは走り出す。

 衝撃はまったくない。それどころか、ふかふかの毛並みに包まれていると、そのまま眠ってしまいそうになる。


 魔人に、霊獣かぁ。

 なんだかよくわからないけど、今はこのもふもふを堪能しよう。


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