第49話
「しかし、これから先の被害者を封じたんだ。……今はそれを喜ぼう」
「……うん、ありがとティルガ」
「それじゃあ、皆のところへ戻ろう。皆、ルクスのことを心配しているからな」
私はティルガの背中を一度撫で、それからその背にまたがった。
「みんなは?」
「念のため、孤児院に移動している。敵に仲間がいたときは、このタイミングで狙うかも、ということでな」
「そっか」
私はティルガとともに孤児院へと向かう。
孤児院に到着してすぐ、アレアとラツィがこちらへとやってきた。
「ルクス大丈夫!? 元気してた!?」
「元気してた」
「怪我とかしてないですか!? 怪我していたらラツィが治してくれますよ!」
「大丈夫」
二人は不安げな表情をしていたけど、私が口元を緩めると、二人もほっとしたように息を吐いた。
「ちょっと! 魔人はどうなったの!? まさか、あんた逃がしたわけじゃないわよね!?」
「仕留めた」
「なぬ!? そ、それはそれで……むぅ、事件解決は良かったけど……さ、先を越されたぁ……っ!」
「役割分担をしただけ。今回の成果はみんなの力のおかげ」
怪我の治療が出来るラツィがスティーナたちを見て、追跡と戦闘が出来る私が魔人を追っただけだ。
そこに上も下もない。
とにかく、これでもうこれ以上被害に会う子どもたちはいない。
「スティーナたちはどうなったの?」
ここに姿はない。
わりとボコボコにされていたので、傷の状態などが少し心配だった。
私が問いかけると、二人はにこりと微笑んだ。
「あっ、二人とも宿の方に運びましたよ。二人とも命に別状はありません。ラツィさんの回復魔法のおかげですね」
「当たりまえよ」
とにかく、スティーナたちが無事でよかった。
私の視線に気づいたのか、ラツィが口を開いた。
「あたしたちが孤児院に来たのは、念のためよ。孤児院の防衛に来たってわけ。あの魔人にあんたがやられちゃうとかもないわけじゃなかったでしょ?」
……まあ、そうだけど。それは少し癪然としない。
ラツィがちょっとばかり意地悪い笑顔でそう言ってきた。
「大丈夫だった。魔人の後処理は近くにいた騎士に任せて来た」
「それで……? 子どもたちは、どうなったのよ」
ラツィが小さく問いかけて来た。
彼女の真剣な眼差しに、私は唇を噛んだ。
答えにくいけど、答えなければならない現実だ。
「……魔人が、食べた、らしい」
「……そう、なのね」
ラツィも表情を曇らせる。
子どもには冷たい現実を伝えた彼女だったが、それでもラツィも明るい未来を期待していたのだろう。
現実はそう簡単ではない。
「し、仕方、ないですよ。……悲しいですけど、もう過ぎてしまったことですから。……責任を、感じてばかりもいられません」
「……ええ、そうね。」
ラツィは大きく息を吸ってから、孤児院の方へと向かう。
それから、心配げな様子の院長の方に近づいた。
「せ、精霊術師様……子どもたちはどうなったのでしょうか?」
院長の期待するような質問に、私が答えようとして……そこでラツィが先に口を開いた。
「事件は解決しました。犯人は魔人でした。しかし、すでに子どもたちは亡くなっていたそうです」
ラツィがはっきりとそう伝えると、院長は苦しそうに唇を噛んだ。
この騒動で目を覚ましていた子どもたちが、廊下の奥に見えた。
子どもの一人……私たちが孤児院に訪れたときに質問してきた子が、こちらへとやってくる。
「……みんな、もういないの?」
口ではそう質問していたけれど、少女はすべてを理解しているような表情だった。
目には涙をため、今にも嗚咽をあげそうだ。
そんな少女の頭を、ラツィが優しく撫でた。
「ごめんね、助けてあげられなくて」
そういって、すっと頭を下げる。私たちも同じように頭を下げた。
子どもは泣き出してしまい、それを院長がなだめるように抱きかかえた。
院長はすっと頭を下げてきた。
「……仕方ない、ことです。顔を上げてください。これでもう被害者が出ることはなくなったんですから」
院長の言葉に、私は悔しさを覚えた。
……もっと、何か出来ることはなかったのだろうかということばかりを考えてしまう。
けれど、失った者が戻ることはない。
少女は院長の言葉を聞いたところで、私たちを見てきた。
「……ありがとう、お姉ちゃんたち」
「……ごめんね」
ラツィは悲しそうな目とともに、少女にそう返した。
……どうしたら、こういった子たちを助けられるのだろうか?
もっと有名になれば、助けられるようになるのだろうか?
……もっと力をつければ?
ううん、それだけじゃきっとダメだと思う。
もっと、たくさん優秀な精霊術師が増えない限り、世界のあちこちで起こる事件には対応できない。
……それも、私がどうにかできる役目なのかもしれない。
うっすらとそんなことを考えていた。





