第44話
ラツィも思うところがあったみたいで、申し訳なさそうに頬をかいていた。
「わ、悪かったわね! あたし、そういう優しく声をかけるのとか……苦手なの! ていうか! こんな話するためにここに来たんじゃないのよ! さっさと、あたしたちも巡回にでも行くわよ!」
「ううん。スティーナたちが夜間を担当したいって言った以上、私たちは休んだ方がいい」
「なんでよ!」
私の言葉に、ラツィが気にくわなさそうに眉間を寄せた。
「みんなで夜回っていたら、昼の担当がいなくなる。昼、夜で担当を分けられるならそれに越したことはない。通常、夜の方が大変だからこうやって分担できたことをむしろ喜ぶべき」
私がそういうと、ラツィは大きく息を吸ってから、頬を叩いた。
「……うし! そうね! あの子たちを守るためにも、今日はゆっくり休むわよ!」
ラツィが納得したところで、私たちは孤児院近くの宿へと向かった。
ラツィが先頭を歩き、宿での手続きを済ませていく。
といっても、こちらの騎士団が宿の確保等は行ってくれているため、特にこちらから何かするわけではない。
ラツィが宿の店員と話をしているとき、アレアがこちらに耳打ちしてきた。
「良かったです……ラツィさん、うまく誘導できましたね」
「誘導?」
「はいっ。ラツィさん、よく暴走しちゃいますからね。ナイスですルクスさん」
苦笑気味にアレアが言ったその背後。ラツィがじーっと目を吊り上げていた。
私はアレアに見えるよう人差し指を向けると、アレアが首を傾げた。
「なんです? って、わ!? ら、ラツィさん!?」
「アーレーアー? 聞こえているわよ!?」
「わあ!?」
ラツィはムスーッとした様子で頬を膨らませ、仕返しとばかりにアレアの胸を揉みしだいた。
顔を真っ赤にさせたアレアが抵抗しようと力を入れ、ラツィを突き飛ばした。ラツィは小柄なこともあり、あっさりと弾かれた。
「い、いたた……あ、相変わらず力強いわねあんた……」
「す、すみません……! だ、大丈夫ですか?」
「仕掛けたのはあたしなんだから気にしないの! よし、部屋に行って今日は休むわよ!」
ラツィが階段をびしっと差し、それから二階へと上がる。
「あたしが201号室、アレアが202号室、それでルクスが203号室ね。はい、鍵! それじゃあ、明日は朝7時に起きて食堂に集合よ!」
「は、はい! 分かりました! あっ、そ、そうだ……は、初任務ですし……み、みんなでその頑張ろうって! やりませんか?」
「はぁ? なによそれ?」
「こ、こうやって手を合わせてですね」
アレアが片手を前に差し出す。アレアがやりたそうにこちらを見たので、私も手を差し出した。
じっと私と二人でラツィを見る。
「ラツィ、やらないの?」
「……もう、恥ずかしいわね。まったく」
しぶしぶといった様子でラツィが手を差し出し、アレアがにこりと微笑む。
「えいえいおー! 頑張りましょう!」
アレアがみんなの手を掴みあげた。
私も一緒に声を出すと、ラツィも遅れて小さく声を出した。
耳まで真っ赤にした彼女は、
「もういいわよね!? それじゃ、お休み!」
「はいっ、おやすみなさい」
私も二人にぺこりと頭を下げ、部屋へと向かう。
「うん、おやすみ。それじゃあまた明日」
部屋に入ったところで、私は近くにいた微精霊を確認する。
微精霊たちはぷかぷかと私の方へとやってきた。餌である魔力を出すと、嬉しそうに私の手のひらに集まってきた。
「みんな、街の状況はどう?」
『みんなに声をかけてきたよ!』
『犯人は人間じゃないよー!』
当たり前のようにそう言われ、私は思わず近くの微精霊へと目を向ける。
微精霊たちはすぐに言葉を続ける。
「どういうこと?」
『なんだか嫌な魔力を持ってたよ!』
『魔人だよ! 他の微精霊たちも近づきたくないって!』
『居場所も良く分からないけど、嫌な魔力があちこちにあるんだよ!』
『きっとどこかにいるはずだよ!』
……犯人は魔人で確定みたい。





