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第40話



 二人と別れた私だけど準備、といってもやることはない。

 ひとまず事務室へと戻ってみたけど、ファイランしかいなかった。


「あれ、ベールド様は?」

「少し他の王子の方々と話をするということで席を外しているわ。任務の準備は大丈夫なの?」

「うん、大丈夫。元々、そんなに荷物とか持たないし」

「そうなのね。今回の任務、恐らく何者かが意図的に事件を起こしているはずよ」


 確かにそうだろう。そうでなければ人が消えるということはないだろう。


「魔人の可能性が高いんだよね?」

「そうね。もしも相手が人だろうとも、私たちには殺しの許可も出ているわ。もしもの場合、ためらわずにやってしまって問題ないわ」

「うん……分かった」

「ただ、できるのならば捕らえた方がいいと思うわ。あんまり後味良くないしね」


 いざというときは仕方ないだろう。

 どうしようもない人間は、確かにたくさんいる。

 そんなどうしようもない人間の立場を思って、自分が怪我あるいは命を落とすようなことがあれば馬鹿だ。


「自分の身を守るのが第一よ。無茶はしないようにね」


 ファイランの言葉に、私はこくりと頷いた。


「分かってる」

「相手がただの人間ならいいけど……魔人だったら厄介よ。かなり強いと思うから」

「……うん、楽しみ」

「……まあ、うん。ルクスがいれば大丈夫だとは思うけど、他の子たちはたぶん魔人と戦ったことはないわ。ルクスがサポートしてあげてね」

「分かってる。みんなで帰ってくる」

「そうね。戻ってきたら歓迎会もできると思うわ。楽しみにしててね」


 ファイランに肩を叩かれ、私は頷いた。

 それから、約束の時間になったところで、一階のフロアへ移動した。


 全員が集合したところで、私たちは馬車に向かう。

 宮廷で用意してくれた馬車だ。

 御者として二名の騎士が御者台に座っている中、私たちは馬車へと乗り込んだ。


 座席は長椅子のようなものが二つ並んでいる、私、アレア、ラツィの三人で並んで座り、向かい側にもう二人が並んでいた。

 ティルガも体を小さくして、私の膝の上に乗っていた。

 向かいの二人は私たちと目線を合わせないように体を横に向けている。


「それでは出発します。衝撃に気を付けてくださいね」


 御者の声が響くと、馬車はゆっくりと動き出す。旅で利用していた時の馬車に比べ、衝撃などがほとんどない。

 馬車が王都から出たところで、アレアが私の方を見てきた。

 

「フィロッソの街には行ったことありますか?」

「私は一度行ったことある。元々冒険者として活動していたから」

「冒険者だったんですね……。凄いですね……」

「別に誰でもなれる」


 私が苦笑していると、ラツィがじっとこちらを見てきた。

 その目がくりくりと興味深げに動いている。


「フィロッソってどんな街なのよ?」

「フィロッソは……うーん、とその特徴がある街ってわけじゃない。ただ、落ち着いた雰囲気はある」

「なるほど、地味な街なのね」


 別にそこまでずばっと言わなくても。

 私が苦笑しているとアレアがラツィを見た。


「ラツィはフィロッソに行ったことはないんですよね?」

「そうよ。あたし、ほとんど旅とかしたことないのよね。15歳になってすぐに精霊術師になって、それからは基本的にアグリサっていう街で活動していたのよ」


 ラツィが自慢気に胸を張ったときだった。向かい側から舌打ちが返ってきた。

 露骨に聞こえるような大きさの舌打ちに、私たちは気づいて視線を向けると、


「ちょっと、うっさいんだけど?」


 女性たちが苛立った様子でこちらを睨みつけてきた。


「何よ? 何か文句あんの?」


 ラツィがじっと睨みつける。あ、あわわわ! とアレアが私の方を見てきた。

 とりあえず私は黙ることにした。

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