第35話
元リースト家、現レベリス家の屋敷を見るのはそれまでにして私たちは貴族街から平民街へと移動した。
巡回で気をつけるのは、異常の有無だ。
普段と何か違うことがないかを意識する。不審物、あるいは不審者などだ。
といっても、私はまだ普段の状況を知らないので今はあくまで一緒についていって普段の状況を覚えるところからだ。
地図を見ながら巡回をしていて思ったのは、やたらと視線が集まっていることだ。
私とファイランをいる視線がやけに多い。ひそひそと何か話しているようにも聞こえる。
ちょっと、聴覚を強化してみよう。
微精霊に囁くようにお願いし、彼らの話を盗み聞きしてみる。
「きゅ、宮廷精霊術師様だ」
「……ファイラン様じゃない?」
「美しい……」
「隣にいる子、滅茶苦茶若くないか?」
「あっちの子も可愛い……」
そんな話をしている人の中には、騎士も混ざっている。
彼らもちょうど巡回中のようだった。
私がそちらを見たからだろうか。
ファイランが一度ため息をつくと、騎士たちの方へと近づいていった。
「あなたたちの仕事は宮廷精霊術師を見ることなのかしら?」
ファイランの指摘を受けた彼らは、びくっと背筋を伸ばした。
慌てた様子で否定を示すように首を横にぶんぶんと振っている。
「い、いえ……!」
「し、失礼いたしました!」
そう叫び、騎士たちは逃げるように去っていく。
凄まじい逃げ足だ。ファイランがよっぽど怖かったのかも。
そんな彼らの後ろ姿を見送っていると、ファイランが私を見てきた。
「まあ、宮廷精霊術師の立場はよく理解できたでしょう? 私たちはああやって憧れの対象にされることがあるのよ」
「ファイラン、人気者みたいだった」
「……別にそうでもないわよ」
思い当たる節がある、といった反応だ。
たぶんだけどファイランは人気者なんだと思う。綺麗で強いんだからね。
私はできればそういう立場にならないようにしたいものだ。
外を出歩くにしても仮面が必要になってしまうかもしれないしね。
「ほら、街を見て歩きましょうか」
「うん。分かった。……私は今、普段の街の状況を覚えるように歩いているけど、他に何かすることはない? もっとこう、威圧的に歩いてみるとか」
「威圧的?」
「殺気をぶんぶん出しながら歩けば、不審者も減る?」
「街から人が減るわ……別に何かすることなんてないわよ? 私たちが歩いていることで犯罪の抑止には十分だわ。誰だって、宮廷精霊術師とやりあおうなんて思わないわ」
「……そっか」
「なんでちょっと残念そうなのよ」
「喧嘩とか、止めに入りたかった。あわよくば、戦いに……」
「ちょっと好戦的すぎるわねぇ、まったく」
ため息をついたファイランとともに巡回を再開。
……彼女が言っていた通り、本当に何もない。
ただ、街の人たちの注目は集める。
これは確かに、下手なことは出来ない。
特にファイランは有名人みたいで、行く先々で噂されている。
今後有名になってしまったら仮面は必須だと思う。
そうしてぐるりと担当の範囲を見てきた私たちは、何事もなく宮廷へと帰還した。
「王都内での基本業務はこの巡回ね。事務室に戻って報告書を作成したら巡回業務は完了になるわ」
「……報告書の作成」
私が逃げようとすると、ファイランが首根っこを掴まえてきた。
「そこまでやるのが仕事よ? 分かったかしら?」
「……はい」
「それじゃあ、事務室に戻って報告書の作成方法でも教えるわね」
私はちらとついてきていたティルガに視線をやる。
「……ティルガ、報告書の作成とかできる?」
「我は文字が書けないが。それで問題ないか?」
問題おおあり。
微精霊たちも出来ないだろうし、私がやるしかない。
「……精霊術師、凄い大変かも」
「その言葉、こんなところで聞くのは初めてだわ」
ファイランがそういって私は事務室へと連行された。
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