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第33話 ゴーラル視点2



 必要最低限の騎士と精霊術師を連れたオレは、そのままフーテルアへ向けて出発する。


「ご、ゴーシュ隊長……大丈夫なのでしょうか? さすがに人数が少ないのではないでしょうか?」

 

 心配そうに声をかけてくる精霊術師。確か、名前はファイランといったか。

 美しい女性は年齢でいえば20前半といったところか。

 そんな彼女に対して、別の精霊術師が声をあげた。


「失礼だぞ。ゴーシュ隊長の精霊魔法を見たことはないのか?」

「……ございません」

「ゴーシュ隊長はな、5年程前にいきなり精霊魔法が使えるようになった天才精霊術師なんだ。彼の魔法は街一つを吹き飛ばすのではといわれているほどの威力なんだ。背後から魔物たちへと放てば……ひとたまりもないさ」

「……そうなんですね」


 感嘆の息を漏らす精霊術師。そして、騎士や精霊術師たちはオレに尊敬の眼差しを向けてきた。

 オレのことを、宮廷の人間で知らないものはいないだろう。


 オレのように後天的に精霊魔法に目覚めた人間はほとんどいないからな。

 そして、多くの場合そういった才能は微妙なものなのだが、オレは違う。


 オレの魔法はそこらの精霊術師なんてちっぽけに感じてしまうほどの威力なのだ!

 今から魔物たちをまとめて吹き飛ばせると思うと楽しくてしかたない。

 弱者をなぶっている瞬間。その時にこそ、オレは生を実感できるからだ!


 馬を走らせること数時間。

 フーテルアの街が見えてきた。

 そして状況は非常に悪い。

 街へと向かって、魔物が襲い掛かっているところだ。

 門を固く閉ざし、何とか踏ん張っているという状況だった。


「ゴーシュ隊長! 背後からいつもの魔法お願いします!」


 隊員がキラキラとした目でオレを見てくる。


「ふっ、分かっているさ」


 オレたちは馬を止め、それからオレは魔力を込める。

 その魔力を微精霊へと差し出す。魔力は微精霊へと流れていく。


「火の微精霊たちよ。わが魔力を糧に、火の魔法を授けたまえ……!」

「……で、出るぞゴーシュ様のエクスプロージョンだ……!」

「は、離れろ! 爆風に巻き込まれるぞ!」


 周囲が盛り上がる中、オレは片手を振り下ろした。

 そして、オレは片手をさっと魔物たちの群れに向けて放った!


「エクスプロージョン!」


 叫んだオレの片手からは爆風が――出なかった。


「ご、ゴーシュ隊長!? どうされたのですか!?」


 兵士が慌てた様子で叫ぶ。オレも同じ心境だ。

 な、なぜ魔法が出ない!? い、いや大丈夫だ。


「い、いや……その待て! もう一度やる!」


 オレは深呼吸をする。

 魔力は微精霊に吸われているんだ……!

 だから、確実に精霊魔法を放つ準備はできているんだ。


 焦りがじんわりと背中に汗を浮かばせる。

 しかし、オレはすぐに唇をぐっと噛み、もう一度同じように詠唱を始める。


「火の微精霊たちよ。わが魔力を糧に、火の魔法を授けたまえ……!」」


 紡いだオレの声は、震えているように感じた。いや、実際震えているんだ。

 緊張と、焦り……その二つから、オレの体は気持ち悪くなるほどの汗が浮かんでいた。


 魔力を籠め、周囲の微精霊たちにオレの魔力を与える。

 先ほど以上の魔力だ。

 これで、発動するはずだ……!

 願うようにオレは片手を振りおろした。


「エクスプロージョン!」


 いつもならば、オレのその声を吹き飛ばすほどの爆音が辺りを包むはずだった。

 しかし、オレの魔力だけが失われ、精霊魔法が発動することはなかった。


「ゴーシュ隊長! 街の門が!!」


 絶望している暇はなかった。

 隊員の一人が叫び、オレはすぐに顔をあげる。


 状況が変わっていた。門にひたすら体当たりを繰り返していた魔物たちが、街へと侵入していく。


「隊長! どうして精霊魔法を撃たないのですか!!」

「う、撃てないんだ! なぜか撃てないんだ!」


 オレだって聞きたいわ!

 オレの叫びに、騎士や精霊術師たちは絶望的な目を向けてきた。


「で、ではどうするのですか!? こ、このままでは街が――!」

「お、オレたちも援護に行きましょう! 何が出来るかわかりませんが、何もしないよりはマシです!」


 そう言ってきた騎士や精霊術師たちに、オレは首を横に振る。

 な、何を言っているんだこいつらは!


「あ、あんな大群に突っ込んだところで死ぬだけだぞ!」


 離れているここまで届くほどの声が、街から聞こえてきた。

 悲鳴や気合を入れるための雄たけび――これは魔物と人間の戦争だ。 

 空気が、大地が震えている。

 

 あんな場所に突っ込むなんて、馬鹿のすることだ。


「ですが! それでもここで見殺しには――!」


 なんて、馬鹿な奴らだ! これだから、命の価値の薄い人間たちは嫌いなんだ!


「行きたければおまえたちだけで行けばいいだろ!」

「え……?」

「オレはおまえたちとは違って選ばれた人間なんだ! 伯爵家のゴーシュ・リーストだぞ!? 貴様らのような平民や、下級貴族とは生まれが、育ちが違うんだ! 死にたければ勝手に行っていろ!」


 オレはそう叫び、すぐに馬を走らせた。

 向かう先は街ではなく、王都だ。


「そんな……!」


 訴えかけるような声がオレの背中に届いたが、知らない!

 オレは死にたくはないのだ。

 それに、国だってオレのような貴重な存在に生きていてほしいはずだ!


 今日はたまたま調子が悪いだけで、きっと明日にはエクスプロージョンが再び使えるはずだしな……っ!

 オレはぐっと唇を噛んでから、必死に馬を走らせ、王都へと帰還した。



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