第28話
そのまま外へ出て、宮廷内を歩いていく。
宮廷では忙しそうに下女たちが右に左に移動している。
それらを眺めていると、ファイランが軽く背中を伸ばした後、ある方角へと視線を向けた。
そちらは後宮の方だ。
「まず、後宮に行くわよ」
「え?」
予想外の発言に思わず聞き返す。精霊術師と一体どのような関係があるのだろうか?
「絶対に一人、覚えておく必要がある方がいるのよ。その方と会う約束もしてあるのよ」
「分かったけど、どんな人なの?」
「国王様の后候補の一人よ。名前は、シルビア様よ」
「候補の一人?」
「ええ。国王様には三人の后候補がいるのよ。后になるための条件は国にとってより優秀な子どもを生むこと」
「……もしも、優秀な子を生めなかったらどうなるの? それに、優秀ではないと判断された子は?」
「優秀な子を生めなかったら、さらに子どもを生むことになるか、他の王子たちに下賜されるかってところね。優秀ではない子どもも別に普通の貴族として育てられることになるわね。王族ではあるけれど、王位継承権は持たないっていうだけでね」
「……そうなんだ」
国を任されるような優秀な子ども、か。
子どもの段階からそうやって選別されるのは少しだけもやっとするものはあったけど、国を守るには仕方がないのかもしれない。
「身近な人でもいるわよ?」
「……え? そうなの?」
ファイランが悪戯っぽく笑う。
身近な人でいるとすれば、ファイランかベールド様くらいだと思う。
「もしかして、ベールド様?」
「ええ、そうよ。ベールド様も国王様の血を継いでいるのよ。もちろん、王位継承権は持たないけどね」
「そうなんだ。つまり、優秀ではない……?」
「優秀ではあったけれど、第五王子だったのよ。第一から第四までの王子に何かあったときは、代理に王座に就く可能性もあるけど……まあ、ほとんどありえない話ね」
……そうなんだ。
「ていうことは、あんまり冗談とかも言わないほうがいい?」
「いえ、全然大丈夫よ? ていうか、本人もその方が楽しそうよ? 女性に横柄な態度をとられることに喜びを見出すみたいなの。だから私はできるかぎり距離をとっているわね」
やっぱり変態だあの人。
「……」
「半分冗談よ?」
半分本気じゃん。
しばらく話しながら歩いていると、後宮エリアへとたどり着いた。
門を一つくぐるのだけど、その門をくぐってからは女性しかいなかった。
「女性ばっかり」
「後宮は基本的に男子禁制よ。男性で入れるのは王族の関係者のみってところね」
「……王族の関係者のみ。ベールド様は大丈夫なんだ」
「ええそうね。さて、こっちよ。ついてきて」
ファイランとともに後宮を歩いていく。
「……もう、街みたいに大きい」
「基本的にこの後宮内で生活が行えるようにしてるわね」
「そうなんだ。それにしても、人もたくさんいる」
「下女たちはこの後宮で住み込みをしているの。だから多く感じるんじゃない? 仕事じゃない人もいるわよ?」
なるほど。
ファイランの後をついていき、一つの建物へとついた。
他の建物よりも大きく、立派だ。
「ここが、これからお会いするシルビア様の屋敷になるわ」
「……後宮内に屋敷を持ってるんだ」
「そうね。国王様のお気に入りの子たちはみんな屋敷持ちよ。これまでの道順はしっかり覚えたわね?」
「うん、大丈夫」
「それじゃあ、早速会いに行きましょうか。中庭でお待ち頂いているはずだわ」
ファイランとともに屋敷をぐるりと周り、中庭へと向かう。
すると、テーブルとイスが用意されたそこに一人の女性がいた。
落ち着いたドレスに身を包んだ女性――。
女である私でさえも見とれてしまうほどの美貌の持ち主だった。彼女が、国王様のお気に入りなのだろうということはすぐに分かった。
その傍では侍女と思われるメイドがじっと静かに待機していた。
そのメイドも美しい。何より彼女は……強い。
シルビア様の護衛兼、使用人なんだと思う。
た、戦ってみたい。
いやいや、こんな場所で刀を抜くわけにはいかない。
「……ルクス。その闘争心、もう少し落ち着かせることはできないのか?」
うるさいティルガ。あとで顎下撫でまわしの刑だ。
私がファイランとともに歩いていくと、女性も気づいたようだ。
じっとこちらを見てくる。その凛々しい顔つきに思わず体が強張る。
そして、次の瞬間だった。
「あっ、久しぶりーファイランちゃん! 何々? その可愛い子が新しい子!? あっ、こっちにはワンちゃんも!」
「わ、ワンちゃんではない!」
目をキラキラと輝かせ、まるで子どものような無邪気さで私の方に顔を寄せてきた。
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