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第24話 

 これ以上やれば、どちらかが重傷を負うことになっていたかもしれない。

 ……ちょっと物足りない部分はあるけど、仕方ない。

 私は刀を鞘へとしまい、額の汗を拭った。

 そこでようやく気付いた。周囲の人たちが唖然とした顔でこちらを見ていたことを。


「あ、あの子……な、なんて動きなの」

「きゅ、宮廷精霊術師にあそこまで戦えるなんて……」

「あ、ありえないだろ……」


 そんな驚きの声が聞こえた中、はっと思いだす。

 これはあくまで試験だ。大事なのは合格したか否か。


「試験の結果は?」

「もちろん、合格よ。私とこれだけ戦えて、不満がある人はいないでしょう?」


 ファイランが周囲の受験者に問いかけるように言うと、皆が顔を伏せていた。

 もちろん、受験者たちの中にこの結果に口を挟む人はいなかった。


「7番ちゃん、初の合格者としてみんなに何か言ってあげたらどうかしら?」


 ファイランがとんと私の背中を押してくる。

 どういうこと? と私が振り返ると、ファイランがぼそりと言った。


「宮廷精霊術師っていうのはみんなの見本なの。士気をあげるっていうのも大事な仕事なの。初仕事、頑張って」


 ファイランがウインクして、再び私の背中を押す。

 え、ええ……。

 みんなの注目が集まったところで、私は困り果ててしまった。

 このような経験一度もない。さて、どうしよっかな……。


「みんな……この人たいして強くないから本気でやればなんとかなる」

「ちょっと何よその言い方は、失礼しちゃうわね」


 私が冗談まじりにそういうと、ファイランがぺしっと頭を叩いてきた。

 酷い。

 私が頭を押さえてじっと見ていると、受験者たちの方で僅かな笑いが生まれた。

 見れば、皆の表情が多少は緩んでいた。


「それじゃあ7番ちゃん。合格者には別室で色々やることあるから。あの人についていってね」


 ファイランが指さした先には私たちを控室からここまで案内してくれた人がいた。

 彼女が手招きをしていたので、私はこくりと頷いてからそちらへと向かう。

 その時だった。近くにいた気弱そうな女性がぺこりと頭を下げた。


「……わ、私も頑張ります……!」

「うん、頑張って」

 

 女性はぐっと拳を固め、それからすぐにファイランの前に向かった。

 次の受験者だったみたいだ。

 ファイランと女性が向かい合っている中、私は案内人の前で足を止めた。


「合格おめでとうございます。これから、身体検査などを行いますのでついてきていただけますか?」

「分かった」


 こくりと頷き、彼女とともに歩いていく。

 まだしばらくみんなの戦いを見ていたかったけど、仕方ない。

 先ほど声をかけてくれた子が受かってくれればと願うばかりだ。


「宮廷精霊術師には制服が支給されますが……あなたはどういったものがよいでしょうか?」


 案内人とともに建物内へと入ったところでそう声をかけられた。


「選べるの?」

「はい。いくつか素材がありまして、宮廷精霊術師を見たことはありますか?」

「まあ、一応……」


 私は第三師団を思い出す。といっても、ベールドとファイランだけだけど。

 二人はどちらも左胸に番号の入ったバッジをしていただけで服装はかなり自由だった。


「みんな色々着ていたから服装は自由なのかと思っていた」

「違いますよ。宮廷で仕事をする方には、我々が特殊な魔法礼装を作ることになっているんです。単純な防具としての機能と本人確認の意味がありますね」

「……なるほど」


 部屋に入った私は早速服を脱いでいく。彼女が私の体の採寸をとっていく。


「それでどのようなものが良いでしょうか? 何かこう、参考になる服装などがあれば……」

「北方の侍みたいな奴!」


 私は即座にそう答えた。すると彼女は考えるように顎に手を当てる。


「今身に着けている感じの色合いでよろしいでしょうか?」

「うん」


 私の服は白を基調としたものだ。侍っぽさがあると思って私が購入したのだけど、どうやら正確には、北方の巫女服を侍っぽく改造したものだそうだ。

 まあ、可愛らしくもあるから私は気に入っているんだけど。


「なるほど。承知いたしました。それでは、当日までに準備しましょう」

「うん、ありがと」

「いえいえ。これは私たちの仕事ですからね。これで確認は終了になります。この後はご自由にしてもらって大丈夫です。こちら、合格証になります。なくさないようにお願いしますね」

「……試験会場に戻って様子を見ていてもいいの?」

「はい、大丈夫です」


 彼女が手渡してきた合格証を受け取って廊下へと出た。

 試験はこれで終わりかぁ。

 若干の物足りなさもあるけど……仕方ない。

 とりあえず、試験会場に戻ってみんなの様子でも眺めてよう。

 そう思って歩いていると、ちょうど角を曲がったところで女性と鉢合わせる。


「わっ!? す、すみません! 大丈夫ですか!?」


 ぶつかりそうになったけど、私が咄嗟にかわしたので直撃しなかった。

 みれば、その子は…… 


「あれ? さっきの子?」

「う、うううん! あ、ああああなたのおかげで、その全力で戦えました……! あ、ありがとうございます!」


 彼女は手に札を持っていた。それを見た案内人が目を開いた。


「おお、合格したんですね。おめでとうございます! ささ、身体検査を行いますね! ふへへ、立派なものをお持ちのようで……!」

「ひぃぃ!」


 案内人がゲスな笑みを浮かべている。……確かに、今入ってきた彼女は大きな胸を持っていた。

 ……うん? 案内人さん、私の時と反応がまるで違う。

 なんと失礼な。確かに私はどちらかというと貧相な体だけど。

 少し思うところがありながらも、私はその場を後にした。


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