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第2話


 そして、私は12歳の誕生日を迎えた。

 扉の鍵は開いていて、久しぶりに外へと出ることができた。

 もう二度とあの地下に戻ることもないだろう。


 外に出ると、母とティーナ姉さんがいた。

 ティーナ姉さんは私の双子の姉だ。


「姉さん、来てたんだ」

「当たり前でしょ」


 ティーナ姉さんは今精霊術師になるために学園に通っていたはず。

 わざわざ私を見送るために来てくれたと思うと、嬉しかった。


 母が私の体を抱きしめた後、ティーナ姉さんも同じように私の体を抱きしめてくれた。

 私とほとんど変わらない顔と体。

 でも、私よりも少し肉付きは良いかな?


「良かったわ、ルクス……久しぶりね」

「ティーナ姉さんも久しぶり」

「ええ。本当はもっと早く来たかったんだけど、中々学園を抜けだす機会がなくて。なんとか隙をついてきたわ」

「……それは駄目」


 私はそう言うが、ティーナ姉さんはぺろりと誤魔化すように舌を出した。

 まったくもう。

 ティーナ姉さんは私と違って冗談を言うのが得意だ。

 双子、とはいってもティーナ姉さんは私の持っていないもののすべてを持っている。


「……今日で、最後、なのよね」

「うん……」

「……これからどうするの?」


 ティーナ姉さんはそう訊ねてきた。

 彼女は申し訳なさそうな様子で、そう言ってきた。


「私はとりあえず、冒険者として頑張る。そして侍になる」

「そっか……そうよね。……そんなあなたにプレゼントがあるの」


 ティーナ姉さんがそういうと、執事が布に包まれた何かを持ってきた。

 執事からそれを受け取ったティーナ姉さんがこちらに差し出して布をはいだ。

 ……それは、黒い鞘に入った一振りの刀だった。


「こ、これ……!」

 

 受け取った私はそれを鞘から抜いた。綺麗な波紋の刀身、確かな重みのあるそれに心が震えた。

 か、刀だ! 侍だよ!

 私の興奮は頂点に達していた。ティーナ姉さんをじっと見ると、彼女は照れ臭そうに頬をかいている。


「誕生日プレゼントよ。ごめんね? 今まで渡したことなかったでしょ?」

「……で、でもこんなの、お父様が怒る」

「私の稼いだお金で作ってもらった刀よ。誰にも文句は言わせないわ」


 そういってウインクしてきたティーナ姉さんに、私はこみ上げる涙をぐっと抑えて笑顔を返した。


「……ありがとう。大事にする」

 

 刀を握りしめると、ティーナ姉さんは嬉しそうに笑い、少し涙の浮かんだ顔でもう一度抱きしめてくれた。


「冒険者、頑張ってね? ……死なないように、気をつけてね」

「うん、ティーナ姉さんも精霊術師目指して……頑張って。……それに、この刀に恥じないような困っている人を助けられるようになる」

「……うん」


 ティーナ姉さんの体を抱きしめ返した後、私はその刀を腰に差した。

 それが終わったところで、部屋に別の女性たちが入ってきた。

 ……他の姉たちだ。私に気づくと、彼女らは露骨に表情をゆがめた。


「ちょっと、いい加減にしてくれないかしら?」

「そうだよ、ティーナ。そんなゴミに触れるのやめなよ」


 私たちの姉、二人がこちらを見ていた。確か側室の娘だった。

 ティーナ姉さんと同じで、宮廷精霊術師になるための鍛錬を積んでいるとか。


 ティーナ姉さんがむっとした様子で眉間を寄せる。

 私のために何か言えばその分ティーナ姉さんの立場が悪くなる。

 ティーナ姉さんが何かを言う前に、私はすっと頭を下げた。


「……今までお世話になりました」


 私がそういうと、彼女らはふんっと鼻をならした。


「ほんとよ!」

「あんたみたいな疫病神がいたせいで、私たちは試験に落ち続けたんだから!」

「もう、ほんと最悪! さっさと消えなさいよ!」


 二人の姉たちが私を追い払うように手を払った。

 言われなくても、これでお別れだ。


 私がすっと頭を下げ、部屋を立ち去ろうとした時だった。

 彼女らの後ろから、ぼてっと太った一人の男性がこちらへとやってきた。

 ……私の父ゴーラルだ。


「女、12歳になったな」


 そう声をかけてきた男性は穏やかな声をしていた。

 私の名前さえも呼ばない彼は、眉根を寄せている。

 威圧的な声と、これまでに何度も殴られてきた記憶で体が震える。

 それでも、私にとっては父親だ。


「……はい、お父様」


 父は笑顔とともに安堵の息を吐いた。


「貴様の父ではない。……とにかく、ようやく、貴様の顔を見なくて済むと思ったら清々するわ。さっさと家を出ていけ、この忌み子が」

「ええ、お父様の言う通りよ!」

「あなたのような人間、この家にはふさわしくないの! さっさと立ち去りなさい!」


 父に合わせ、そう言ってきた姉さんたち。

 ティーナ姉さんが何か言おうとしたようだったが、それで姉さんが傷つけられるのは嫌だったので、私は笑顔を浮かべて口を開いた。


「これまで育ててくれてありがとうございました。今日から私は、リーストの苗字を捨て、ただのルクスとして生きます」


 すっと父たちに頭を下げ、すぐに私は屋敷を去った。

 母と、姉さんにもう会えない。

 それは涙が出るほどに悲しかったけど。

 でも、もうこれで私を庇って二人が傷つけられることもないんだ。


 ……うん、だからこれでいいんだ。

 私は目元をごしごしと拭う。それでも少し歪んだままの景色の中を、歩いていく。

 そして冒険者登録を行い、冒険者としての活動を始めよう。


 私を慰めるように、たくさんの微精霊たちが私についてきた。


『もう、あの人たちの援助はしない!』

「……え?」

『ルクスのこと、虐めなくなると思ってたから手助けしてたのに、もう知らない!』

『あの人たちに魔力をもらっても精霊魔法なんて絶対用意しない!』


 どういうことだろうか? 私は少し首を傾げた。

 どちらにせよ、もう私には関係のないことだった。





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