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recollection  作者: 朝霧雪華
第 3 話 Amur adonis
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第 3 話 Amur adonis (5)

会社からの道すがらこれからの事を考える。

これからどうしようかと。

住む所はしばらくは問題はないだろうけど、次回の更新の際に保証会社の審査が通るかどうかと、今までは会社が住宅手当として家賃の2/3を負担してくれていたけど、これからはその負担もないし、手持ちのクレジットカード会社にも就職先の情報を正しく伝えなければならない。

そういうやらなければならない事の数々を考えると頭が痛くなる。無職な上に身元保証人となる人がいなければ詰みだ。

せめて次の職場がすぐに決まればとも思うのだが、今も不況を引きずっているこの国の経済状況だとなかなか難しい。〇〇ノミクスと言って政府は好景気だと言い張っているが実体経済は厳しい状態が続いている。

それならば、ゆっくりと心落ち着ける場所でのんびりと働きながら生活が送る事が出来れば―――。

あとは、一緒に住む事になった彼女の事を考えなければならない。彼女にとっても生活がしやすい所の方がいいだろう。その辺は話し合って決めなければ。


帰宅後、それとなくだけど引越しを考えている事を彼女に伝えた。彼女の返答は案外あっさりしたもので「何処にでもついて行きます。」の一言だけだった。

まさかな答えなだけに『えぇ?それでいいの??』になってしまった。『いーんです!』と某どこぞのクレジットカード会社のCMのような回答が来なかったのは救いだが。あんなボケされたら今の状況の僕にはどうツッコんでいいのかわからないし、彼女がそんな事をするタイプとは思えないから安心はしているが。どこぞの上司とどこぞの総務部長ならやりかねないけど。


翌日、こっちで一人暮らしを始めてからずっとお世話になっている不動産屋に出向いた。

会社を解雇されたのもあるし、これからの事を考えると一度話しておいた方がいいかもしれないと思ってだ。

幸い出向いたのが平日だった事と時期的に大学進学や就職による部屋探しをする人が一時的に落ち着くタイミングでもあったのもあって比較的空いていた。

店に着くと先代から店を引き継いだ若社長とその友達で一緒に店を切り盛りしている社員が出迎えてくれた。

ここの不動産屋は先代の社長の頃からの付き合いだし、僕がクビになった会社に就職してからはやっている仕事が仕事だった事もあり、先代社長から店のIT化の相談をされて出来る限りのIT化の協力とトラブル時の保守を任されているような付き合いをしている。そういう事もあってか比較的ラフな感じで対応してくれる。

「お、秋月さん、いらっしゃいー。何かあったんですか?」

「いや、実は引越しを考えていて。」

「うーん、それじゃ奥で詳しく聞いてもいいですか?」

若社長はそういって奥のカウンタ席に案内してくれた。基本的に奥のカウンタ席は管理を依頼されている大家や取引の多い不動産屋との打合せに使うか、客が多過ぎて対応しきれない時に使う程度の場所で、落ち着いて話せる場所でもある。

席に着き、出されたお茶を飲んで一息をつかせてもらってから僕は話を切り出した。今まで起こった事を掻い摘んで話していい部分を選んで。

「そうでしたか。それで、次に住む所は考えているんですか?」

「それが、大雑把にしか。ゆっくりと心落ち着ける場所でのんびりと暮らしたいっていうぐらいで。出来れば湖とか海とか眺めたり出来るようなとこがいいんですが。」

僕がそう答えると若社長と社員をしている社長の友人が考えこみ始めた。

暫し考え込んだ後、そういえばという感じで社長の友人が切り出した。

「そういえば、うちで扱っている物件の大家さんに大きな湖の前にペンションのような物件持ってる人いませんでしたっけ?」

若社長もそれを聞いて何かを思い出したようで「ああ、そういえば」と呟くとパソコンで地図を開き何かを調べ始めた。

「ああ、あった。秋月さん、ちょっといいですか?初夏から秋の時期は混雑しやすい観光地ではあるのですが、この辺とかってどうでしょ?」

パソコンの画面を覗き込むと、そこには今住んでいる街から電車とバスを乗り継いで3時間程度の場所にある有名な観光地のストリートビューが映し出されている。

「ここって・・・。世界的に有名な観光地じゃないですか。こんなとこに物件持っているって・・・。」

僕が驚き戸惑いながらも食い入るように画面をみているのをみていた若社長は『やはり食いついたか』という顔をする。

「えぇ、そうです。うちで管理している物件の大家さんの持ち物のひとつなんですけど、どうします?ここでよければ大家さんに聞いてみますけど。」

完全に僕の思考は若社長に読まれているかも知れない。長い付き合いだし、どういうとこがいいのかは良く把握しているだろうし。ここはこの提案に乗るしかない。

「お願いします。これって賃貸物件なのですか?それとも販売物件ですか??」

僕としては保証人の問題を考えると賃貸よりは価格次第では購入してしまってもいいと思い始めていた。そうあのお金をこの際だから使うのも一つの方法なのだから。

「うぅ~ん、それが聞いてみないとわからないんだよ。ここの持ち主の大家さん、結構高齢だからどうするか悩んでいるらしくて。元々は本人が老後の隠居先として考えていたようなんだけど、奥さんが身動き取れなくなって結局はこの街から出ていくのが難しくなって持て余していると言っていたからね。」

若社長は頭を掻きながらどうしようかなーという顔をしていたのだが、僕が真剣に考えているのを察してくれてか「時間はかかるかもしれないけれど、確認とかしてみるよ。」と言って連絡をとってみてくれたのだが、その時は連絡がつかなかったようで、また時間や日を見て連絡をし、何か動きがあれば連絡をするからとの約束を貰えたので、店を後にして家に帰る事にした。

お読みいただきありがとうございます。

続きの「第 3 話 Amur adonis (6)」は2020/05/16 13:00頃公開します。

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