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recollection  作者: 朝霧雪華
第 3 話 Amur adonis
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第 3 話 Amur adonis (3)

◇◆◇◆◇◆◇◆


 窓から清々しい光が差し込んでいる。

その日の光の眩しさに僕は目を覚ます。『ああ、朝か。準備して仕事行かないと』寝ぼけ眼をし半分まだ寝かけている頭のまま、起き上がろうとするが力が入らない。

そんなこんなで寝起きのボケとしかいいようのないような事をしていると声をかけられた。

「おはようございます・・・って大丈夫ですか?!」

その声に驚き、一気に目が覚めた。ああ、ここは病院だったんだと。

多分、点滴などがまだ繋がれている状態の僕が朝から起き上がろうとして仕事に行こうなんて行動をしだしたのをみてしまった彼女の方が一番驚いただろう。

思わず「あ、ごめん・・・おはよう・・・」と朝から間の抜けた挨拶をしてしまった。

朝からなんて事をしてしまったんだろうと思いつつも慣習づいた行動だけにやってしまったものは仕方ないと諦める。

僕がそんな感じで朝からシュンとしていると、彼女は苦笑いをしながら「無理はしないでくださいね。」と優しく微笑んでくれた。


 この日から退院に向けての検査やリハビリが始まった。朝のドクターの回診の際に点滴などが外され、意識を失っていた期間が2週間もあると筋力も落ちているだろうからという事もあって理学療法士によるリハビリが組み込まれている。

身の回りの事は、意識を失っていた間と同じように彼女が行っていてくれたのもあってリハビリに集中できたのもあって、思っていたよりも早く退院できそうだ。

そして、改めて気がつかされたのは彼女―――ベル・ツァイトの存在。一人で全てをやらざるおえない入院生活になってしまっていたとしたら、どれだけ大変だったのかと思う。

救急車で搬送され、入院に必要な物の準備は一切できていない上に、2週間も意識を失ったままの状態が続いた事を考えると今こうやってスムーズに退院に向けて事が進むのも彼女のお陰である。感謝しかない。

病院側の退院手続きの都合もあったのだが、意識を取り戻してから10日程で退院する事が出来た。

退院の日が決まった日には、上司の宮田部長に即座に連絡を入れ、出社を何時からにするか相談した。僕は退院した翌日からでもとは言っていたのだが、「退院した次の日に来る馬鹿が何処にいるって、そこにいるのか・・・」と呆られた上に怒られ、退院後3日間は自宅療養し、4日目から出社する事が決まった。その時は何も考えずに出社日を決めていたのだが、後になって3日間の休みを貰えて良かったと実感させられた。そう、彼女の今後の事を考えるのを忘れていて、3日間を彼女が住むのに必要な物を揃えるのに費やしたからである。

ここまで言えばわかるとは思うが、退院の日程が決まった日に彼女と話し合い、お互いに身寄りもない事だし、何処に行けばわからないならって事で一緒に住む事になった。

今住んでいるマンションも一人で住むには無駄に広い部屋を借りてしまったと思っていただけに、部屋は余っているし。流石に一人で2LDKを借りたのは失敗したと思ってはいたのだけれど。借りた時は『ホームシアター組むぞー』とかそんなノリだった気がする。セキュリティ面を考慮した結果が2LDK以上の物件しかなかったのもあったけど。


 退院後の3日間はあっという間だった。彼女と色々なお店に行っては必要な物を買い揃える。それの繰り返し。

一緒に必要な物を探すのがこんなに楽しいものなのかというのを初めて経験したような気がする。彼女も彼女で異国でのショッピングは楽しかったようで笑顔を絶やさないでいた。

ただ、正直な事を言うと入院にかかった費用と今回の買い物でかかった費用で3桁万は支払いに使える魔法カード(クレジットカード)を常に持ち歩いていたから助かったようなものの、支払いの事を考えると少々頭が痛いのも事実。日々の生活にかかる光熱費や通信料などもカードに請求がきているから、来月末に届く請求書が恐ろしい。

入院に関しては会社の勧めで入っている生命保険(入院・給与保障・死亡保険などがセットになっている)から給付金がでるから少々の自己負担がでるぐらいで済むからいいとして、入院期間中は欠勤扱いになっているようならば、減額された給与での支給になるのは確実だろうし。その辺は出勤してから宮田部長や永岡部長に確認せねば。

まあ、一応無駄遣いせず貯めておいたお金があるから、大丈夫ではあるのだけれど。最悪は手をつけたくはない貯金を使うというのもあるが。あれを使うとしたらよほどの事が起きた時だ。


 退院後4日目。この日から出勤だ。

この日から朝の風景が変わった。何時もは一人で何も言わず出て行くのだが、この日からは見送ってくれる人がいるからだ。

「いってきます」と声をかけから家を出て会社へ向う。

何時もの時間の何時もの通勤のハズだが、この日は違う気分だった。久しぶりの出勤であり、多方面に迷惑をかけてしまってるのは確実だから謝らないといけないなと思いつつも、見送ってくれる人がいるのってこんな感じなんだという初めて味わったのが大きく、その新鮮さを喜んでいる僕がいたからだと思う。

ただ、この時の僕は出勤した後に待ち構える事態を予測できていなかった。その兆候がある事は聞いていたハズなのに。


 会社に到着し、自分のデスクに荷物を置くと、その足で一番迷惑をかけてしまった直属の上司である宮田部長を探しに社内を歩き回った。

ちょうど休憩室に差し掛かった時、休憩室の中から聞きなれた声がする。宮田部長と永岡部長が中で何やら話してるようだ。

話の邪魔にならないようにタイミングを見計らい、会話が終わったと思われるタイミングで中に入る。そして、中にいる二人に謝った。

「無事退院してきました。この度は、ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございません。」

「いや、大丈夫だよ。それより身体の具合はどうだ?」

宮田部長は相変わらず心配そうにして声をかけてくれた。

「はい、病院でみっちりリハビリ受けてきたのでなんとか。」

「それならよかった。ただ、ぶっ倒れる前のような事はするなよ。」

僕は苦笑いをしながら「はい」と答えると、「ヨシヨシ」と頭をぐちゃぐちゃにする勢いで撫でまわされた。

その様子をみていた永岡部長は『何時ものじゃれ合いだなー』という顔をしながら笑っている。

「無事そうでなにより。ただ、やっと復活してくれたばかりだというのに、謝らなければならない事があるのだが・・・。」

永岡部長の顔が一瞬で気まずそうになる。

「すまん、あの馬鹿が案の定動き出した。今日の午後辺りこっちに来るかもしれん。俺や宮田さんで社長には現状を全て伝えておいたのだが、あの馬鹿の取巻きの経理の菊元が大騒ぎしてな、面倒な事になってしまっているんだ。」

恐れていた事が起きたのだろう。経理の菊元部長はあのドラ息子の取巻きの最重要人物の一人であり、会社の金の流れを全て把握している厄介な人物だ。そして、宮田部長や永岡部長にとっても厄介な存在であり、何かにつけてはこの二人を貶めようと画策する面倒な人物でもある。

なによりも一番面倒なのはこの菊元部長が動き出すと社長も折れないとならなくなる所だろう。なにせ、会社の金の流れを把握し握っている以上、どのような会社にもある知られたくない金の流れをライバル会社やメディアに流すような事をされたら会社はどうなるか分からないし、働いている従業員も路頭に迷う事になる。

永岡部長の顔の曇り具合をみると、かなり不味い事が起きるかもしれないというのは予測が出来た。僕だけではなく、宮田部長や永岡部長の身辺にも大きく影響するような事になるだろうと。

この予測は見事に的中した。その日の午後、揚々とあのドラ息子が現れた事によって。

お読みいただきありがとうございます。

続きの「第 3 話 Amur adonis (4)」は2020/05/16 11:00頃公開します。

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