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recollection  作者: 朝霧雪華
第 3 話 Amur adonis
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第 3 話 Amur adonis (2)

その後、親が帰ってない事を願いながら家に帰ったのだが、その日は運よくバレておらず、また窓から家に入って部屋で勉強していたふりをしていた。

その日から、度々家を抜け出してはあの公園で彼女が来る事を待っていたのは言うまでもない。彼女と約束をしたのだから。

ただ、来る日も来る日も彼女を見かける事も見つける事も出来なかった。

また逢えたらいいな―――という淡い気持ちを持ち続けたまま、抜け出し続けていたある日の事、遂に僕が公園へ行っている事が親にバレてしまった。

バレてしまったその日の夜は、大荒れに大荒れしたのは言うまでもない。深夜遅くまで轟く怒号と顔が腫れ上がるまで叩かれ続け、翌日は幼稚園に登園できないほどボロボロにされた。

その日以降、僕は外出禁止令を出され、常に何処にいるかの監視の為にキッズケータイを与えられGPSで監視され続けるようになった。

そのトラウマが後に僕の運命を決める事になるとは当時は思ってもいなかった。


外出禁止令が出されてからは大人しくし続け(ボロボロにされたトラウマからでもあったが)、難関小学校、難関中学校と進んだ。

それ以外の選択肢はすべて両親によってふさがれてしまっていたというのも大きい。ちょうど高校への進学を決めないとならなくなった時期に、担任からふとした提案をもらった事で僕なりの逃げ道を見つけたのがこの頃だ。

『この国の最高峰の大学や海外の有名大学を目指すなら、地元の進学校に進学せずに大都市の進学校目指した方がいいんじゃないのかい?君の成績なら可能だと思うから。』

この提案は僕にとって衝撃的であった。あの両親の元から離れる(逃げる)チャンス。担任からも言いくるめてもらえれば、親が手出しできない所で一人で生活できる。それが分かった瞬間、断然にやる気がでた。いや、その道しかないと思い必死になった。

幸い、僕には3歳年下の弟がおり、両親は僕に対しての態度とは異なり弟の事は溺愛している。両親曰く『弟は最終的にはこの家を出ていく存在なのだから、必死に頑張ればいいのはお前だけだ。お前はこの家を継いで繁栄させ続けなければならない責務があるんだ。』と無責任なほどに言っていた。

ましてや弟は僕よりも頭もよければ要領もよかったのも大きい。僕とは違い普通の幼稚園に入り、地元の小学校に進んで友達も多くいる。勉強漬けにされていた僕とは全く異なる存在。何かにつけては優秀な弟と比較され(比較と言っても、初めから僕の方はマイナス評価からスタートだが)、その度に出来が悪いから猛勉強させらているのを理解しろ、お前は出来て当たり前と言われ続けてきたのもある。


担任から言われた提案を親に飲ませるのにはかなり苦労したが、担任の最後の一押しのお陰で親が腹をくくった瞬間は内心やった!と叫んでしまったほどだった。

とどめになったのは担任のこの一言だろう。

「地元の進学校の最高峰と言われている大学への進学率と、大都市の進学校での進学率を良く見比べてください。倍近い差があります。この差は学校の指導力の違いもありますが、一番は環境の違いが大きいのでしょう。彼をこの国の最高峰の大学程度のところで済ますぐらいであれば、海外の有名大学にすら進む事のできる環境で学ばせる事こそ大切なのではないですか?」

あの親の事だ、自分のちっぽけな見栄や野望の為にもこの提案は大きかったのだろう。

僕自身も必死になって勉強し親の手が中々届かない大都市の進学校に逃げたいという気持ちが大き過ぎたのもあって、受験者の中で最上位に近い位置で入学を決める事ができたお陰もあってか、親の機嫌もよく、学校の近くにアパートを借り、中学を卒業してからは、その地に慣れるためにと言って念願の一人暮らしを始められた。

親元から離れられた安心感からだろうか、この頃から良く笑うようになったし、友達の作り方を覚えたような気がする。中学までは学校に行っても友達は居なかったし、常に一人で居る事が多かったのもあった僕にとっては大きな進歩だ。

無事に高校も卒業し、国内最高峰と言われる大学へも入学でき、親元に戻らないとならないという状況は回避し続ける事が出来たのだが、2年の秋に世界的な投資会社の破綻によって引き起こされた連鎖倒産による大恐慌が起きた。

この時ばかりは来年から始まる就職活動へどのような影響があるのかと恐れていた。就職に失敗し、親元に戻されるという恐怖は避けたかったから。

この状況で親元に戻されたら待っている道は身の破滅。もう、あの家族の中に僕の居場所があるかといえば無いだろう。

絶対にあの親元に帰りたくない、その為には伝手やコネを作り絶対に回避する。その為に出来る事は全てやる。その意志をもって頑張ってはみたものの、就職活動は難航を極めた。

思った以上に大恐慌の影響が大きく、しかも、時の政権の対応は後手後手な上に杜撰だった事もあり、公務員への就職すらままならない状況。

何社も落とされ、通称お祈りされるだけの不幸の手紙と呼ばれる不採用通知を何十通と貰った。そんな中、僕の採用を決めてくれた会社と人達―――それが今の勤め先であり、直属の上司と総務部長の二人。


そんな今までの記憶を呼び起こさせるような夢。

まるで走馬灯のように過去から今までを振り返っているような気分。

懐かしくもあり、苦々しいキヲク。

ふと子供の頃の僕にとっての大切な思い出であり初めての友達ともいえる存在だった彼女が今はどうしているのだろうと思った。

幸せであって欲しいと思うし、願っている。

ただ、そんな存在のハズなのに、彼女の顔を思い出せない。淡くセピア色で覆われどんな髪の色だったか、どんな服の色だったかわからない。それ以外にも何か感じた事があったが思い出せない―――あの思いキヲクは僕にとっての大切なもののハズなのに。


お読みいただきありがとうございます。

続きの「第 3 話 Amur adonis (3)」は2020/05/16 10:00頃公開します。

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