第 9 話 Bindweed (4)
そんな仲間達がいてくれたお陰で私の高校生活は充実したものであった。
一部の友達はその後に進学する大学も同じで、大学内でも同じような趣味の友達を作ってその輪はどんどんと広がっていったある日の事だ。
大学に入ってから、出来た友達からある提案を受けた。
「そういえば、美琴ちゃんって小説とか趣味で書いているんでしょ?それをさネットに投稿してみたら面白いんじゃない?」
私の書いた物なんて、せいぜい見せても親しい友達だけでいいと思っていただけにこの提案を受け入れるのはなかなか難しいものでしかなかった。
「私の書いた物なんて面白くないし、人に見せられるものじゃないよ。だから、無理だよー。」
「そんな事ないんじゃないかな?一度、投稿してみようよ。きっと面白いかも知れないし。」
この提案をしてきた友達はちょっと強引なトコがあって、なかなか折れるという事がなく、どうやって説得しようかと必死に悩んでいると、話を聞いていた別の友達も面白がって私に同様に勧め始めた。
最終的には3対1の力関係になってしまい、私が折れる事となり、この日から少しずつ書いてきた物をネットに投稿するのがはじまった。
最初のうちは誰も読んでいないようで、ほっと一安心をしていたのだけれど、ただ、その一安心は何時までも続くものではなかった。
誰が拡散したのかは分からない。ある時を境に、私はおかしな人達からネット上で絡まれる身になってしまっていた。
相手はどんなつもりで絡んできたのかは知らない。最初のうちは、何か変な人いるなーぐらいではあったのだけど、ある件をきっかけに私のSNSアカウントがバレてしまい、そこから私がどういう人なのかが知れてしまってから今の状況に陥ってしまった。
確かSNSバレしてしまったのは、私が投稿時に使っている名前とSNSで使っている名前を同じにしてしまっていたのが原因だったと思う。
どうやって調べたのかは知らない。私にとってSNSは友達と連絡を取ったりコミュニケーションする為のツールでしかなかったのだけど、その日から地獄のツールとなってしまった。
最初のうちは無視を続けていたのだけど、無視をすればするほど、相手の人達の態度は大きくなっていった。
「なんで無視するんだ!俺のような一流が声をかけてやっているのに!」
何に対して一流なのかは知らない。そんな事を言われる筋合いはないし、私にとってはただの知らない人でしかない。
「せっかく、声をかけてやっているのに。俺にかかればキミはスターダムに登れるのに。無視するなんていい度胸だねー」
私はそんなものは求めてない。ただ、私は自分が書きたかったもの、描きたかったものを書いてきただけだ。
「ボクみたいな本を出している人に認められるなんてキミ凄いねー。ボクに付き合ってくれれば、いい事起きるよー。」
今の時代、本を出している事がステータスになるとは思っていない。本の出版方法なんていくらでもあるのだから。それは同人誌かもしれないし、一部の有名出版社もやっている自費出版かもしれない。今は違う大学に通っているけれど、千乃ちゃんはアルバイトで広告代理店で働いているのもあって、彼女からその辺の裏事情は色々と聞いたりもしている。
千乃ちゃん曰く、「本当の一流と言える人達は、それだけで食べていける人達じゃないかな。」と言っていた。この意見には私も同じだ。
今通っている大学の客員教授の中にはその道のプロの人達がいる。その人達の講義を聞いていても、その道を究めるまでの大変さや苦労などを、授業中に脱線して語ってくれるがあったりしたので、感じる事が出来ていた。
だからこそ、私にこう言う事を投げかけてくる人達は一体何なんだろうと疑問に思いつつも、無視をし続けていた。
ただ、その無視を続けるという行為が、そういう人達の癇に障ったのか、私への罵詈雑言は次第に強くなっていった。
時には、心無い罵詈雑言を投げられる事もあった。
「お前の描く世界は、劣化コピーだ!」
「お前の書く話は、誰々のコピーだ!」
「お前の言葉は、説得力がない!」
「お前はこの世界に存在しちゃいけないんだ!」
こんなのは序の口。セクハラめいた脅迫も多々あった。日に日に悪化する嫌がらせめいたモノを見るのが嫌になり、相手をブロックするようにしてはいたのだけど、ブロックをしたらしたで新たなアカウントを作って嫌がらせをしてくるようになり、私のメンタルはどんどんと削られていくばかりだ。
私は何の為にいるのだろう。私は何の為にこんな事をしているのだろう。私は何の為に存在しているのだろう―――これじゃ小学生の時と変わらない。まるで私が存在してはいけないのではないかと思うほど、心は追い詰めらていた。
私は何故、ここにいるのだろう―――そう思った時だった。
「自分の好きなようにしたらいいんじゃないかな?その方が美琴らしいと思うよ。」
ああ、これは千乃ちゃんの声だ。高校の時、私が落ち込んでいた時に彼女に言われた言葉だ。
「美琴は美琴らしくいた方がいいよ。その方が一緒にいて楽しいし。」
何度も私がくじけそうになって一人で泣いていた時に、一緒にいてくれた彼女の言葉。それが私の中で木霊している。
「人は人、自分は自分。それでいいじゃない。誰が何を言おうと、美琴が頑張っているのは私が知っているもの。それに、この学校に入って美琴の事をそういう風に言う人いないでしょ?だから、自信持っていいと思うよ。」
そうだ、そうだよね・・・私は一人じゃないんだ。一人で抱え込んでしまっていたけど、こういう時に頼れる友達がいるんだった。
なぜ、私は今までそれを忘れていたのだろう。なぜ、私は見失っていたのだろう。
今起きている事、今苦しんでいる事、一人で抱え込まずに話せる人達がいる。
そういう人達に今は囲まれて私は生きているんだった。
私は何の為に物書きをしているのか。冷静に自分自身に対して問いただしはじめた。
何の為に書いているのか?―――喜んでくれる人がいるから。けど、本当は自分自身のためでもある。自分の描きたい世界を自分が見てみたい世界を描いているのだから。
何の為に努力しているの?―――人の喜ぶ笑顔が見たいから。けど、本当は自分自身が書き上がった時の喜びを感じたいから。やってやったぞーって気分になりたいから。
どうして?―――私が出来る事で人を楽しませられるならいいかなって。けど、本当は自分自身を知りたいから。これは私なりの自分自身との対話。書く事で私自身を見つめたいから。
何の為に?―――悲しんでいる人、苦しんでいる人が少しでも笑顔になれたらいいなって。私の方法で絆創膏や傷薬を作れたらいいなって。けど、本当はそれは自分自身の傷を癒す為。自分自身と同じ傷を背負っている人がいたら、貴方だけじゃないよと言いながら、私以外にも同じ傷を背負う人がいて、こうやって頑張っているのだから、私も頑張らないとって励ますためにも。
それならどうすればいい?―――おかしな人達の対処は私には出来ないなら、しかるべき人達に対処をお願いすればいい。私は私の為に、私はみんなの為に私が出来る事をすればいいのだから。
―――もう迷う事はない。もう、恐れる事はない。もう何も恐くない。
きっと、明日は明日の風が吹くのだから。
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続きの「第 9 話 Bindweed (5)」は2020/08/31 00:00頃公開します。




