第 9 話 Bindweed (3)
あの出会いがなければ、友達すら出来たか怪しいかったかもしれない。
私に感想をくれる人もアドバイスをくれる人も、みんな趣味で物書きをしていた。ジャンルは違えど、やっている事も違えど、みんな何かを考えて作るのが好きな人達だった。
そんな人達だからこそ、私も心を少しずつ開いていった。感想をくれる人やアドバイスをくれる人が作ったモノにも私なりの感想など伝えるようにして、お互いの理解や考え方の違いなど色々と深める事が出来た。そういう交流があったからこそ、知らない世界を、まだ見ぬ世界を知る機会を獲られた。
私の知識の源はあの人達のお陰で掘り起こして貰えたのだと思う。
その頃から、少しずつだけど、今のスタイルの物書きが始まったのかも知れない。完全にキッカケをくれたのは彼女との出会いだ。
それは高校に入って学校生活になれたある日の事だった。
「そういえばさ、美琴はどんなジャンルの物が好きなの?漫画?小説?」
「え、急にどうしたの?千乃ちゃん。」
「いや、なんとなくなんだけど、この学校選ぶ人って、そういうモノ好きな人多いからね。ここってそういうの自由にやらせてくれる学校だし。」
入学した当初、私はこの学校に集まる人達がどんなタイプの人が多いかなんて気にしていなかった。元々、私の学力で入れて制服が可愛い学校がいいなーって感じで選んだ所があったからだ。
「そうなんだ。私さ、この学校選んだ理由って特にはなくて。学力で入れる学校ってなってたし。」
「えっ?そうなの?てっきり、将来の事を考えて選んだんだと思ったよ。美琴ってなんかさ話してて思ったんだけど、物書くのとか好きそうだなーって。」
「う~ん、実はそんなに好きじゃないかも。小さい頃、嫌な経験しちゃってて。」
正直に私が経験した過去の話をすると、千乃ちゃんは、真剣な眼差しで話を聞き続けてくれて、話が終わると同時にこう言ってくれた。
「それってさ、美琴が悪い事じゃないよ。単なるクラスメイトや保護者の嫉妬でしかないんじゃないかな。きっと美琴が持つ感性とか表現力が羨ましくて、妬ましくてそういう事をして潰そうとしたんだと思うよ。この国ってさ、そういう出る杭は打たれるって感じで酷い事する人達多いし。」
ここまで私ははっきりと言われた事がなかっただけに、この言葉はとても私の心に響いた。誰も私の味方になってくれない、そう思い続けて、常に人の顔色をみるようになっていた私には見えていなかった事だっただけに。
「そうなのかな・・・。ごめん、私にはわからなくて。ずっと傷つけられないようにって自分の事を守るのに精一杯になってたし。」
「そうなのかなじゃなくて、そうなの。美琴、何でもいいから書いてみて。書いたら見せてよ。」
きっと、彼女の後押しがなければ、始まらなかったと思う。
「・・・期待はしないでね。時間はかかるかも知れないけど。」
「待ってる。美琴がどんなの作るか見たいし。何時までも待ってるから完成したら真っ先に見せて。」
「わかった。約束するね。」
「うん、絶対の約束だから!破ったら怒るよ?!」
にこにこと笑いながら冗談ぽくいう千乃ちゃんの言葉はそれだけ私が動き出すだけの必要なきっかけを与えてくれた。まずは彼女の為に何か書こう。そこから私の物書きは新たなスタートになった。
・・・なったと言いたいとこだけど、最初から実は躓いた。正直、彼女が何を書いたら喜ぶのか分からなくて1週間ほど悩み続けてしまっていたからだ。
流石にこのままでは埒が明かない思った私は、思わず千乃ちゃんに聞いてしまった。
「千乃ちゃん、書くのはいいのだけど、どんなの書いて欲しいの?」
私の質問に彼女はぇ?!と言う顔し、呆気に取られていた。
「え?!どんなのって。美琴ちゃんが書きたいモノ、美琴ちゃんが読みたいモノを書いてくれればいいよ。それ以外は望まないからね?」
「そっか。わかった。頑張ってみる。」
「うん、頑張れ!頑張ったら何かご褒美あげるから。」
ケラケラと笑いながら言ってくれる彼女がくれるご褒美ってなんだろうと思いつつも、私が書きたいモノ、読みたいモノって何だろうと新たな疑問が生まれてしまって、暫くの間、悩んでしまっていた。
ただ、このままじゃ今までと変わらないじゃんと思った私は、なんとなくではあったのだけど、昔から興味があった人の心理に関わる事を題材に書き始めてみる事にした。
最初は、どう書けばいいのか悩んではいたのだけど、思い切って私自身の小学校時代の経験談を元にして、少しの嘘・・・というか創作をいれたフィクションにする事で一気にどう書いたらいいのかが分かって面白いぐらい筆が進みまくる。
物書きってこんなに楽しいんだ・・・そう思えて仕方ない。あんなに苦労して書いていた小中学生の頃は何だったんだろうと思うほどに。それだけ、抑圧されてきたんだとこの時、私は気がつかされた。抑圧され続けた結果が、私が壊れるキッカケになっていたのだ。
多分、これを書き終わった後、彼女に聞けばこう答えるかも知れない。
物を書く事、物を作る事、物を描く事って自分自身の表現なんじゃないの?って。自らを表現できなければ、何も伝えられないよって。きっとそう答えるハズ。
私はその答えを確かめたくて、自らの考えが間違っていないか確認したくて、気がつくと一生懸命書き進めていた。
千乃ちゃんとあの約束をして3週間。短編だけど、なんとか書き上げる事が出来た。これを読んだ彼女はどう思うのだろう。私は期待と不安に胸を膨らませながら書き上げたモノをもって学校へと登校した。
その日のお昼休み。何も言わず、千乃ちゃんに書き上げた原稿の入った封筒を渡した。
最初はそれが何なのかわからなくて、何時もの様子で笑いながら「え?私へラブレターでもくれるの?!」と言っていたのだけど、中身をみた彼女は目を輝かせながら、私に話しかけてきた。
「美琴、約束守ってくれたんだね。ありがとー。楽しみにしてたから、ゆっくり読ませてもらうね。」
「そんな面白いモノじゃないと思うよ。初めて書いたからどう感じるか分からないけど。」
少し照れ臭かったのだけど、嬉しそうにしている彼女をみていたら何も言う事は出来なかった。それと、これを書きながら思っていた事を聞く事にした。
そう、聞きたかった事とは、自分自身の表現という事だ。私がその質問をしてみると、千乃ちゃんはきょとんとした顔をしている。
「美琴、それって当たり前の事じゃないの?この学校を選ぶ人たちってそういうのを目指す人が多いのだから、その心構えって普通に持っているものだと思ってたのだけど。」
「え?ごめん、私はそんなの分からなくて・・・。」
「美琴さ、過去に遭った事は遭った事。もう、その人達とは関わらないで済んでいるのでしょ?それなら、せっかくこの学校に入ったんだから自分らしく行こうよ。」
言われてみれば、今までの私は私らしくなかったのかも知れない。私って一体何なんだろうと自分自身に問いかけても答えられないぐらい、私がいなかった。
どこから上の空というか、中身のない人の形をした何かでしかなかった。
そんな私が人らしく一歩を踏み出せたのがこれがキッカケだ。そして、千乃ちゃん以外にも同じような事が好きな友達がどんどん出来ていったのもこの頃からだ。
お読みいただきありがとうございます。
続きの「第 9 話 Bindweed (4)」は2020/08/29 00:00頃公開します。




