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recollection  作者: 朝霧雪華
第 9 話 Bindweed
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第 9 話 Bindweed (2)

 私が物書きを始めたのは何時の頃だったろう。

多分、きちんと書くようになったのは小学校に入学してそんなに経たない頃に、担任から地区か全国は分からないけれど、各学校に配布される本か何かに応募する作文の書くように勧められたのが始まりなハズだ。

400文字原稿用紙で5枚程度。「学校におけるいじめについて」が題材だったと思う。小学校に入ったばかりの私が何故選ばれたのかは分からないけれど、幼稚園の頃から一緒だった友達が入学した当初からいじめられているのをみて、庇ったりしているのを担任がみていたからかもしれない。

何度か友達をいじめているクラスメイトに向かって、担任が教室に入ってきたのも気づかずに怒鳴り散らしたりしてたのも一因だったのだと思う。最初のうちは、私が何故そのような事をしたのかは担任は知らずに私の事を怒りつけたけど、事実がわかってからは私に謝ってきた上で、友達をいじめていたクラスメイトを叱りつけてくれた。

あれ以来、派手ないじめは一時的には無くなったのだけど、その後は陰湿化していって、また何時の間にか派手ないじめへと変貌を遂げていったんだっけ。

私も私で、友達をいじめていたクラスメイトからターゲットにされる事が増え続けた。そんな事が、入学してほんの数週間の間で起きていたのだから、適任と思われて選ばれたのかも知れない。

クラスメイトが4時限の授業が終わり、給食を食べて帰りの会を終えて下校する中、私は毎日居残って必死に原稿用紙に向かって書いていた。

必死の思いで書き上げて、担任に提出すると、ここの表現はきついから別の表現に改め直すように細かい指示を受けて、何度も何度も書き直しをし続けた。書き直しし続けたのが原因で原稿用紙が破れて、新しい原稿用紙を貰っては書き直すの繰り返し。

その努力が実ったのかは分からないけれど、私が書いた物は本の一番最初とは言わないものの、10ページ以内の辺りに掲載される事になった。良くは覚えていないけれど、確か2番目ぐらいだったと思う。

その成果は、担任にとってもよほど嬉しかったのか、凄く褒められた気がする。

ただ、それは私にとっては新たな災いの始まりでしかなかった。

私が書いた物が本に掲載された。それは、一部のクラスメイトと一部の保護者にとっては、信じられない事であり、嘘であって欲しい事実だったのだと思う。本が学校中に配布され、クラスメイト達の目に留まるようになると、私への圧力のようなモノ・・・言ってしまえば、強烈ないじめと軽蔑が始まったのだから。

何の時だったかは忘れたけれど、一部のクラスメイトの保護者からも、私に聞こえるように嫌味を言われた。

「美琴ちゃんは、担任に取り入って本に載せてもらったらしいわねー。才能なんてない癖に、そういうとこだけは上手いなんて誰に似たんでしょうねー。」

「いじめなんて事実はないのに、あんな嘘を書いて本載せてもらえるなんて、親御さんはなんて教育をしてきたのかしら。将来は大物の詐欺師かしら?」

「うちの子の方が才能あるのに、あんなド田舎出身のご両親のどんくさい子がどうしたら本なんかに載せてもらえるのかしらね。きっとロクでもない事をしたのに違いないわ。」

こんな事を言われ続ければ、子供であっても、いや、子供だからこそ、深く取り返しのつかない傷を受けてしまう事を言っていた保護者達は知っていたのか知らずになのかは分からないがやられ続けた。

今も、この傷は私の何処かで消えずにある。無論、親がこんなであれば、その子供であるクラスメイトも同じような事をしてきた。

正直言って、学校に行くのが辛い日々ではあったのだが、このような事をされなくなったのは、ある事件がきっかけだったかと思う。

それはある日の休み時間、みんなで遊んでいた時の事だった。

私は突然ある遊具の上から突き落とされた。誰によってかは分からない。

落ちたのが2m近い高さの場所から落ちた事で、血塗れになり、周囲にいた私と仲の良かったクラスメイト達によって保健室に連れていかれ、応急処置はしてもらったものの、あまりにも出血が酷かったのもあって、そのまま病院へ搬送された。

落ちた時の打ち所が悪かったのもあり、私は顔を11針縫う大けがを負った。この事件が学校で問題になり、クラスにおいても犯人探しが始まり、保護者会においても大問題になり、ちょっとした大騒動になってしまったのだ。

「女の子なのに、顔に残るような傷を作らせるような事をした生徒がいる。落ちた場所が悪ければ首の骨を折っていたかも知れない。しかも、陰湿ないじめも起きていた。」

この事実は、私の学年の保護者よりもその上の学年の保護者達の怒りを相当買う事になったのだから。

それ以降、誰が犯人なのかは今も分かってはいないが、私が表立っていじめられる事はなくなった。相変わらず陰口は言われ続けたりはしたけれど、それでも直接私に聞こえるようには誰も言わないようになった。

一歩間違えれば死んでいたかも知れない事だっただけに、それだけの衝撃を与えたのだと思う。

ただ、あの経験のせいかもしれないが、それ以降、物を書く事に対して、何処か恐怖を覚えるようになってしまった。

担任は凄く評価してくれたのもあって、夏休みの課題や冬休みの課題となると、他の人には出されない作文と読書感想文の二つの課題を出してくれてはいたのだけど、それをこなすのがキツく感じて仕方なかった。

書けば書くほど、書き進めれば書き進めるほど、あの時の恐怖が私をどんどん染めていく。頭の中では、ずっとずっとあの時の罵詈雑言が巡り巡って幻聴のように聞こえ続けていたのだから。

それでも、課題だからこなして提出せねばという気持ちで必死になって書き進めて、提出していた。

ただ、あの件以降、私は何処か自分の言葉で物を書く、自分なりの考えで物を書くという事が出来なくなっていた。

常に他人の目を気にし、常に人の評価を気にし、傷つけられないようにと何処か怯えて暮らしていたと思う。

そのせいで、書く事に対しての嫌悪感を抱くようになってしまっていたほどだった。

何故、私は私らしくいたらいけないのだろう、何故、私は私の意見を述べたらいけないのだろう、何故、私が自我を持つ事が許されないのだろう―――そんな疑問を常に持ちながら、心の中で葛藤する日々。

その状況から打破出来たのは、高校生になって、地元を離れられた事によってだと思う。

高校進学の際に、地元の高校を選ばず、離れた地域にある学校を敢えて選んだ。そのような事をしたのは言うまでもない、地元に居続けたら私は壊れる、身の危険を感じるような事が中学時代にあったからだ。

今思い出しても、ぞっとするような事が何度も起きた中学時代、あえてここでは触れないし、正直言えば思い出したくもない。誰にでも分かりやすく言うならば、長期休みとなると誰が学校に侵入したのかは分からないが、校舎や体育館の全ての窓が割られ、壁にはスプレーによる悪戯書きが溢れる様な状態になっていたとだけ。これで、想像がつくだろう。

そんな環境に居続けたら、誰しも病むだけだ。私以外にも大人しく勉強のできた子達はこぞって離れた地域の高校へと進んでいった。多分、勉強が出来ない馬鹿なのに離れたのは私ぐらいだと思う。

新天地は、私にとっては天国であった。まるで今までが嘘だったと思いたくなるほど、180度世界が変わったのだから。

小中と嫌で嫌で仕方なかった物書きも、高校に入ってから少しずつ好きになっていった。一番の理由は、何故?!と言いたくなるような事で文句や嫌がらせを受けなくなったし、書いた物に対して、感想をくれる人やアドバイスをくれる人が多かった。今までの私にはこのように接してくれる人達がいるという事実は信じられずにいたし、そして、このようにしてくれる人達がいるという事実がとても嬉しくて、それまであった嫌な記憶が徐々に薄れていった。

捨てる神あれば拾う神あり。私にとってこの人達との出会いがなければ、きっと今へと繋がっていなかったと思う。

それぐらい、私の固く凍り付いた心を思考をほぐしてくれた。

お読みいただきありがとうございます。

続きの「第 9 話 Bindweed (3)」は2020/08/27 00:00頃公開します。

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