第 3 話 Amur adonis (1)
【ご注意】
作品の構成の都合上、一部の人にとってはトラウマを思い出させる事になるような描写があるかもしれません。
また、全てフィクションであり、登場人物、時代背景、起きた事件など全て実在するものではありません。
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第 3 話 Amur adonis
「また一緒に・・・ね・・・約束だよ・・・?」
少女はそう言うと夕暮れの街に消えて行った。淡く切ない子供の頃の記憶―――。
僕は幼い頃から、父の身代わりとして育てられた所がある。僕にとっての父は特にその傾向が強くて、父の思い通りに動かないと暴力や虐待で言う事を聞かせようとするような人だった。
母も母でそんな父に逆らえず、父のする事はすべて容認、時にはそんな父親に追随し、僕を庇ってくれる事はほぼなかった。
そんな父の夢は『この国を自分の考える理想郷にするために政治家になり、国のトップにたつ事』という途方もないものであり、父曰く、『没落貴族に生まれたばかりに苦労して俺は実現できなかったのだから、お前が俺の代わりにやるのが使命だ。その為にお前は生まれてきたのだ。そして、俺がお前の裏からこの国を変えてやるのだ!!』が口癖の人であった。
片田舎の地方都市でそんな野望を抱く父はある意味で可哀想な人だったのだと思う。その自我の強さが悪い方向に影響して、本社のある大都市からこのような片田舎の地方都市に左遷されてきたような人であったし。
どうやっても叶えるのは難しいものであるのに、それを叶えろと幼い頃からまるで僕は父のロボットのように、考える事も許されず、ただただ与えられた勉強や課題をこなすだけの存在。
将来のための投資と言って、幼稚園から英才教育を行う園に入れられ、友達という友達はおらず、ただただ毎日、親の顔色を見ながら怯えながら生きていた。
そんなある日の事だった。毎日親の言いつけを守って勉強をしていたりしたのが功を奏したのか、親の監視がなくなる時間が増えた。
幼心に『これはチャンス』と思って、玄関からではなく窓から家を抜け出し、近所の大きな公園に遊びに行った。
その公園はこの辺ではかなり大きく、大型プールがいくつもあるような複合施設や大きな池、釣り堀、森林の中にあるアスレチック場、花木園などが一ヵ所に集まっているような公園で休みの日となると周辺地域から人々が憩いの為に集まるような公園である。
近所であるのにも関わらず、一度も連れてきてもらえなかった僕にとってはとても新鮮な場所で、見るものすべてが楽しい存在。
公園の中に進むと、近所に住んでいると思う同年代の子達が楽しそうに遊んでいた。
『いいな・・・楽しそう、仲間に入りたいな。』と思いつつも、僕は仲間に入る事が出来なかった。正直言えば、どうやって入ればいいのか分からなかった。
幼稚園に入るまでも難関幼稚園だからと勉強と躾と称した洗脳教育をされ続けていたし、幼稚園に入ったら入ったで、基本的な集団行動は先生の指導の下に動くばかりでどうしていいのか分からなかった。幼稚園の通園バスやお昼の時に隣になる子とは話す事とかはしてたから出来るとは思ってはいたけど、一人で集団に飛び込むのは無理だと諦めていた。
楽しそうに遊ぶ子達を横目に見ながら公園内を歩いて行くと、僕と同じように一人で寂しそうに、集団で楽しく遊んでいる子達を見ている僕と同じぐらいの年齢の女の子を見つけた。
寂しい思いをしているのは僕だけじゃないんだ―――そんな思いになりながら、あの子となら話せそうと思った僕はその子のそばに歩み寄っていた。
その子のそばに近づくと僕は迷惑にならないようにそっと声をかけた。
「ねぇ、君も一人?」
「・・・うん。」
彼女は寂しそうな声でゆっくりと頷き答えた。
「そっか。僕も一人でどうしようかと思っていたんだけど・・・。」
「・・・あなたも一人?・・・私、ここに来るの初めてでどうしていいかわからなくて・・・」
「実は僕も・・・」
似た者同士だったのもあってか、少しずつ打ち解けていき、二人で遊びはじめていた。
初めは色々と話をしながら公園内を見て回って、面白そうな遊具を見つけると二人で近寄って遊び、疲れた頃にはベンチに座って彼女がやってみたいと言っていたおままごとをしたりして―――気がつくと日は傾き始め、少しずつ暗くなってきていた。
「そろそろ帰らないと」
僕がそう言うと彼女は寂しそうに頷く。
「うん・・・そうだね・・・。」
今まで一緒に遊んでいた時はとても嬉しそうにはにかんだり笑ったりしていた彼女が今にも泣き崩れそうな顔になっていた。
僕はそんな彼女を少しでも励ましたい、また、彼女と遊びたいと思い元気いっぱいにこう言った。
「今日は楽しかったよ!また一緒に遊ぼうよ!!」
その言葉を聞いた彼女は少しだけだったけど笑みが戻ったような気がした。
「・・・うん。」
彼女の声に力はなかったけれど、元気が出てくれたならそれでいい。そして続けざまに彼女は
「また一緒に・・・ね・・・約束だよ・・・?」
と言ったのと同時に、「チュッ」と僕の唇にキスをした。
―――一瞬何が起きたのか分からなかった。それがキスだと気がついた時には僕は顔面が真っ赤になっていたと思う。
真っ赤に火照った顔のまま、僕は彼女が夕暮れの街に消えて行くのを見送った。
お読みいただきありがとうございます。
続きの「第 3 話 Amur adonis (2)」は2020/05/16 08:00頃公開します。