【閑話】Rudbeckia (1)
【ご注意】
作品の構成の都合上、一部の人にとってはトラウマを思い出させる事になるような描写があるかもしれません。
また、全てフィクションであり、登場人物、時代背景、起きた事件など全て実在するものではありません。
1話辺りの文書量が多い話につきましては分割して投稿していきます。
次話の投稿につきましては筆者のTwitter ( @SekkaAsagiri ) または、下部コメント欄でご案内します。
(案内忘れも発生するかもしれませんが、お許しください。)
【閑話】Rudbeckia
私の正体は彼には絶対に言えない。私が何故この場所に来てしまったのかも。
それを知った時、彼はどう思うのだろう。私は本当はここには存在はしてならない者だけに。
◇◆◇◆◇◆◇◆
私がこの場所に来る事になったきっかけは突然の事だった。
何時ものように繰り返される日常の風景―――。
ここは全ての記憶と記録を司る場所。この場所が何時生まれたのかは私は知らない。この場所には無数の本が収容された図書館があり、その本達は、毎日毎日新しい記事が追加され成長していく。
成長しきった本は、書棚から床に落ち、書棚は新しい生まれたての本が来るのを今か今かと待ちわびている。
私の仕事は、この場所で成長しきった本を回収し、決められた場所に収容する事。その成長しきった本を収容する場所というのは、世界樹と言われる木の下にある大きな書棚で、そこに本を収容すると世界樹の中に吸収されていき、新たな本が生まれる。
そして、新しく生まれた本を図書館の決められた書棚に収め、成長を待つのが主な業務だ。これ以外にも、この世界に何本も生えている世界樹のうち、自分の担当として決められた木の手入れをするなどの仕事もある。そんな業務をこなす毎日。
私が幼かった頃は、他の人達が毎日このような業務をしているのを見ながら勉強をする日々だったように思う。この場所に生まれた者は、ある程度の年齢になると、一定の試験を受けた上で、どの分野に進むかが決められ、優秀者は一人で全ての業務を任されるようになるが、それ以外の人達は分担して業務をこなすような道へと進む事になる。
そんな変わった場所に私は生まれ、今までの時間を過ごしてきた。
そんなある日の事だった。
何時ものように、仕事をしていると、全員への同時通報アラームが鳴り響くと同時に、緊急通信のメッセージウィンドウが目の前に現れた。
「A-2地区に侵入者です!各自、侵入者への対応へ備えて準備をしてください!」
こんな事は今までなかっただけに、図書館内が騒めきだっている。私の知る限りでしかないが、数百年間はこのような事は起きた事はないハズ。先輩達からもそう教えられてきていたし、学校でもそう習ってきた。
私を含めて、今ここで働いている人達は、過去にどのような侵入者がいたのかなど、実際にどのような事が起きていたかを知る者は一人もいない。
世代交代を何度も繰り返し、全てを新しい世代が引き継いで、また次の世代へと引き継がれてきたこの場所に残っているのはそう言う事があったという事実と記録だけなのだから。
まさか、このような事が起きるなんて事を考えていなかった人達が殆どで、訓練では何度かやった事はあるのだけど、実際にとなるとその緊張感や緊迫感に誰しもが圧し潰されそうになっていた。
「侵入者についての追加情報、侵入者は1名、図書館区エリアへの向かったとの情報あり。各自、備えを忘れず、侵入者を発見した場合は報告と確保をお願いします。繰り返します―――」
追加で流れてきた情報に、館内にいる人達は慌てふためいている。
侵入者がここに向かっている。それを私達でどうにかしなければならない。
した事をない事を急にしないとならないという重荷は、館内にいる人達にとってとても辛いモノとなっていた。
「みんな、しっかりしないと!今までの訓練思い出して、焦らないで!!」
私は周囲にいる人達に思わず声をかけた。声をかけずには居られなかった。それだけ、みんな緊張しているのかそれともこれから起きる事に不安を感じているのか、空気が重苦しかったからだ。
「そ、そうですね。ベルお姉さまの言うとうりだわ!」
私の近くにいた人が声を上げると、みんな口々に同じような事を言いだした。これで少しはこの場は大丈夫だろう。
それに、私はこの図書館区エリアの責任者でもあるのだから、誰にも被害が及ばず、収容されている本にも被害がないようにしなければならない。
この広大な図書館区の何処に侵入者は現れるか分からない。この場を任せられる者に任せて、他の地区も確認をせねば。
まずは、何フロアかに別れている私以外の図書館区エリアの責任者を探し出して、情報共有と今後の対処を―――そう思った矢先、新たな情報が飛び込んできた。
「侵入者は図書館区エリア、L-3B地区に入ったとの目撃情報あり。至急対応を願います。繰り返します―――」
L-3B地区・・・私が担当するフロアのすぐ近くだ。気をつけなければ、このフロアにも侵入される可能性がある。ここは他の人達に任せて向かった方がいいだろう。
近場にいた仲間に、この場の守備を任せ、私は急いでL-3B地区へと向かう。
上手くエリア担当の人達と図書館区のエリア責任者が捕まえられていればいいのだけれど。
この広い図書館内を徒歩で移動するのは正直厳しい。通常なら管内の飛行は禁止されているのだが、非常事態なだけに、そんな事は言っていられない。私は翼を広げ、館内の上空を舞うように飛び、目的のエリアへと向かった。
飛行してきた甲斐があってか、L-3B地区にはほんの数分で辿り着く事が出来た。歩いていれば、数十分はかかる。まずはエリア責任者を探すためにコールをかけると、慌ただしそうにエリア担当者が出た。
「ベル、手伝いに来てくれたのね。助かるよ。」
「ウルお姉さま、状況は?」
「それが、何処に迷い込まれているのか全く見当がつかなくてね。必死に全員で手分けして侵入者を探しているのだけれど。」
話を聞く限り、状況は芳しくない。普通なら、エリアサーチを行えば、誰が何処にいるかや、おかしなモノがあればすぐにわかるハズなのにそれが出来ていない可能性が高い。
確認のために、エリアサーチを行ってみたのだが、表示されるのは、ウルお姉さまを筆頭に、このエリアの担当者達だけ。
思ったとうり、厄介な状況になっている。そうなると、今まで送られてきた情報はそうなると目撃情報によるものなのだろうか?
下手をすると侵入者はもう別の場所へ移動しているかも知れない。
私の担当エリアは平気なのだろうかと不安にさえなる。
ただ、私の担当エリアへ向かったとなったならば、通路で遭遇するハズだ。上から見下ろしてきたのだから、侵入者がいれば、嫌でも目に入る。
そんな事を考えながら、周囲を見渡していると、見知らぬ人影を見つけてしまったのであった。
多分、アレが侵入者なのだろうか?念のため、ウルお姉さまへと報告を入れ、そのまま人影の方へと近づく。
音を立てず、そっと・・・そっと・・・。
「うふふふ。ここは本がいっぱいあって楽しいなー。たださ、BLとかがないのは面白くないけど。それと、どの本も未完成なのがね。読み応えはあるけど、結末が知りたいのに!」
何か独り言をブツブツと言いながら、その場にある本を読み漁るメガネっ子が一人その場にはいた。
「ぐふふ。この本はちょっと私好みかな。いい感じに主人公が腐っているのがいいわね。しっかし、何時になったら男友達に思いを伝えてアッーな関係になるのかしら。そこがヤキモキするんだけど。」
何を言っているかは分からないけど、ちょっと関わってはいけないような気がする。とりあえず、今の所はこの場所から動く様子はなさそうなので、応援が来るまで、下手に声をかけない方がいいのかも知れない。
それになにやら変な事を呟いているような雰囲気がヒシヒシと伝わってくるだけに。
応援が来るまで約数分、ずっと怪しい呟きをするメガネっ子の様子を本棚の陰から伺い続けていた。
お読みいただきありがとうございます。
続きの「【閑話】Rudbeckia (2)」は2020/08/14 00:00頃公開します。




