表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
recollection  作者: 朝霧雪華
第 8 話 Purple Verbena
47/62

第 8 話 Purple Verbena (5)

 両親と担任に発見され、家へと連れ戻されてから数日後。

保護者を含め、全校生徒が一堂に集められ、あの子の件についての学校側からの報告を聞く事になった。

一部の生徒と保護者は信じられないという顔を最初はしていたのだが、どんどんと名乗り出る被害者の数々に、信じられない顔をしていた人達も最終的にはあの子とその両親に対して、物凄い怒りを持つようになっていた。

そうなるのも仕方がない。それだけの事をあの子はしたのだから。

あの子は同学年の人達の家から金品を奪うだけではなく、先生方からもお金を盗み取っていた。それだけでは済まなかったのだ。トドメは近隣の書店などから漫画なども万引きし、それを転売していた事や、一部の人達の家から盗み取ったクレジットカードを悪用してスパチャと言われるモノでの投げ銭をしていたのも判明し、最終的な損害額は1000万近くに及んでいた。

一体そのお金が何処に行ったかも、学校側から発表がされた。

前々から警察も礼香が嵌まっていたVtuberが所属する事務所絡みで同様の事があったようで、内偵を進めていて、今回の件で家宅捜索に入ったという話がでたからだ。

そのニュースは、みんな知っていた。大々的にワイドショーなどでも報道されていたのもあったから。まさか、その件に今回の件が絡んでいるなんて誰も思ってはいなかったからこそ、この発表は衝撃的なものであったのだから。

しかも、プロジェクタを使ってワイドショーの報道の映像も流された。その映像には、礼香が投げ銭をしていたVtuberの中の人も映し出されている。

動画配信サイトでは、とっても美形な男性キャラなのに、中身は冴えないただのオジサン・・・。そんな映像を見せられたら、誰でも嗚咽を吐きたくなると思う。実際、色々な場所から嗚咽が聞こえていたほどだし。

あんなの為に、金品を盗まれたと思うとショックは大きい。私ですら、あんなのの為に深い心の傷を負う羽目になったなんて思ったらやるせない気持ちでいっぱいになっていた。

そこにトドメを刺したのは礼香の両親の態度と対応だ。

あの子もあの子なら、その両親も両親でしかなかった。この報告説明会に一切姿を現していないのだから。

礼香本人が来ないのはわかるとしても、両親は事情聴取をされただけで捕まったわけではない。それに、被害に遭った人達への補償はどうするのか?

私の家もそうだけど、私以上に被害が大きかった人達も多くいる。

中にはクレジットカード情報を盗まれたせいで、カード会社から多額の請求をされ、引き落とされた後に不正利用なのが分かって、カード会社と共にどうするかを話し合う羽目になった人がいるぐらいだ。

そういう人達に、この場を借りて謝罪ぐらいすればいいのに、あの子の両親はそれすらせずに雲隠れしている。

マスコミもマスコミでこの件を色々と嗅ぎまわっているようだけど、あの両親を未だに捕まえられずにいるみたいだ。最初のうちは、両親も被害者のふりをしていたのだけれど、周囲からの証言などが飛び出してからは逃げ回るようになったのもあって、その異様さは格好のネタになっているぐらい。

そう言えば、マスコミ報道で知ったのだけど、あの子は、最初のうちは両親の財布や現金を抜き取ったり、それでも足りなくなった後は、両親があの子の為に貯めていたお金を勝手に通帳とカードを持ち出して降ろして使った挙句に、妹の為と貯めていたお金までも手につけていたようである。

そこまでしてもスパチャで投げるお金が足りなくなって、今回の犯行に及んだというのだから、何処まで自分さえよければいいと考えていたのだろうと思ったほど。

誰かが言っていたけど、動画配信サイトを使った悪質な商売をしている一部のホストクラブと変わらないらしい。

詳しい事は知らないけれど、大金を積まなければ、構ってもらえない。それを上手に利用して、未成年者からも大金を巻き上げている悪質なVtuberの連中はどうなのかと。

この報告説明会でも保護者の誰かが同じような事を言っていたように思う。

私はVtuberには興味がないからいいのだけど、第2第3の礼香がでてきたらどうするのかと心配する声が上がっていたほど、会は白熱したものになっていた。


 あの報告説明会から数週間経ったある日。

礼香ちゃんは少年院に送致された。誰が言っていたかは覚えていないけれど、送られても児童相談所どまりであの子は反省なんてしないんじゃないの?という話もあったのだけれど、やった事があまりにも悪質過ぎるのもあってか、少年院送りとなっていた。

あの子の事だから、少年院送りになっても反省するとは思えない。きっと憎悪をたぎらせ続けていると思う。

そして、礼香ちゃんの少年院送致と同じ時期ぐらいに、彼女が嵌まっていたVtuberが所属していた事務所の人達が逮捕される事になった。

テレビのニュースで流れていてみて、逮捕されたんだー程度にしか思ってはいなかったから、詳しい罪状とかは分からないのだけれど、百田という男性と竹山って男性が警察官に囲まれて連れていかれる映像が映し出されていたのは覚えている。

確か、実質的な経営者と責任者とか言っていたから、あのVtuberも路頭に迷う事になるのかも知れない。

正直言えば、そのVtuberがどうなろうと知った事ではないし、むしろ、私や被害に遭った人達からしたらお前も同罪という気持ちが強かった。

あの子が貢いだ金額を考えればそう思いたくなるのも仕方がない。だって1000万なんてお金を見た事はないし、そんなお金を何処の何に使ったのかと思うと腹立たしくて仕方がなかったのだから。

あんなのに貢ぐあの子もあの子だけど、そのお金を有り難くいただいてのうのうとしている人も人だと思っている。


あの一件から、少しずつではあるけど、学校に通えるようになった私は、休み時間にあの子の被害を小学校の頃から受けてきていた人と廊下で話をしている。

「結局さ、あの子って昔からあんなだったんだよね。」

「そうだったんだ。私は中学に入ってからしか知らなくて。」

「だって、私と明日花ちゃんはクラスが違うから仕方ないよ。一緒だったら忠告してたよ。」

「ありがとう。けどさ、他のクラスの人達もあの子に騙されてたんでしょ?」

そう聞くと、彼女は困ったような顔をしている。

「そうなんだけどね。どんなに忠告しても聞いてくれなくて、私と同じ地獄味わえやって気持ちになってさ。最後は放置しちゃった。」

「あー、けど気持ちわかるかも。本当にあの子は人の気持ち踏みにじるの好きだったよね。」

「そうそう。そうやって自分に重ねて同情するなんて迷惑だとか平気でのたまってたよね。あの子。」

「私もそれ言われた。」

ああやっぱりと彼女は言いたそうな表情を浮かべている。それだけ被害に遭ってきたのだろう。

「結局さ、自分が一番でしかないんだよね。悲劇のヒロインぶりたいというか、自分さえよければ周囲は単なる飾り。あの子のせいで、私なんて小説書くの辞めちゃったぐらいだもん。」

「え?そこまでされてたの。」

「うん。あの子、WriterReaderって小説投稿サイトでレイって名前で投稿してたんだよね。しかもさ、仲いい人達にはなんて言ってたか知ってる?聞いたら吃驚するよ。」

なんとなく想像はつくけど、きっと私が考えている事を言っていたんだと思う。あの子はそういう子だ。

「なんと、〇〇みたいな小説なんて簡単に書けるんだから!実際に読んだ人達からいっぱい褒められているぐらい書けてるんだから!!」

「あはは。あの子なら言いそう。それってさ、単なる自慢でしょ?直接、ダメだししてくれる人って少ないんじゃないの。あの子の事を知っちゃっていたら。」

「だよね。もうさ、私、馬鹿らしくなっちゃってね。けど、あの子が居なくなったから、少しずつ書いてみようかなーって思ってはいるんだ。」

「あ、出来たら読ませて!読みたい!!」

同じ被害に遭った経験を持っているからか、クラスは違うけど、彼女とはとても親しくなっていた。今はとても大切な親友の一人。

お互いに色々と話せる大切な友達。本当の友達ってこういうものっていうのを知ってからは、あの子は友達でもなんでもなかったんだなーと思っている。

あの子にとっては、私も彼女も単なる付属品や金魚の糞の一部でしかなかったのだろうと。

お読みいただきありがとうございます。

次話は 2020/08/12 0:00頃 公開します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ