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recollection  作者: 朝霧雪華
第 8 話 Purple Verbena
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第 8 話 Purple Verbena (2)

「なんで私のスマホを取り上げられなきゃいけないのよ!!」

礼香ちゃんはスマホを取り上げられた事に激怒した。発売されたばかりのスマホ。専門店の長蛇の列に並んでも手に入るかわからない最新ハイスペックモデル。何処かのモヒカン男の人が「乗るしかない、このビッグウェーブに」と言いながら買い求めていそうなものだけに、その怒りは相当のものだった。

「みんなが騒ぐからこんな事になったんじゃない!返してもらえなかったらどうしてくれるの?!」

彼女は教室内で喚き散らした。もう、その怒りの矛先は、クラス全員だとわかるぐらいに。手が付けられないほど怒り狂う彼女をみた担任はため息をつきながらこう言い放つ。

「礼香さん、放課後職員室にとりに来れば返します。それまでは、授業に関係ないものなのですから預からせてもらいます。いいですね。」

そう言われたのにも関わらず、彼女の怒りは収まらない。その怒りはどんどんと増しているようで、身近にあった教科書や筆記用具、しまいには椅子までも周囲に投げつけるほどに達してしまっていた。

このままじゃ授業にならないと感じた担任は先ほど言った事を撤回し、彼女に取り上げたスマホを返す。

「礼香さん、落ち着いてください。スマホを取り上げたのは悪かったと思います。このとうり返しますから、いい加減落ち着いてください。」

ため息交じりに、スマホを差し出したのだが、彼女は差し出されたスマホを奪い取ると、担任に向かって投げつける。

「あんたの触ったモノなんて汚くて要らない!私の綺麗だったスマホを返して!!」

投げつけられたスマホは当たり処が悪かったのか、それともそれだけの衝撃があったのかは分からないけれど、画面がバキバキに割れてしまうぐらいの事になっていた。

結局、この日は授業にならず、礼香ちゃんも途中で帰ってしまい、それっきりであった。

そして、翌日・・・。

担任の元には、彼女の両親が怒鳴り込んできた。

「うちの礼香にあんたは何をしたんだ?!」と。

あまりの剣幕に担任も何も言えなかったようだし、その状況で呼び出された校長も校長でオロオロするだけで何も出来ないほどの状況になってしまっていた。

何故、私がこんな事を知っているのかと言うと、ちょうど、次の授業に必要な物を職員室に取りに行っていた時に運悪く遭遇してしまったから。

あの親にしてこの子ありというのをまじまじと見せつけられたように思う。

そして、投げつけられて画面が割れてしまったスマホはメーカーの保険を使ったようで数日後には新品と交換されていたのも付け加えておこうと思う。

どう考えてもこんな事になったのは礼香ちゃんが悪いのにも関わらずだ。

その後も色々とあったのだけれど、その特異性を凄く実感したのは、彼女がVtuberにはまった話を聞いた時だった。

「明日花は、Vtuberは誰が好きなの?!」

急にそんな事を言われても、私はVtuberなんていうのを知らなかった。

「Vtuberって何?」

思わず聞いてしまった。それが彼女の機嫌を損なう事になるとは思いもせずに。

「え?!知らないの?遅れてるなー。動画配信サイトで今話題の人達だよ。最新のスマホも持ってないようじゃ知らないのも当然か。ごめんねー。」

滅茶苦茶嫌味たっぷりに言われたのだけど、ここはぐっと我慢した。

「そうなんだ。それって面白いの??」

「面白いよー。だってさ、スパチャで1万以上投げれば『礼香、何時もありがとう(ハートマーク)』ってイケボでみんなの前でささやいてくれるんだよ?!しかもさ、ルーシュ様が。私に向かって!ウィンクしながら(ハートマーク)」

「へぇ。凄いね。」

正直、そんな感想しか持てなかった。なんとなくは知ってはいたけど詳しくは知らないかったし。バ美肉おじとか言われる気持ち悪い人達がいるとかそんな事ぐらいしか知らない。

確かドラマか何かで見たのだけど、いい歳したおじさんがVRゴーグルとコントローラーを握り、モーションキャプチャーセンサーの前でボイスチェンジャーを使ってバーチャル美少女のふりをして動画を配信するとかそんなだった気がする。あれを見た時、えっ?!こんな人いるのとドン引きしたぐらいだったから、Vtuberと聞くといいイメージがない。

「凄いねじゃないよ!どれだけそれを言ってもらえるのが大変か分からないでしょ?!明日花って人の気持ち理解できないよね。ホント、サイテー。」

少しイラっとしたけど、それを顔に出したり言葉にしたら余計に火に油を注ぎかねない。ここはガマンがまん我慢・・・。

「大変ってそんなになの?」

「そうだよ!だって配信終わる前に一番スパチャで貢献した人には『何時もありがとう、〇〇。愛してるよ(ハートマーク)』ってみんなの前で言ってもらえるし。もうそれだけでキュンとなっちゃって。」

「へぇ・・・」

私はもうあまりにも内容が内容過ぎてついていけなくなっていた。そんな事までして何が楽しいのだろうとしか思えなかったのもあったし。


 そんな話をした数日後、突然、礼香ちゃんは私の家に遊びに来たいと言い出した。

今までそんな事を言い出した事がなかったのにも関わらず。この心変わりは一体何が起きたのだろうと思うほどでもあったのだけれど、その時は、そんなに来たいならって事で許してしまった。

後に大惨事へと繋がる事も知らずに。

初めて私の家に来た彼女は落ち着かない様子だった。常に辺りをきょろりょろしながら、私の家の中を色々と見て回っているように感じたほどだ。

「明日花の家ってこんななんだー。ふーん。」

こんな事を言われたように思う。至って普通のサラリーマン家庭の私のうちはお金持ちのように思えた礼香ちゃんからしたら面白くもなんともなかったのかも知れない。

初めて彼女が私の家に訪れてからだけど、少しずつ、私の家から金品が無くなり始めたように思う。

なんで無くなったのかは初めはわからなかった。私の両親も最初はどこかにしまい忘れたのかと思っていたようで気にする様子もなかったし。

それから、何度か彼女は私の家を訪れるようになる。一緒に勉強がしたいからとか、一緒に好きな話がしたいからと言って。

何度目の訪問かは忘れたけど、彼女がちょっとトイレと言って私の部屋を離れた時、私は見てはいけないモノを見てしまう事になった。

そう、言うまでもない、礼香ちゃんが何故、私の家を訪れるようになったかの理由をだ。

何故知ってしまったのかと言うと、その日は、部屋に持ってきていた飲み物とお菓子が無くなってしまっていて、補充をしにキッチンに向かうなんて何時もはしない行動をしたから。部屋から出て、キッチンに向かう途中、トイレにいったハズの彼女が私の両親の寝室を漁っているのを目撃してしまったのである。

ちょうど、部屋を出て、階段を降り、トイレは浴室や洗面台のある方にあるのだけれど、そことは反対側にある両親の部屋のドアが少しだけ開いていて、そこからガサゴソという音が聞こえてきていたのもあり、誰かいるのかと思って隙間から覗いてしまったからだ。

そう、覗いた先にいたのは、言うまでもない、彼女―――礼香ちゃんの姿。

私は驚きのあまり言葉を失い、物音を立てずにその場をそっと離れた。なんとなくではあったけど、彼女が何をしているかは大体予想はついたからだ。

きっと金品を漁っていたのだと思う。両親のタンスの中や化粧台の上を念入りに調べている姿を目撃してしまっていたのだから。

お読みいただきありがとうございます。

続きの「第 8 話 Purple Verbena (3)」は2020/08/03 00:00頃公開します。

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