第 8 話 Purple Verbena (1)
【ご注意】
作品の構成の都合上、一部の人にとってはトラウマを思い出させる事になるような描写があるかもしれません。
また、全てフィクションであり、登場人物、時代背景、起きた事件など全て実在するものではありません。
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第 8 話 Purple Verbena
私は、ただただ、友達として注意しただけなのに。
何故、あそこまで怒られなければいけなかったのだろう。何故、彼女の自尊心と欲求を満たす為に私が犠牲にならなければならないのか分からないでいる。
きっと、彼女からしたら余計な事であって、自分さえよければそれでいいのかも知れない。
きっと、痛い目に遭っても変わらないだろう。そう思うと、友達って何なんだろうと思う―――。
◇◆◇◆◇◆◇◆
私はある一件があってから、学校へ行けなくなってしまった。
学校に行けば、彼女がいる。彼女に会えば、私は間違いなく嫌味を言われる続けた挙句、お金を巻き上げられるかも知れない。
友達だからこそ、敢えてお金の要求には応じてはないけれど、なんであんな子と友達になってしまったのだろうと思う事が増えてきた。
正直、学校には行きたくない。共働きで親が居ない時は家の中に籠れるけど、今日はよりによって両親共に休みで家に居る。
少ないお小遣いではあるけど、ずっとずっと無駄遣いをせずに貯めておいたお金を握りしめ、学校に行くふりをして電車に飛び乗り、ある場所へと向かっていた。
何で読んだかは知らないけれど、自殺の名所としても有名な場所。そこに行って、私自身をこの世界から消してしまえば、もうあの子には遭わないで済む。何処か心の奥底でそう考えてしまっていたのだった。
何故、この場所を選んだのだろう。それは今でも分からない。確か、この国で革命が起き、新しい政府が誕生して暫くした後、一人のエリート学生がこの地で投身自殺をしたのがキッカケで、それがセンセーショナルにマスコミに報道された事によって後追い自殺する者が絶えず、この場所が自殺の名所として有名になってしまったという話はなにかで聞いた記憶はあるのだけれど。
制服姿のまま、あの場所を歩いていると補導されるのではないかと思う時もあったのだけれど、そこは有名な観光地だけに大丈夫だった。
修学旅行で訪れる学生も多いのもあって、一人で歩く私を不審に思っても声をかけづらかったのだと思う。
お陰で、目的の場所まではすんなりと来る事が出来た。
バスを降りると、目の前には大きな湖が広がっている。ここから少し離れた場所に行けば、あの有名な自殺の名所だ。死ぬにしても、こんな人目の多い昼間には出来ないのもあって、観光客などが居なくなる時間まで何処かで時間をつぶさないと・・・そう思い、現世への最後の別れとばかりに、この辺りを見て回る事にした。
ここに来るのは、小学校の修学旅行以来だと思う。あの時は、彼女とは違う学校だったし、仲のいい友達も多くいたからとても楽しい日々だった。
みんなで歩いた湖畔沿いの道や、みんなで乗った遊覧船などを見ていると、そんな記憶が呼び起こされて、悲しい気持ちになってしまっている。
どうして、こんな思いをしなければならないのだろうかと。
このまま歩き続けていたら、私はあの頃の思い出に引き摺られて思い留まってしまうかも知れない。そう感じ、近場で何処か休めそうな場所がないかと探していると、一軒の変わったお店を見つけた。
中学生の私には、少々入りづらい雰囲気はあるけれど、下手に色々と世間話を振ってきそうな愛想のいいおばちゃんだらけのお店に行くよりはいいかなと思い、足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ」
店内に入るとカウンタから一人の白銀色の長い髪の女性から声をかけられた。
「あの・・・すいません、こういうお店初めてで・・・何処に座ればいいのですか?」
お店の中にはお昼の時間を過ぎて落ち着いた頃のようで、殆ど人影はないのだけれど、ファミレスぐらいしか行った事がない私は思わず聞いてしまった。
カウンタにいる女性は、ほのかに笑みを浮かべながら、私に優しく答える。
「この時間でしたら、お好きな席をお使いくださいね。ゆっくりとしたいのなら、窓際の席が空いていますのでそちらがいいかも知れません。」
見渡すと女性の言うように窓際の一番奥のテーブル席が空いている。一人になりたい気持ちが大きかった私はそこの席へ腰かけた。
今は何か食べたいという気分ではないのだけれど、お店に入った以上、何か頼まないとと思い、テーブルに置かれたメニューを見たのだけれど、どれもこれも私が知っているモノがなくて、どれにしたらいいのか分からない。
名前で想像ができそうなのもあるのだけど、実際にどんなかは分からないし、困り果てそうになっていると、見慣れた名前のモノがあるのに気がついた。
『レモンティー(ダージリン・セイロンなど紅茶の種類をお選びいただけます)』
紅茶の種類はよくわからないけど、どことなく聞いた事のあるセイロンでいいかなーと思い、これにしようと決める。
ちょうど、私がメニューを決めた頃、カウンタにいた女性が私の元へと訪れた。
「ご注文はおきまりですか?」
「あ、はい。すいません、これで。」
私はメニューを指さした。
「レモンティー(セイロン)ですね。」
注文を確認した女性はカウンタの中へと戻って行く。
暫くするとカウンタの方から香ばしい匂いが立ち込めてきて、私の鼻をくすぐる。
何も食べたくはないと思っていたのだけれど、そのいい匂いの影響かもしれないのだけれど、少しだけお腹が空いた気がした。気がしただけで実際にはお腹が空いているかは今の私には分からない。
それだけ精神は疲弊していて・・・。
「お待たせ致しました。ご注文のレモンティーとこちらはサービスのラスクになりますね。」
少しばかりぼーっとしてしまっていたのもあって、先ほどの女性が注文をした物を何時の間にか持ってきてくれていた事に気がついていなかった。
何時の間にか目の前に置かれていたお茶を頂きながら、私は、窓の外をずっと眺めて続けている―――。
◇◆◇◆◇◆◇◆
今思い返せば、あの子と知り合ったキッカケは何だったのだろう。確か、中学に入ってそんなに経たない時に、まさかあんな子とは知らずに声をかけてしまったからだったのかな・・・。
初めは、見た目が可愛い感じなのに大人びた不思議な子で、近寄りがたいなーって思ってはいたのだけれど。
確か、あの子と話すようになったのは、アニメの話題だった。まさか、あの子が?!ってクラスの中で話題になった気がする。
「礼香ちゃんがあのアニメ好きなんて知らなかったよ。」
「そう?私、アニメとか結構見てるよ。好きなヤツは親にねだってBD買ってもらったりしてるぐらいだし。明日花ちゃんは買ったりしてまで見ないの?」
「うちの親はそこまでしてくれないし。画質悪いけどネットの無料配信でみるぐらいしか出来ないよ。羨ましいなー。」
こんな会話があの子と話すようになったんだったっけ。それから、少しずつだけど、色々と共通の話題をみつけて、仲良くなっていったと思ってた。
けど、それと同時に、彼女の特異性についても少しずつ感じるようになってきていた。
それは言うまでもなく、あの子は、自分自身に激アマな事と、あの子の両親も両親で何でも買い与えるし何でも言う事を聞いてきているのもあってか、とても自分勝手に見えたからだ。
ねだってBDを全巻買ってもらえる時点でも驚きだったのだけど、一番驚いたのは、まさかの最新型ハイスペックスマホを買ってもらって学校に持ってきた時に実感させられたように思う。
どんなに私が親にねだっても買ってもらえる事はない、齧りかけの林檎のマークが入ったスマホの最新型ハイスペックモデル。それを彼女はいとも簡単に買ってもらっていた。
本当に欲しくても予約してもなかなか手に入らないそんなのを持ってくれば、クラス中が騒然となるのは当然。そんなスマホを持っている子は一人もクラスには居ないのだから。
「えへっ。買ってもらっちゃった。いいでしょ!」
彼女はそう自慢気にクラスの子達に見せびらかす。みんな、あまりの事で驚きと溜め息と色々な声が飛び交った。
ただ、その騒動はあっという間に担任に伝わり、スマホは一時的に没収される事になった。
お読みいただきありがとうございます。
続きの「第 8 話 Purple Verbena (2)」は2020/08/01 00:00頃公開します。