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recollection  作者: 朝霧雪華
第 2 話 Honeysuckle
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第 2 話 Honeysuckle (2)

「それではこれで失礼します。後ほどドクターと一緒にきますね。」

電子カルテにデータ入力を終えた看護師がそういって病室から出て行った。

そして入れ違いに良く聞きなれた声の人物達が入ってきた。

「おう、大丈夫か?」

「いやあ、いきなり帰り道にぶっ倒れたって聞いた時はびっくりしたわ。」

病室に入ってきたのは上司の宮田部長と総務の永岡部長だった。

「さっき、看護師にすれ違った際に意識を取り戻したと聞いて一安心したよ。何度か病院には来たんだが、意識を取り戻してないからといわれて面会出来なかったからな。」

そういって宮田部長が安堵の顔をみせる。僕が倒れた事でかなりの心配をかけさせてしまったようだ。

「あの馬鹿(ドラ息子)にあれだけこき使われていたんだ、ぶっ倒れるのも仕方ないだろ。ぶっ倒れるならあの馬鹿がぶっ倒れれば良かったんだが。ま、その様子なら大丈夫そうだな。」

一緒に来ていた永岡部長も安心した様子だ。多方面に迷惑をかけてしまった事に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

僕が申し訳なさそうな顔をしていると、気にするなとでも言いたいのか、ここ2週間の社内の様子や出来事などを話してくれた。そして何時ものように休憩室で話しているような雑談をしていた時にふと何かを思い出したかのように永岡部長が言った。

「そうだ、忘れてた。何時出勤可能になるかは現状ではわからないんだよな?」

「はい」

「そっか。宮田さんのとこには分かり次第連絡来るんだろ?」

「ええ、病院側から連絡すると聞いてます。」

「ああ、わかった。それとこんな時に話す事ではないんだが、あの馬鹿が何か動くかもしれん。宮田さんには話してはあるが。」

なんとなくだが、嫌な予感がする。あの社長の息子の事だから何か企てているのだろう。永岡部長の場合はあの息子と従兄弟という事で色々な情報網と今までの経験則から言ってくれているのだと思う。これから起きる事を考えると頭が痛い。いや頭が痛いで済む話ではないかも知れない。

思わずため息をついてしまった。

その空気を変えようと思ったのか、宮田部長が話題を変えて直球な質問をしてきた。

「それよりも、ずっとここにいる女性は祷夜の彼女さんか?それとも私に内緒で結婚してたとか言わんよな?」

「いや・・・あの・・・その・・・」

答えに詰まっているとニヤリと笑いながら

「ま、冗談だ冗談。そのうちわかるだろうし、ツッコんで聞くとこっちも自爆するからな。」そう言って話を終わらせた。

宮田部長特有の悪い癖である。お互いにツッコミ入れたい話は数々あるだけにさらりと終わらせてくれるのは助かるが。

今回は永岡部長もいるだけに三つ巴のツッコミ合戦は避けたいのだろう。賢明な判断だ。


「「それじゃ、我々はそろそろ帰るよ」」

僕が大丈夫なのを確認できた宮田部長と永岡部長は病室を後にした。

あの二人がこのタイミングで来てくれたのは有難かった。倒れていた間の会社の状況も把握できたし、何よりも倒れる前の感覚を取り戻せた気がした。


それから暫くして、ドクターと看護師が病室を訪れ、僕の倒れた時の状況や運ばれてきた時の状況を事細かに説明してくれた。

駅前で自殺しようとしてた女の子が飛び降りようとした瞬間、下で僕が倒れた事で騒ぎになり、その子は飛び降りを諦めた事や救急車で搬送する際に救急隊員が様子を見ていた人の話を聞いていたようで突然意識を失ったかのように、何かを受け止めるような体制で倒れて行った事なども。

ここ数日のうちに行われた精密検査によれば、特に異常なところはなかったようで一安心したのは言うまでもない。

ただ、運ばれてきた時の検査や脈拍数や血圧、心拍数のデータは相当無理が祟っていたようで、無理を続けていれば心臓や血管に支障をきたして心筋梗塞の可能性や血栓が出来てしまい、血栓が脳へ回って脳梗塞などを起こしていてもおかしくはないような状態だった事も説明された。

運ばれてきて数日間は原因も特定できず、無理をし続けた状態による身体や心の負荷によりなにが潜んでいるかわからない状態だったので予断を許さない状況の中、彼女が心配して病院に駆けつけてくれて、献身的に身の回りの世話をしていてくれた事によって危機にならずに済んだのだろうとも。

僕が意識を失っていた間、彼女に助けられた―――確かに言われてみれば、ここに運ばれてから2週間、その前も2週間家に帰れておらず、会社に持ってきていた着替えで耐えしのいでいたハズなのに身体は綺麗な状態を保っている。

着替えもこまめに洗濯されている状態だったし、何よりも病室内は綺麗に整理整頓がされているし、僕の意識が戻ってから必要な物も全て揃えられていた。

きっと彼女が準備してくれたのだろう。そう思うと、心からの感謝しかない。

ドクターと看護師は一通りの説明と検診を終えると病室から出て行った。


ずっと邪魔にならないようにと少し離れた所にいた彼女が僕のそばにくる。

近くに来た彼女に向けて最初に出た言葉―――それは「ありがとう」という感謝の気持ち。

その言葉を伝えると彼女はにこりと嬉しそうに微笑んだ。まるでその笑みは天使か女神のよう―――ふと、看護師に声をかけられる前にみていた夢のようなものを思い出した。そういえば、あの夢のようなもので見た人に似ているような・・・いや、あの中でみた人には翼があったのに、彼女にはそれがない。もし、あれが夢でなく現実だったとしても他人の空似かもしれない。

何よりも意識を失っていた間にずっとつきっきりでいてくれたのは彼女。身寄りのない僕にとっては彼女がしてくれた事はとても大きかった。

初めは何を話してよいのか分からなかったが、少しずつお互い打ち解けた事で彼女について分かった事がある。

彼女の名前がベル・ツァイトという事、僕とは以前にあった事があるかもしれない事(それで勝手に親戚の人かもしれないと思っていた。確か親戚に外国人と結婚して国を離れた人がいたからだ。)、ずっと遠くの所にいたのだけれどこちらに来ないとならなくなってきた時に僕の身に起きた事を知った事、彼女も身寄りはなく今は一人な事。

そして、彼女はこちらに来たのはいいものの頼りになる親戚も人もいなくてこれからどうしたらいいのか困っている事を。僕のところに来たのは、そういうのもあってなのかもしれない。

これからの事はおいおい考えなければと考えていると、何時の間にか消灯の時間になっていた。

個室だからといって何時までも電気をつけておくわけにはいかないだろうし、彼女はこの個室にある付き添い者専用の仮眠室にでもいるのだろう。僕から見える範囲にはいない。


消灯時間で薄っすらと光る常夜灯に照らし出された室内を眺めているうちに何時の間にか眠りについていた。


そして、ひさしぶりに夢を見た気がする。僕の記憶に関わる夢を―――。

お読みいただきありがとうございます。

次話は 2020/05/16 07:00頃 公開します。

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