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recollection  作者: 朝霧雪華
第 7 話 Spring starflower
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第 7 話 Spring starflower (3)

 そんな私に転機が訪れたのは、高校を卒業し、短大に進学した時だったと思う。

弟から私の将来を心配してだと思うけれど、こんな事を言われてしまった。

「姉さん、僕の事は大丈夫だから。あのクソ親父に色々と言われているようだけど、姉さんは、姉さんの幸せを見つけて。僕だって何時までも子供ってわけでもないし、僕が何時まで生きれるかもわからない。僕自身、病気の事は理解しているつもりだから。」

この言葉に私は涙がとまらなかった。私が弟の世話をし続けてきた事で、逆に弟に心配をかけさせてしまっていた事をこの時初めて知ったのだから。

私も弟を長い事診てくれている医師から、弟が長く生きられない事は聞いている。医師の話ではどう頑張っても30歳まで生きれるかどうかと断言されている。何時寿命が来るかわからない弟からしたら、確実に長生きするであろう姉である私が弟の事で人生を棒に振って欲しくないと願っている事もこの時はっきりと言われてしまった。それだけ家族としても、私が置かれている立場を見続けるのが辛く悲しいものでしかなかったようだ。

「姉さん、お願いだからこれだけは分かって欲しい。あのクソ親父に何をされても、姉さんは姉さんなんだよ。僕やあのクソ親父の為に生きる介護ロボットになんてならないで。姉さんが幸せを掴めるならこんな腐った家出て行くべきだよ。」

この一言が、完全に私が彼と出会うキッカケを作ってくれたと思う。短大に入った事で、高校までずっと持たせてもらえずにいたスマホを持たせてもらえるようになったのも大きい。高校時代は今時スマホを持っていないって事で、一部のクラスメイトからは相当嫌がらせをされた。あの経験をしたから、弟の気持ちが少しわかった気もした。

スマホを持ち始めた事で私の世界が少しずつ変わったのもある。スマホでSNSを始めたのが大きいかも知れない。初めはみんながやっているからって言うただそれだけの理由であったのだけど、始めた事で色々な人を知る事が出来たと思う。一番大きかったのは彼との出会い。

その出会いはある意味、私にとっては、理想と現実の違いを突き付けるモノになってしまった。彼といる時間、彼に優しくされる度に今までの私が望んでも手に入らなかったモノを感じられた時間―――。親に求めても得られなかった愛されるってこういう事なんだと思えるのが嬉しくて、どんどん彼を好きになり大切にしたいと思う気持ちが強くなっていった。

私が彼に惹かれたのは、その強さと優しさからだ。彼自身は、『僕は決して強くないし、弱い存在だよ。何かあれば逃げる事だってあるし。』と良く言っているけれど、それは彼なりの保身なだけで実際は違うと感じていた。純粋無垢で恐れる事を知らない。心の傷を癒す為ならどんな危険も顧みない。自分の為だからと言いながら、最後はみんなの為に行動している彼だから傍に居たいと思うようになっていた。

けれど、私のその願いは、つい先日、完全に破壊されてしまう事が起きた。

そう、言うまでもない、祖父母と同居するようになってからは殆ど家に居る事がなくなり、何処で何をしているのか全く分からないあの父親に私が週末となると外泊して家に居ない事がバレてしまった。父親自身、週末の夜も何処に行っているか分からないというのに、私に対しては、全てにおいて拘束し命令をしてそうならないと何をしでかすか想像が出来ないあの人にだ。

初めのうちは、彼の存在を知られないように口を割らないようにしていたのだけれど、最後はスマホを取り上げられ、中を全て見られてしまい、彼の存在を知られてしまった。

あの父親は私が付き合っている人が居る事を知って、それは激怒した。「うちの娘を傷モノにする不届き者は俺が縛り上げてやる!」と。

私の事を傷モノにしたのは父親自身だというのに、自らの事は棚上げにして自分の都合のいいように解釈をするのが得意中の得意な人だけにこのような言動になったのだと思う。バレたその日の夜は、自らそんな事を言っていた癖に、私の事を無茶苦茶にしたのは言うまでもない。あの父親にとって、私は奴隷かペットか母の身代わりか何かでしかないのだろう。

そんな事をした翌日、あの父親は私の彼について色々と調べ始めたようだった。あの人が何をし始めたのかは分からないけれど、きっと、ロクな事にはならないのは目に見えている。

下手をすれば、彼の命すら奪う事も平然とする可能性が高い。彼の実家や彼の仕事先などに乗り込んだり、慰謝料払えと騒ぎ立てるのは平然とやるだろう。

祖父母から聞いた話だけど、あの父親は医師からはっきりと辞めろと言われていたのに母に弟を産ませた事によって母が亡くなったのを担当した医師の責任と騒ぎ立て、マスコミや地域を巻き込んで大騒動を起こした過去があった。しかも、挙句の果てには医師を刑事告訴と民事告訴の両方で締めあげようとしたとも聞いている。そんな事をした為に、前住んでいた所に住んでいられなくなって、今住んでいる所に引越してきたほどだ。

あの父親の事だから、平然とそう言う事をやるのは目に見えている。きっと今頃、自分が被害者だと言わんばかりに力になってくれそうな人達に泣きついているのかも知れない。この国の人達は平然とこう言う事をする人が多いだけに、あのような人に騙される人も多いし。この国の歴史はそういうのの繰り返しだと習った事があったっけ。

私にとって、今、守りたいのは、私に生きている事を感じさせてくれた彼の事。彼のお陰で、私は束の間の夢だったかもしれないけれど、幸せの意味を感じられた。きっと、こんな事を彼に言ったら怒られるかもしれないけれど、きっと彼の隣に立つのに相応しいのは私ではなく、別にいるのだと思う。

悲しいけれど、私は彼の隣に立ち続ける資格はない。もうすぐ、破滅の波が迫ってくる。その波を私が一緒に居たら止める事は出来ないのだから。


 今回、何のために彼の元に来たのかを冷静に自らに問いただす。そうだ、今回、彼の元へ訪れたのは、彼にお礼と別れを告げるためだったんだと。


短い期間だったけれど、彼との幸せは私にとって夢物語だった。

最悪の終わり方をする前に、私自らけじめとつけようと思っていた。彼があの人によってボロボロにされていくのなんて見たくもない。きっとあの父親だ。彼がボロボロに壊れ、最後は大金を巻き上げる事しか考えてないのは分かりきっている。彼の両親や兄弟すら金蔓として扱って全てをしゃぶり尽くす気でしかないだろう。自分の奥さんですらそのように扱った人なだけに。

私自身、あの人の血が半分流れていると思うとぞっとする事があるほどだ。何時か私もあの父親と同じ事をしてしまうのではないかと。そう思うと、自らが憎らしくて恨めしくて、大好きな彼といるのが辛かった。

なんであんな親の元に生まれてしまったのだろうかと。あんな親の元に生まれてなかったなら、彼の元にずっと居る事が出来たのかも知れないと。

けど、宿命は変えられない。変えられないなら、私自身が変わるしかない。運命なんて信じたくはないけど、宿命なんて信じたくないけれど、受け入れるしかない。

私にとっての宿命―――あの人の子供だという事実。そして、こんな国に生まれてしまったという事実。

この国は、子供は親の面倒を見るべきだという風潮を何時までも持っている人達が一定数いるし、国の中枢で権力を握っている人達もそのような主張をしているぐらいだ。私からしたら、親の面倒を見られる人はみればいいし、家庭の事情や親子の事情で見る事が出来ない人は施設や何らかの別の方法でみてもらうしかないと思うのに。人それぞれ違う事情を抱えているのだから、全員が全員同じようにしろというのは無理な話なのだから。

そういう風潮が年々強くなっているのもあって、私はあの父親から逃げられないと言うのを嫌と言うほど思い知らされている。まるで逃げるのが悪であるかのように、声高々に主張する人達がいるから。

お読みいただきありがとうございます。

続きの「第 7 話 Spring starflower (4)」は2020/07/21 20:00頃公開します。

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