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recollection  作者: 朝霧雪華
第 6 話 Lycoris
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第 6 話 Lycoris (4)

◇◆◇◆◇◆◇◆


何時の間にか話しているうちに涙があふれていた。こんな事になるならという後悔の涙―――悔しくて悲しくて。

妹の夢を叶えてあげたいと思っていたのに、これじゃ妹に心配をさせてしまっているかも知れない―――そう思うと私自身が情けなくなって涙が止まらなくなった。

けど、そんな私を優しく包み込んでくれるものがあった。

気がつくと女の人が私の事を抱きしめ、頭を撫でていてくれた。

その優しい手の感触が私を守ってくれている感じがした。優しく香る彼女のにおいが私に安心感を与えてくれていた。

もしも、こんな人が母親だったら私はこんな事をしなかったと思う。

その傍らで私を優しく見守ってくれる視線があった。その人は、私を優しく抱きしめてくれている女の人の手を優しく握っていた。何も言わないけれど、その男の人は「大丈夫。僕がいるから、その子の辛さを受け止めてあげて。」とでも語るかのように。

もしも、父親がいたらこんな人だったら幸せな家庭になっていたのかもと思った。

私が泣き止み、落ち着き始めたのをみた男の人はゆっくりと席をたち、カウンタに向かうとお茶とお菓子を持ってきた。

「冷めないうちにね」

そう言うとレモンティとサブレを目の前においてくれた。

「いただいていいのですか?」

小声で言うと先ほどまで私を抱きしめていてくれた女の人が『コクリ』と頷いたのでありがたく飲む。

ひさしぶりの温かい飲み物は心に染みた気がした。

「それじゃ、僕は状況が状況のようだから警察に連絡をいれるけれど、大丈夫かい?」

男の人に聞かれ、私は「お願いします」と呟いた。


警察が来るまでの間、二人は私の事を心配し続けてくれて、まともに食べてなかった食事までも作ってくれて、お店の外を通る車の音で私が震えているのに気がつくと二人で私を囲むように座って「「大丈夫だから」」と言って手を握って励ましてくれたりした。

警察が来るまでの短い時間であったけれど、この二人に助けてもらえた事で、親子だったらこんな事をしてもらえたのかもと思う事をしてもらったと思う。

私が生まれてきてから経験したくても出来なかった家族の幸せ、親子の幸せってこんななのかなと感じられた瞬間だった。


警察に連絡を入れてもらってから、数十分過ぎたぐらいだと思う。

数人の警察官の人達が来た。

「遅い時間でしたので、本署の方から来ました。到着まで時間がかかってしまい申し訳ありません。」

警官の一人がそう言って、私を保護してくれた二人に事情を聴き始めた。

二人に事情を聴き始めると同時に女性警官の人が私のところにきて、横に座ると優しい声で話しかけてきた。

「もう大丈夫だからね。安心して。」

「はい・・・」と小声で答えると、女性警官は優しくにっこりと微笑んで、頭を撫でてくれた。


警官達がきてから数十分ぐらい経過したと思う。

私を助けてくれた二人は私から聞いた話やここに来た時の状況を丁寧に説明していてくれたようで、話を聞いていた警察官も事情聴取を終えると「大丈夫だったか?親切な人達に助けてもらえてよかったな。」と声をかけてくれて、パトカーに戻って本部へ連絡をしはじめた。


パトカーで連絡を終えた警官が戻ってくると、隣に座っていた女性警官に声をかけて何やら話し始めた。

小声で話していたので何を話していたのかはわからないけれど、これからの事を話していたんだと思う。

警官達が話し終えると私の隣に座っていた女性警官が席をたった。

「それじゃ、警察署の方に行こうか。ここにお世話になっているとここの人に迷惑かけちゃうからね。」

「はい」と答え、席をたち、女性警官の隣に向かった。

「助けていただいてありがとうございました。お世話になりました。」

こんな夜遅くに突然現れた私を驚きもしながらも助けてくれた二人に心からのお礼を言うと、女の人がそっと羽織っていたガウンを脱ぐと私にかけてくれた。

「夏の夜とはいえ、この辺は冷えるから。・・・気をつけて、無理はしないでね。」

「はい・・・何から何までありがとうございます。」

その様子をみていた男の人が自分が羽織っていたガウンを脱ぐと女の人にそっとかけて、ポンと軽く頭を撫でていた。寒いのはお前もだろと言いたそうな顔をし、『まったく・・・』と言いたげに。

「もう、無茶はしないようにね。」男の人からもそう言われた。

今まで大人達にやられてきた事が事だっただけに、ここまで優しくされた事で私の目から薄っすらと涙が溢れていた。


「それじゃ、あとはこちらで引き取ります。この子を監禁していたと思われる人物や車両も特定し、しかるべき対処をしますので。」

警官の一人が私を助けてくれた二人に言うとパトカーの方へ案内し、後部座席のドアを開け、乗るように案内してくれた。

助けてくれた二人も外まででてきてくれて、「「よろしくお願いします。」」と警官達に頭を下げてくれていた。

私の隣にはお店の中でも隣に座ってくれていた女性警官が座り、見守っていてくれている。

パトカーの出発の準備が整うと、ゆっくりと車を発進し、お店を後にした。

あの二人はパトカーが見えなくなるまで私を見送っていてくれていた。


これから私はどうなるのかな―――もしかしたらいっぱい怒られるかもしれない―――いっぱい泣かれるかもしれない―――もう友達や妹には会えないかもしれない―――そんな事を思いながらカーブの多い坂道を暗闇の中パトカーで下り警察署へ向かっていった―――。


☆★☆★☆★☆★


 僕達は少女が警察官に連れていかれるのを見守るしか出来ない。

保護する以上の事になると僕達に出来る範囲から超えてしまっているし、どのような事が起きるか分からない。

ただただ、僕は己が出来る事の小ささに悔しさを感じられずにはいられなかった。

きっと、僕の隣で悲しそうに少女を見送る彼女も同じ気持ちなのだろう。時折、彼女の華奢で細い身体が震えていた。

それだけ思う事が多いのだと思う。僕だってあの少女の話を聞いて、何故あの子はここまでの目に遭わないとならないのかと思ったほどだ。

世の中には良い人もいれば悪い人もいる。人間は誰しも善悪だけで決められるわけではないのだけれど、あのような少女にまで毒牙を向ける人達は何を考えているのだろうか。

必要悪もあるのも分かってはいるけれど、それでも一定の線引きと超えてはいけないラインがあるのではないだろうかと。

そんな思いになっていると、僕以上に心を痛めている彼女の事が気になった。

「ベル、大丈夫かい?」

声をかけると彼女は「大丈夫・・・」と言いたげに頷くのではあるが、大丈夫そうには見えなかった。

この時間の外は夏とはいえ少し肌寒いかもしれないけれど、湖の畔を少しだけ散歩すれば気も紛れるかもしれない。

そう思った僕は彼女の手をとり、少しだけ外に出る事にした。今は言葉でいうよりも、僕自身が出来る事を行動に移した方がいいのかもしれない。

そっと握った彼女の手はほんのりと冷たくなっている。それだけ、彼女の中で悲しみが溢れているのかもしれない。

家からはそう離れていない湖の畔を二人でゆっくりと歩く。

二人で桟橋まで来ると湖を渡って吹き注ぐ優しい風と共に水面に反射して光る月明かりと星空はとても美しく僕達を包み込んでくれていた。

彼女の気は少しでも落ち着いたかなと思い、視線を彼女の方に向ける。

月明かりに照らされた彼女の横顔に正直見惚れてしまいそうになった。

その時だった。何処からか悲鳴のような声が聞こえてくる。

「「もうダメだーーーおしまいだーーーー!!」」

この世界の終わりとも思える様な叫び声と共に物凄い爆音が聞こえ、その方向を見るとどう考えてもこんな道をその車で暴走する奴がいるのかと言いたくなるような車が湖畔沿いの道を爆走していく姿がみえた。

あからさまに場違いすぎる。週末になると有名な坂をどこぞの走り屋漫画原作のアニメの影響を受けたのかわからないような人達が迷惑ともいえる走りをしている事があるが、そのような人達が乗っているような車ではない1台の軽ワンボックスが怪しげなドドメ色ともいえるようなゲスい電飾を光らせながら走り去っていったのだから。

思わずその光景に彼女も驚いたのだろう。

「・・・あれって一体・・・。」

僕はなんて答えたらいいのか分からないでいた。あからさまに見てはいけないモノを見た気分になっただけに。

「・・・多分、あれも走り屋の一種なんじゃ・・・。」

何とか絞り出した答えがこれだ。その答えに彼女はクスッと笑う。

「変な人もいるんですね。初めて見ました。」

「いや、僕もだから。」

何時の間にか二人の間にはちょっとした笑いが生まれていた。やはり彼女には笑顔が一番似合う。この笑顔を何時までも見ていたい。

このまま彼女と湖を眺めていてもいいとも思ったのだが、冷える夜に何時までも外にいるのも身体には良くない。

またそっと彼女の手をとり、家に戻る事にした。

家に帰るまでの少しの間ではあったが、握った彼女の手がほんのり温かみを取り戻していたのと、彼女が僕の手を離さないように握り返してくれていたのがとても嬉しかった。

お読みいただきありがとうございます。

次話は 2020/07/15 20:00頃 公開します。

(次話はかなり重い話になります。書いてて本気で病みかけました。)

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