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recollection  作者: 朝霧雪華
第 6 話 Lycoris
33/62

第 6 話 Lycoris (1)

 【ご注意】


作品の構成の都合上、一部の人にとってはトラウマを思い出させる事になるような描写があるかもしれません。

また、全てフィクションであり、登場人物、時代背景、起きた事件など全て実在するものではありません。


1話辺りの文書量が多い話につきましては分割して投稿していきます。

次話の投稿につきましては筆者のTwitter ( @SekkaAsagiri ) または、下部コメント欄でご案内します。

(案内忘れも発生するかもしれませんが、お許しください。)

第 6 話 Lycoris


 暗い夜道をひたすら走った。『逃げなきゃ』その一心で。

今のところ、私が逃げ出した事には気がつかれていないようだけれど、気がつかれて捕まってしまったら何をされるかわからない。

舗装された道とはいえ、所々に落ちている石が素足に突き刺さり、痛みが走る。

夏の夜とはいえ、今の格好だと肌寒い。今の私は下着姿。

時折みえる車のライトを見つけては身を隠せる所に身を潜め、過ぎ去ったのを確認してひたすら道を走った―――。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 どれぐらい走ったのかはわからない。ただ、ずっとずっと下り坂のような道で、途中にある大きな滝の処には遊歩道もあって車は入ってこれそうもない道があり、そこを使ったりしたかいがあってか、思ったよりも遠くに逃げてこれたと思う。

私が逃げ出した場所は大きな湿原のような所にある駐車場だったのだけれど、今は大きな湖が見える所まで来ている。

もう少し行くと明かりの点いた建物があるようだから、そこまでいけばきっと大丈夫。そう信じて足の痛みに耐えつつ走り続けた。


 やっとの思いで湖のそばまで来たのはいいけれど、ホテルや会社の保養所や観光者向けの店が多く、防犯のためにつけたままと思われる灯りばかりだった。

『やっとここまで逃げてきたのに・・・そんな・・・』そんな思いに押し潰されそうになる。一歩一歩の足取りも重くなり、絶望と私をそのうち追ってくるだろう男への恐怖が私の中を埋め尽くしはじめた。

 そんな思いに圧し潰されそうになる私に微かな希望の光がみえた気がした。

もう少し先にある建物の窓から湖を眺めて話している二人の人物がみえたから。

窓を閉めて気がつかれなくなる前に行かなきゃと力を振り絞って、その建物まで近づく。

近づいて気がついたのだけれど、その建物はカフェを併設した家だった。

その家の窓から湖を眺めていた二人も私が近づいてくるのに気がついていたようで、私が家の近くまで近づくと、驚いたようで先ほどいた部屋から玄関の辺りまで降りてきてくれていた。

最後の力を振り絞って、チャイムを鳴らすと、二人は玄関を開けて、私の様子をみるなり驚いていた。


 冷静になって考えてみれば私でもわかる事だけど、驚くのも当然だよね。

だって、こんな夜更けに、どうみても小学校高学年な背格好の私が下着姿で、ましてや素足でいるのだから。

ましてや、腕や足には拘束されていた跡が残っているし。どうみても異常だから―――。


 そんな姿をみた二人―――もしかして若い夫婦なのかもしれない二人は、心配そうに家の中に入れてくれた。

家の中に入ると、そこはカフェと言われるお店の店内。中は落ち着いた雰囲気があって私のような子供が来ていいのかな?と思うようなとこもあったけど、これで助かったのかもしれないという安心感を感じられるところだった。

私を家に入れてくれた二人のうちの女の人が、安心したからかもしれないけれど、震えていた私をゆったりとくつろげる広さのあるソファーに案内してくれて、男の人は奥に戻ると毛布を持ってきてくれて、私にそっとかけてくれた。

「ベル、その子の事みててあげてくれないか?」

男の人はそう女の人に声をかけると、女の人は私の隣に座って優しく私の冷え切った手を握りしめている。

「大丈夫?」

ベルと呼ばれていた女の人が優しい声で心配している。

「ごめんなさい・・・。」

私はそうとしか言えなかった。何を話したらいいのか、どうしたらいいのかわからなくなっていた。

あの男から逃げる事に精一杯になっていたのもあって。

うつむき加減でそう答えた私をみていた男の人も心配そうにしつつも

「とりあえず、落ち着いてから話せるなら話してくれればいいから。それに僕がいると話辛い事もあるだろうし。僕は一息つけるようにお茶を淹れてくるよ。」

そういってカウンタの奥に入っていった。


 しばしの沈黙が続いた後、カウンタの奥からいい匂いが漂ってきた。

その匂いのお陰もあってか、少しずつぽつりぽつりと話し始めた。

「ごめんなさい・・・先ほどは助けていただきありがとうございます・・・。」

私がこうなってしまった事を少しずつ―――。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 私は母と3歳年下の妹と暮らしていた。世間一般でいう母子家庭。

父親の顔は覚えていない。妹が生まれてすぐに父と母は離婚したからだ。

離婚の理由は知らないけれど、母の態度を見ていれば理解できた。

多分、母の浮気が原因なんだろう。実際に父から養育費が払われているって話は聞いた事は無いし、払われていればもう少し楽な生活が出来ていたと思う。

それに母の言動をみていれば、原因が母にあるとしか思えなかった。

平日は平日でどこに行っているかは分からないけど殆ど家にはいなかったし、休みの日となれば見知らぬ男を家に連れ込んでいたような人だ。ましてや男を連れ込んでくる度に私や妹を家から追い出していたほどだったし。

他にも、家事は出来ないのかはわからないけどしなくて、私が小学校に入り、家庭科で料理を習って自炊を始めるまでの家での食事は、菓子パンやスーパーのおにぎりやお弁当ばかり。

殆ど家にいない母は家のテーブルの上にその日の分の菓子パンやおにぎりなどを置いておくだけで料理を作ってくれるという事はなかった。

こんな生活をしていたら、妹は病気になってしまうと思っていた私は、何時の間にか年齢には見合わないと言われるぐらいしっかりした考えを持つようになってしまっていた。

『自分がしっかりしなきゃ誰も助けてくれない』そんな風に考えるようになっていた。

私が料理をするようになってからはもっと酷く、必要な食費と言って1000円札を置いていく事が数日おきにある程度にまで酷くなった。

洋服も学校で必要な物も母が何処からか貰ってきた古着や貰ってきたノートや筆記用具などを使うしかないような生活。

 そんな生活が続いたある日、小3になったばかりの妹が原因不明の病気で吐血し倒れた。

救急車で大学病院に搬送された妹は命を失う事はなかったけれど、何時、容体が悪化して血を吐いたりするか分からない状態で何時退院できるかもわからない。そんななのに母は妹の事を心配する様子もない。

『妹の入院費、あの母はきちんと払っているのかな?』とそんな心配が常によぎるぐらい母は私にも妹にも関心を示していなかった。

母がそんなだった事もあって、行ける時には妹の様子を見に病院に行くようにしていた。

 

 ちょうど夏休みに数週間前の事だったと思う。妹の様子を見に行った時にこんな事を言われた。

「お姉ちゃん、お母さんは何時になったらくるのかな・・・。」

私は何も答えられなかった。あの母の事である。何時かなんてわからない。

少し言葉に詰まりながらも妹はこう続けた。

「・・・もし、お母さんが来たらだけど、ワガママ言っていいのならなんだけど、退院したら3人で夢のテーマパーク行ってみたい。みんなでパレードみたり、あのネズミの耳とかつけたりしたい。」

思い起こしてみれば、3年生の遠足はあのテーマパークだ。妹はずっと楽しみにしていたのだろう。もし出来る事なら妹の夢を叶えてあげたい。そう思った。

病院からの帰り道、私は一人考え込んでいた。

『小学生でも出来るアルバイトってないかな?』と。コンビニやスーパーで見かける求人募集は高校生ばかりからで、小学生の私には無理だ。

少しでも稼いで、3人分の1日フリーパスが買えれば妹も喜ぶかもしれない。けれども、働ける方法が思い浮かばなかった。


 それから少し経って、あと数日で夏休みに入る前ぐらいの頃、学校の友達からこんな話を聞いた。

「この前の土曜日なんだけど、駅前歩いていたら、『小学生でも出来るモデルの仕事してみない?!』って声かけられたんだよ。けど、怖くなっちゃって逃げてきちゃった。」

「何それ、怖いー。」

「わかんないよねー」

「最近、変な人多くない?」

「「「わかるわかる」」」

私は『小学生でも出来るモデルの仕事』という言葉に反応した。友達は別の話に夢中になりつつあったけど、気になったので思わず聞いてしまった。

「小学生が出来るモデルってなんだろ??」

と。そうすると友達は私を心配そうな目をした。

「美希、そんなのに興味持っちゃダメだよー。美希、自覚ないだろうけど可愛い方なんだから、変なのだったら大変だよ?」

「「「そうそう」」」

その場にいた全員に心配されてしまった。けれども、その心配されている以上に妹の夢を叶えてあげたい気持ちが強くて、その言葉が私には入ってきていなかった。

その話を聞いた週末、私は駅前にいた。本当にそういう人がいて紹介してくれるならという淡い期待をもって。

お読みいただきありがとうございます。

続きの「第 6 話 Lycoris (2)」は2020/07/06 19:00頃公開します。

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