【閑話】Gypsophila - after story 1 (6)
絢が目覚めてから数日が経過した。
ゆっくりではあるが、少しずつ着実に絢は回復している。
その間、春太郎と千秋と長老様の関係が楽しい事になっていたのは公然の秘密だ。
長老とは言えども、人の子。出て行ってしまった(追い出してしまった)一族の中で最も優秀な子孫は可愛かったのだろう。
村の人達は誰一人として春太郎と千秋が村に戻ってきている事は知らないし(死んだとされている)、屋敷に仕える者達でも限られた一握りの人達だけしか知らない。だからこそ、気を使わずに本来の望んだ姿での接し方が出来たのだろう。
はっきり言ってしまえば、あの光景は長老としての威厳を失うようなものである。
それは絢に対してもであった。長老も絢と接する従者も絢の前では狐である事をわからないようにしていたし、絢の正体も千秋の正体も隠し続けていた。
だからこそ出来る、孫バカ過ぎるおばあちゃんの姿とだけ言っておこう。
あれから2週間が経過した。
完全とも言ってもいいほど絢は回復していた。
流石にこれ以上世話になるわけにも行かないし、絢は会社を欠勤したままの状態になっているし、私も春太郎も有給消費中とはいえ長期間休み過ぎると会社に迷惑がかかると考えていた。
それに、昨日の夜恐る恐るスマホの画面を見るとよほどの急用や最重要な連絡の電話は一切無かったが、仕事を押し付けてきた同僚と後輩からの恨み辛みとも言えるLINEのメッセージが入っていたのであった。
うん、これは確実にあの会社最強の嫌がらせ「祝ってやる」の祝福を受ける事になる―――直感的に恐怖を覚えたのは言うまでもない。
想像を絶する祝ってやるをやられる前にも戻らなくては、と思えたほどだ。
下手をすれば、絢の会社も巻き込んでくるだろう。あの会社はそういう会社、あそこの社員はそういう連中だと分かっていたからだ。
絢やその両親、長老様と話し合い、帰る日程を決め、荷物をまとめる。
必要のない荷物は前もって車に積んでおき、帰る日には簡単に済むように準備をしておいた。
なにせ、帰宅は絢にここの場所が悟られないように早朝にでると決めていたからだ。
帰宅の当日。
まだ外は薄暗い。日が昇る前の一瞬のまどろみを感じさせる瑠璃色の空とは言い難いほどの暗さだ。
朝早く出発するので見送りはいいと言っておいたのにも関わらず、長老が見送りに出てきてくれていた。
「もう帰るのかの・・・寂しくなるな」
そう長老は言うと、何かを取り出して絢に渡した。
「絢、これを無くしておったじゃろ。今度は無くすんじゃないぞ。」
長老が手渡したもの―――それはヒビが無数に入り今にも砕け散りそうなほどにまでなっていたペンダント。それが見事に修復され、以前よりも綺麗な状態になっていた。
「あ、ありがとう、おばあちゃん」
絢はお礼を言って受け取った。
「本当はおばあちゃんというよりもひいおばあちゃんの上の上なんじゃがな・・・。」
長老は絢に聞こえないようにそうぼやいていた。
「それじゃ、そろそろ帰ります。色々とありがとうございました。」
春太郎がそうお礼を言い、千秋、私、絢は頭を下げた。
「うむ、気を付けて帰るのじゃぞ。それとじゃが、そのうちそっちに遊びに行かせてもらうぞ。いい加減、儂も引退したいもんじゃし。」
「それとじゃが、婿殿、絢と例の場所には行くのかの?行くのなら儂も行きたいのじゃが。」
長老もあのカフェが気になるようであった。もちろん、その要望には応えたかったので「はい」と答える。
そして絢に聞こえないように、そっと語り掛けてきたのだった。
「絢の件では世話になったからの。その店にいる者には礼をせんと―――」
長老に別れを告げ、車はゆっくりと走り出す。
私と絢が生まれ育った街に向かって―――。
▽△ おまけのこぼれ話 ▽△
淳に絢のもふもふな耳と尻尾をもふらせようかなーとも思ったのですが、それやっちゃうと春太郎と千秋と長老の願いが叶えられなくなってしまうと思って辞めました。
いや、春太郎が千秋をもふり、淳が絢をもふって春太郎&淳がハリセンの餌食になるなんていうのも考えてしまった私が悪いんですけどね。
もふもふは正義!と言ってダメな親子の繋がりでも作らせて、千秋と絢に二人まとめてボッコボコにされるなんていうのも面白いかな―とも思ったんですけど、それもダメ過ぎるって事でボツに。
(その手の事は別作品でやれって事なんでしょうけど。)
☆★☆★☆★☆★
次話は 2020/06/16 00:00頃 公開します。