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recollection  作者: 朝霧雪華
【閑話】Gypsophila - after story 1
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【閑話】Gypsophila - after story 1 (3)

 出発の当日がついにやってきた。約束の時間に絢の家に行くと電気自動車『LEAF』の最新モデルが停まっていた。

絢の両親が車に必要な荷物や車の充電ケーブルを積み込んでいたので挨拶をした。

「おはようございます。」

「「おはよう」」

挨拶を済ませ、荷物の積み込みを手伝う。春太郎から「淳君の荷物はこれだけかい?」と聞かれたりもしたが、そんなに大荷物にするつもりもなかったので「そうです」と答え、出来る事を手伝う事にした。

「淳君、これから向かう場所はとてつもない山の中だ。ガソリンスタンドも1軒しかない、コンビニも1軒。住み慣れたこちらとは違う世界だから覚悟してくれ。」

「わかりました。覚悟はできています。私にできる事はなんでもしますので、よろしくお願いします。」

そう春太郎に向かって言うとその様子をみていた千秋が呟いた。

「あの子がここまで愛されていたなんて。この場にあの子がいたらどうなったのかしら。」

とりあえず、聞かなかった事にしよう。絢がいたら絶対に顔を真っ赤にし固まっていたに違いないだろう。そんな事を考えていたら何時の間にか顔がにやけてしまっていた。

今は、そんな事を考えている場合じゃない。気持ちを切り替えていかなければ。

頭を切り替え真剣な顔つきに戻す。

春太郎がこれからの行程を話し始めた。

「まずは、高速に乗り村の近くのICまで進む事にする。淳君、確か免許は持っているよね?村の近くのICを降りたところにあるコンビニまで運転していってもらっても構わないだろうか?」

「わかりました。電気自動車は初めて運転するのですが、大丈夫でしょうか?」

「普段運転しているなら問題ない。最初は違和感があるかもしれないが直ぐに慣れるよ。」

初めて運転するタイプの車、ましてや絢の両親を乗せての運転。慎重に気を付けなければと気を引き締める。

その様子をみていた春太郎は「うむ」とうなづき、行程の続きを話した。

「コンビニにつき次第、そこが最後の充電ポイントでもあるから満充電になるまで一度休憩をし、そこからは私が運転をして村を目指す事になる。淳君にとっては物珍しい光景が続くかもしれないが村の近くまで行ったら決して後ろを振り向かないでくれ。あの村には色々とあるから、知らない方がいい事も多いだけに。」

「・・・わかりました。」

「それじゃ、行くとしますか」

そういうと、春太郎が助手席に乗り、千秋は後部座席に乗り込んだ。


 初めて運転する電気自動車、その音の静かさと加速性や走行性の高さには驚かされた。

はじめのうちは慣れない事もあり、言葉数も少なく運転に集中していたが高速に乗ってからは慣れも出てきたのもあってか絢の両親に聞きたかった事を聞いてみた。

「そういえば、何故、電気自動車なのですか?充電にかかる時間とか考えるとガソリン車やハイブリットの方が良かったのでは?」

最悪は携行缶に燃料を積んでいき給油できるガソリン車やハイブリット車の方が時間を節約できると思ったからだ。

その疑問に千秋が答えてくれた。

「先日話しましたが私も春太郎も村を追われた身。1ヵ所しかないガソリンスタンドに立ち寄れないのもありますし、それ以上に走行音の静かな電気自動車の方が村の人達に気が付かれるないで済むかもしれません。もし、村に近づいたのに気がつくとしたら長老様ぐらいでしょうから。」

春太郎も補足するように説明してくれた。

「よそ者が殆ど来る事がない村だからな。見慣れない車がエンジン音を立てて走っていれば村の人達の話題になってしまうかもしれない。なにせあの村は走っている車は少ないし、顔見知りばかりだからあの車は誰のだとすぐにわかるだろうし。用心に越したことはないんだよ。」

人混みの多い雑多な街に住んでいると気がつかない世界が村の中にはあるようだ。

街に住んでいると忘れてしまっている古き日本の風習―――良く言えば助け合い、悪く言えば監視社会そんな風習が。街では隣は何をする人ぞで隣人がどんな人なのかを知らない事が多い。ただ、田舎ではそんな事はなくほぼ全ての情報が筒抜け状態で伝わっていたりするのだろう。

もし伝わってない事があるとすれば、村の権力者や実力者が本気を出して隠匿しているのかもしれない。


 出発してかれこれ4時間を過ぎたぐらいだろうか。途中途中で休憩と充電を挟みながら目的のICまで辿り着き、高速を降りる。

高速の入り口と一般道の合流する地点は周囲に工場が点在してはいたが、ナビの指示通りに少し進むと周囲は田園地帯が広がるのどかな田舎の景色になった。

ナビの画面を確認するとまだまだ目的のコンビニは先―――道も所々狭くなり時にはセンターラインも消えるようなところもあった。

そんな道をひたすら進む。まばらではあるが民家も現れ始め、もう少しすると目的のコンビニがあるようでナビの画面にも目的地を示すピンが表示されるようになった。


 正直言えば一人でこんなところまで来られたかというと、来られなかっただろう。

絢の両親が居たからこそ来られた。

目的のコンビニに着くと、車を降り、ゆっくりと背伸びをした。

助手席から降りた春太郎も同じように背伸びをし、慣れた手つきでコンビニに設置された急速充電スタンドと車を繋ぐ。

「ここまでお疲れ様。こんな距離、普段は運転しないから疲れただろう。けど、こちらとしては助かったよ。」

春太郎からそう労われた。

「いえ、大丈夫です。それよりも、絢は今どうしているのか。」

「あの子はきっと大丈夫。村が近いせいか、感覚が研ぎ澄まされるのか、そんな気がするから。」

千秋はそういうとコンビニで買ってきてくれたコーヒーを差し出してくれた。

「ありがとうございます。いただきます。」

コンビニのコーヒーとはいえ淹れたてのもの。そっと口をつけ一息をつくと今までの運転の疲れはどこかへ飛んでいくような気がした。

ふと、空を見上げる。

この空の下のどこかに絢はいるのだろう―――早く会いたい―――。

お読みいただきありがとうございます。

続きの「【閑話】Gypsophila - after story 1 (4)」は2020/06/04 00:00頃公開します。

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