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recollection  作者: 朝霧雪華
第 5 話 vergissmeinnicht
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第 5 話 vergissmeinnicht (7)

☆★☆★☆★☆★


 あの場所が襲われなければ、彼女の深い悲しみはもう少し違ったのかもしれない。

あの場所にとってはこの世界の人達の記憶や思いは過去の記憶の一部でしかないのだけれど、それが積み重なり複雑に絡み合った結果があの場所を構成し、全世界を作り出している。

そんな場所をあの一件は無茶苦茶にした。取り返しのつかない状況になるまで。

その件があって、特例でこの場所に居る事を認めらている私が彼女の深い悲しみや記憶に直接関わる事は出来ない。

それをやってしまったら職務違反でもあり、世界の理をあの者達のように壊す事になる。

過去は変えられない、起きる事が決まっていた災害も変える事は出来ない。

今の私に課せられた任務―――その悲しみや起きてしまった事を私は見つめ、回収し、あの場所に送り届ける事。

今の私に出来るとしたら、彼女自身が過去を見つめ、自分自身でのけじめや結論をだして変わる事を願う事。

今回は、彼女の友達の存在があった事でいい方向に進み始めたのかもしれない。

 

この世界に落とされた私の中に、あの場所に居た時にはなかった不思議な感情が生まれているのに気がついた。

私に課せられた任務と私の中に生まれた感情―――その狭間の中で私が揺れ動きはじめていた。

その気持ちが何なのか今は分からない。

気がつくと、私は首にぶら下げた七色に光る石の入ったアクセサリをそっと握りしめていた―――。


☆★☆★☆★☆★


 あの件から暫く経過したある日の事、私をいじめていた3人組は学校に来なくなった。

あの時、私の事を一生懸命探し、一緒に泣いてくれた麻衣によると、あの3人組の中心人物であったトモミの両親が公職選挙法違反で地検と一部マスコミから目を付けられ、関係者としてトモミの取巻きだったアキエの父親が逮捕されたのもあって、トモミの両親に苦汁を飲まされ続けてきた人達が反撃に出始めた事でこの街にいられなくなったらしい。

もう一人の取巻きだったサナエの親も公職選挙法違反は別の贈収賄の件でトモミの両親との関係を週刊誌で報道され、公職選挙法違反事件とも絡んで大々的にワイドショーでも報道される事となって身の危険を感じたのかこの街から出て行ったようだった。

あの3人が居なくなった事で、あの3人の悪事を見て見ぬふりをせざる終えなかった学校の先生達や一部のクラスメイト達も普通に接してくれるようになった。

中には、あの3人組の親の悪事の暴露ついでに娘である3人組の悪事の数々をマスコミに売り渡す生徒もいたようだ。

この時までは知らなかったのだけど、私以外にもあの3人組の被害に遭った人達が多数いて、その被害の内容も様々。私は運よく中学時代はあの3人組とは別の学校だった事もあったので知らなかったのだけれど、私が受けた嫌がらせと同じ事をされた挙句、中学生なのに身籠ってしまい進学を辞めざる終えなくなった人もいた。

今だから言えるのではあるのだけれど、もし、同じ中学だったらそうなっていたのは私かもしれない―――そう思うとぞっとする。

ただ、何時までもあの3人組が好き勝手できる時代は続かなかった。今回、あの3人組がやってきた数々の行為があの3人組に別の形となって襲ってきたのだろう。

そう思うと、あの時に死のうと思っていた私はなんだったんだろうと思う。

多分、自分の事しか見えなくなっていたのかもしれない。

そのせいで大切なモノが見えなくなっていたのかもしれない。

あの件の後、叔母夫婦とそれまであった事を話した。私が一人で抱え込んでそこまで陥っていた事を聞いた叔母は泣きながら私の事を叩いた。その時の痛みは今も忘れない。痛かったけれど、とてもやさしくて思いのこもった痛みだったから―――それがあったからかもしれない。あの件の後、叔母夫婦とは本当の親子になれたと思える。

今まで言いたくても言えなかった事、心の中に仕舞い込んでいた事、親子だから話せる事、そんな事が出来るようになった。

叔母夫婦に引き取られてから初めて出来た本当の意味での親友と言える麻衣の存在も大きい。

麻衣がいてくれたから、あの件の後、念のためと言われて病院への通院と自宅療養をし、数週間休んだ後、学校に行けるようになった。

学校に行かなかった期間の分の勉強は麻衣が一生懸命教えてくれたお陰で、何とか留年せずに進学できそうだ。ただ、出席日数の関係で長期休みは学校に行かなければならないけど、あの3人組が居なくなった今はそれも苦ではないし、むしろ、先生達とも良好な関係を築けるようになったから。

生徒が少ない時じゃないと教えてくれない話とかしてくれる先生達がいたりするからだ。その話を聞いているだけでも楽しい。


 過去は取り返せない。だから、背負って生きていかなければならない。

何時までも思い出を抱きしめ泣いていても何も変わらなかった―――。


 もう、本当の両親はこの世界にはいない。けれど、パパやママは遠くから見守っていてくれている―――そして、何時も私の心の中にいる―――これからは、失った家族の分も頑張って生きていく―――私はもうあの頃とは違うのだから。

正直、この話は書いててかなり辛かったです。どこまで書くべきか、どのように表現すべきか、何処までこの話の主人公である唯を不幸にすべきか悩み過ぎて、心が完全に折れかけました。

(作者にとって主人公とかって子供みたいな存在であったりもします。親なら子供が不幸になって壊れていくなんてみていたら辛いものです。)

そんな時は夜中に某所で湖と星空をぼーっと眺めたりもしてました。お陰で何とか書けたかなーって感じです。

あとはこれを書いている最中(2020/05/04)、よりによって震災直後のシーンを執筆している途中に緊急地震速報が鳴って心臓がとまるかと思いました・・・。


次話の更新予定は 6月 に入ってからを予定しております。決まり次第、Twitterなどで報告します。

スコシダケヤスマセテクダサイ。

(数話分のストックはあるけど、心もとないのと、状況が状況なので執筆が出来るかどうかの問題が・・・。)


2020/05/25(追記)

お読みいただきありがとうございます。

次話は 2020/06/01 00:00頃 公開します。

また、誤字報告&評価、ありがとうございます。

基本的に予約投稿して放置プレイしてる事が多いので気がつくのが遅くて申し訳ございません。

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