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recollection  作者: 朝霧雪華
第 5 話 vergissmeinnicht
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第 5 話 vergissmeinnicht (6)

 ある日の日曜日、あの3人組から呼び出された。

「今すぐに来い」と。本当は行きたくない。けれど、行かなければ何をされるかわからない。監視アプリのせいで居場所はバレている。

指定された場所に行くと、あの3人と脂ぎった男性がいた。

「へえ、この子が相手してくれるの?」

男はそういうとトモミに多額の現金を渡す。

「これだけ渡したんだから、何やってもいいんだろ?」

にやけた顔で男はそういうと私を嘗め回すようにいやらしい目つきで見ていた。

男に聞こえないようにアキエが私に言う。

「逃げたらどうなるか分かっているんだろうな。」と。

その間、男はサナエから何か吹き込まれていたようで、ニヤニヤとした気持ち悪い笑みを浮かべていた。

男がゆっくりと歩きだし、それについて行くように私は歩かされた。その行先はラブホ街。

私が逃げないように3人組がホテルまで着いてくる。私と男がホテルに入るのを見届けると3人組はホテル街から離れていったようだった。

 

 ホテルに入ると男は手慣れた手付きで部屋を決め、私をいやらしい目で見続けている。

「それじゃ唯ちゃん、部屋行こうか(ニチャア)」

そう言って男は私の肩に手を伸ばしてきた。

「イヤ」

心の底からの拒否が口から零れ、男の手から逃げるように身体をそらした。そうすると男は、

「おやおや、嫌われちゃったかな―。部屋行ったらシャワー浴びないとダメかな―。」

そう言って私を見続け、部屋に向かって歩いている。

「そうそう、僕さ、中学校で学年主任しているんだよねー。だからいろんな子見てきてるけど、唯ちゃんのような美人は初めてみたかなー。こんな子とヤレるなんて今日はラッキーだわ。」

なんて返していいのかわからないし、話したくもなかった。正直逃げられるなら逃げたい。その気持ちがどんどん強くなっていく。

気がつくと部屋の前まで来ていて、男に部屋の中に引っ張り込まれそうになったけど、なんとかかわして、最悪の状況になるのを避けるようにした。

押し倒されたら、それこそ終わり―――。

私が男に引っ張り込まれそうになったのを避けたのを男は気にしたのか

「あらあら、完全に嫌われているのかなー。それならシャワーを浴びてきて綺麗にしないとダメかなー。」

そう言って一人バスルームに向かっていった。


 これはチャンス―――そう思った私は一目散に逃げだした。

ホテルの正面から一人で逃げだしたらあの3人に見つかるかもしれない。そう思った私は非常口を探し、そこからホテルを抜け出した。

ホテル街を駆け足で抜け、ホテル街から一番近い駅に逃げ込むと持っていたスマートフォンをコインロッカーに投げ込み、鍵をかけ、どこ行きの電車かわからないけれど飛び乗り、街から離れた。

少しでもあの3人に見つからない所に逃げたかった。

もう、あの街にも学校にも叔母夫婦の家にもいられない。

ただただ、私は見知らぬ街を彷徨い歩くしかなかった。

手持ちのお金も少ない。ご飯はパン1個で済ませ、寝泊まりは夜露がしのげればいいと神社の境内や公園の遊具の中で済ませた。

服や身体の汚れは公園の公衆トイレで落として耐えた。

そんな生活を2週間続け、私は心身共に衰弱していった。

もう、考える事も出来なくなっていた。何時からか、こんな私なんていなくていい、死にたいと思うようになっていた。

そんな思いが脳内に渦巻いていた時にふと逃げ出した時に駅で見かけたポスターを思い出した。

『安らぎの―――路』そう書かれたポスターには綺麗な湖と湖面に写る山、山の麓には大きな神社が写っていた。

あんな場所で最後を遂げれたら―――そう思い電車を乗り継ぎ、あの場所へ来ていた。


 ポスターで見た場所。ここは天国に一番近い場所なのかもしれない。そんな気がした。

周囲には人影もなく、このまま湖に沈んでいきたい。

そう思うと、自然と足が湖の中へ向かっていく。

ゆっくりとゆっくりと視界と身体は水の中へと。


『―――貴女はこのまま終える気なのですか?』

どこからともなく語りかけられた。

けれど、私は答える気力もなく、声を無視し、ゆっくりと眼を閉じた。

『―――このまま終えて何が残るのです?』

何も残らない、残らなくてもいい。今の私は、パパやママや弟がいるあの世界に行きたい。

『―――このままでは会いたい人には会えません。永遠の別れしか待っていませんよ。』

そっか、それならそれでもいいか。もう考える気力すら失われていた。

『―――目を背けても何も変わりません。貴女は貴女を大切に思ってくれる人が悲しむ姿をみたいのですか?』

私にそんな人いたっけ?頭が回らない。もう疲れた。

『―――ならば、一度目を開けて自らの目で確認してごらんなさい―――』

その声は優しくも物悲しく私に語りかけていた。

一度目を開けて何もなければ、再度目を瞑ればいいかと思った私はゆっくりと眼を開けてみる事にした―――。


◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 何時の間にかウトウトしていたようだ。目が覚めると気のままに入ったカフェの中だった。

そう言えば、ここ1週間まともに寝てなかったんだっけ。

さっきみた夢のような事を考えていると、お店のドアが勢いよく開いた。そこには一人の少女がたっていて、中を見るなり飛び込んできた。

「探したんだから!!」

少女はそういうと、私の頬を勢いよくビンタした。『バチンッ!!』と物凄い音が店内に鳴り響いた。

私は叩かれた事で意識がはっきりし、目の前にいる少女が誰なのかを理解した。

「麻衣ちゃん・・・どうしてここに?」

そう聞くと、麻衣は涙を浮かべながら私に詰め寄った。

「どうしてここにじゃないよ!2週間、何処に行ってたの?!学校に来ていない、家にも帰ってない、本当に心配したんだから!!」

麻衣の声は、どんどん涙声になっていく。

「麻衣のお父さんもお母さんも心配してたよ!!それと、唯、ごめん、唯の家に心配で押し掛けた時に、ご両親から唯の事、色々と聞いちゃった・・・。力になりたいと思っていたのに力になれなくてごめん・・・」

麻衣は大粒の涙をこぼしながら話てくれた。

通学の時に私を見かけなくなって、気になりだして、学校の友達や先輩達に聞きまわって、それでも行方をつかめなくて、最後は私の叔母夫婦の家にも押し掛けて探してくれていた事を。

叔母夫婦も私が帰ってこない事を心配し、すぐに探し始めたけれども手掛かりをつかめずに途方に暮れていた事も。特に叔母は、私が居なくなった事を自分の責任と感じてしまい、泣き崩れて体調を壊してしまっていた事も。

私は一人で抱え込んだ事でどれだけ周囲に迷惑をかけ、心配をかけた事を思い知らされた。

それと同時に、私が自分の事だけしか見えなくなっていて気がつかなかった、気がついても受け入れられない私がいてわからないふりをしていた、私を大切にしてくれる人が、家族が、友達がいるって事を。

今回の事でようやく私は気がついた。気がつくと私は麻衣と一緒に泣いていた。

泣きながら、私の口から今まであった事を話せる限り話した。

全てを話終えると麻衣がこう言ってくれた。

「私も一緒に謝るから、麻衣の叔父さん叔母さん・・・じゃなくてお父さんお母さんに謝って、きちんと話そう―――」

その言葉がとても私には嬉しかった。

私も麻衣も泣き疲れたのもあって、少しの間、微睡の中に落ちていた。

どれぐらいの時間が経ったのかはわからない。窓の外をみると太陽が西の空に差し掛かりはじめていた。

ふとテーブルを見ると注文をしてないのに、私が注文したお茶と同じ物が麻衣の前にも置かれてあって、その間には小洒落たお菓子が置かれている。

二人とも疲れていたのか、お腹が可愛く鳴ったのを感じ、少し恥ずかしくなる。

置かれていたお菓子を食べていると、女性の店員が新しく淹れ直してくれたお茶を持ってきてくれて、目の前においてくれた。

「無理はしないでくださいね」

女性がそういうと優しく微笑んでくれた。

その優しい微笑みはまるで天使か女神のようであった。

出してもらったお茶を飲み、一息をついた後、麻衣と一緒にカフェを出た。


 私はもう一人じゃない―――これから生まれ変わったかのように私が出来る事から始めるんだ―――そう心に誓って。

お読みいただきありがとうございます。

続きの「第 5 話 vergissmeinnicht (7)」は2020/05/17 08:00頃公開します。

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