第 5 話 vergissmeinnicht (5)
私は希望の医科大学に進学する人も多い念願の高校に入学し、新しい生活が始まった。
麻衣とはクラスどころか、コースも違くなってしまい会えない事が多くなったけれど、仕方がない。
私は理系に進む人の多い英進コース、麻衣は文系に進む人の多い特進コース。進む方向性の違いでカリキュラムの一部が違うようでこういう分類分けがされているらしい。
校舎も英進と特進は同じ建屋内だけどフロアが違い、また進んだ高校はマンモス校だった事もあって敷地も広い。
私が進んだコース以外にも普通科コースや情報工学コースなんていうのもあるようで、この二つは同じ敷地内でも英進・特進コースがある校舎とはかなり離れた場所にある。
詳しくは知らないけれど、一部のコースは問題児も多いらしく、その問題児によって英進・特進コースの生徒に被害が出ないようにとの配慮もあるとかで、出入り口も別れていた。
ただ、一部の生徒はルールを無視して勝手に使ってはならない出入り口を使っていたようだけど。
高校生活にも慣れ始めたある日、私は会いたくない人達を目撃してしまった。
よりによって、英進・特進コース専用の出入り口を勝手に使って入ってくる人物の中に。
その時は気がつかれずに済んだけれど、もし、私の事にあの人物達が気がついたらと思うと内心焦りを隠せなかった。
英進・特進コース専用の出入り口は繁華街を通り駅方面へ向かうバス停が近く、遊び歩いて帰りたい他のコースの生徒が勝手に利用する事が多い。普通科や情報工学コース専用の出入り口は、学校が契約する直行バスしか出ておらず、遊びたい人達にとっては直接家に帰れと言われているようなものであった。
学校側も勝手に利用する生徒の対策をしようとしてはいたけれど、英進・特進コースの生徒だけでもかなりの人達が利用しているので確認するのにも大変でなかなか対策がされずにいた。
会いたくない人達を目撃してどれぐらい経ったかは忘れてしまったけれど、遂に恐れていた事が起きてしまった。
そう、あの3人組に私は見つかってしまった。よりによって、人の少ない帰宅時間の出入り口で。
「ふーん、あんた、まだ生きてたんだ。てっきりこの街から居なくなったか、死んだかと思ってたわ。」
私を最も毛嫌いしていたアキエがそう言って絡んできた。
「へえ、お前もこの学校だったんだ。そうだ、いいからツラかしなよ。」
トモミがそう言って私の腕をつかみどこかへ連れて行こうとした。抵抗しようとすると、反対側の腕をアキエが掴み、トモミが掴んでいた腕はサナエが代わりに掴んできて、トモミは私の背後に回った。
もう、逃げられない。小学校時代の恐怖が私を襲う。何をされるかわからない。
中学は学区が違う事もあり、高校では遭遇する事は無いと思っていただけに絶望が私を支配した。
3人組に連れられるまま、学校の人気のないところに連れ込まれた。
「あたいらさ、お金に困っているんよ。沢山持っているんでしょ。お金。あの震災でいっぱい貰ったんだろうし。」
サナエが私を睨みつけながらそう脅してきた。
両親が残してくれた保険金などはあるけれど、それは、私が将来進むべき道に進んだ時に使おうと思っていたお金である。みんなから貰ったお金、だからこそ、恩返しする為に使いたいと残してあるお金。そんなお金だから巻き上げられるわけにはいかない。私が「そんなお金はないです!」ときっぱりと断るとイラつきながらトモミが言い放った。
「あのさ、あんたに小学校時代に傷つけられた傷があるんだよね。その話、学校中にばら撒いて学校にいられなくしてやろうか?!私のパパが誰だと思っているんだ?そんなのは簡単なんだよ。」
そう言って、小学校時代に私のせいにするために自ら傷つけた腕の傷を見せつけてきた。
この傷によってトモミの親は小学校に乗り込んできていたのだから。
私が傷つけたものではない。小学校の頃はこんな傷があるなんて知らなかった。それをこのタイミングで見せつけてきたのだ。
そして、また今もあの時と同じ事をトモミ達はしようとしていた。私を悪に仕立てるために。しかも、私の目の前で。
アキエが隠し持っていた鈍器のような物を受け取るとトモミはサナエを傷つけ始めた。
サナエは大声で「英進コースの唯ちゃんに殺される!!助けて!!」とわざとらしく騒ぎ立てた。
私はあまりな出来事でどうしていいのかわからなくなってしまったのと、この状況でいたら責任転嫁されるというあの頃の恐怖に襲われ、言う事を聞いてしまった。
それから、何かにつけては金を無心されるようになり、両親やあの当時の政権与党だった人達がくれた国から義援金、国民みんなが出し合ってくれた義援金すべてを3人に巻き上げられてしまった。
たった数ヶ月で数千万があの3人によって使い果たされてしまった。
払えるお金が無くなった事を知ると3人組は別の方法で稼いで渡してこいと要求してきた。
「あんたは、私達善良が市民が寄付した義援金を自分の保身の為に使った最低なクズだ!」などと攻め立てながら。
私の持っていたスマホにはあの3人組によって監視アプリがインストールされ、常にどこにいるか監視されている状態にもなっていた。
もう、逃げ場は完全にない。言われた通りにするしかない。私はもう何も考えられず、周囲が見えなくなっていた。
あの3人組が私に稼ぐ方法として提示してきた方法―――それは援助交際。はっきり言ってしまえば売春。
客はあの3人が募集し、私に斡旋する。そう言ってきた。
その為にと言われ、無理やり服を剥ぎ取られ、下着姿にされ、写真を撮られた。
私が抵抗すれば、私から巻き上げたお金の事や撮られてしまった写真の事を脅しの材料として利用して。
お読みいただきありがとうございます。
続きの「第 5 話 vergissmeinnicht (6)」は2020/05/17 07:00頃公開します。