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recollection  作者: 朝霧雪華
第 5 話 vergissmeinnicht
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第 5 話 vergissmeinnicht (3)

 翌日、日が昇り、街の全容がわかるようになって、起きた事の大きさを思い知らされた。

昼頃には救助の人達が学校に来た。

街や高台にある学校から離れた所にある避難所に向かう間の車の中から見た光景は、地獄絵図ともいえる光景だった。

道路は至る所で寸断され、家やお店が立ち並んでいた所は瓦礫の山となり、場所によっては瓦礫の上に船が横たわっていた。

電柱には息絶えた人がぶら下がり、中には私の弟ぐらいの子も波にのまれて亡くなったのかひっかかっていたりもした。

駅のあったそばを通った時には、駅舎が瓦礫と化していてその上に電車が乗り上げていた。

そんな光景を目にしながら避難所に連れて行ってもらえた事で、現実を思い知り、やっと色々と考える事が出来るようになったのも大きいのかもしれない。

ただ、その後に知った事実は私をどん底に落とした―――。

私の父や母、弟は津波に飲まれて亡くなったかもしれないという事実―――父の勤め先も母の勤め先もあの津波で流され跡形も残っていない。弟も家に帰る為に乗ったと思われるバス毎行方不明になっている。

役所の人達の話では、街の人達で助かったのはほんの一部だけ。大多数の人は亡くなったかもしれない。

今は見つかっていないだけで助かった人もいるからもしれないから、調査が進むまでは―――と言っていたけれど、子供心にそれは難しいと思っていた。


 あの震災から3ヶ月が過ぎ、両親と弟の死亡が認定された。遺体はまだ見つかってはいない。

見つかっているのは、父と母が身に着けていたと思われる社員証の一部と、弟が何時も通学の時に持ち歩いていた手提げ袋についていた名札ぐらい。

その後、役所から私の家族の死を知らされた母の妹夫婦が私を引き取る事になり、遠くの街へ行く事となった。


 私を引き取ってくれた叔母夫婦は、私の事を家族のように受け入れてくれた。

叔母夫婦が新しい学校への転入手続きなどを済ませておいてくれたのもあり、新しい学校へ編入するのも決まっている。

ただ、新しい学校にあたり、叔母夫婦から約束させられた事があった。

『決して被災地から転校してきたという事を言わない事』

あの震災の際に、私が住んでいた所からは離れた場所にある発電所が取り返しのつかない事故を起こした。

その影響で被災地から遠くに自主的に引越す人達に対して言われない差別をする人達がいたからだ。

学校の側もその事を危惧していたようで、話し合いの結果そう決めたと説明された。

私はその約束を守り、何処から引越してきたのかは言わず、両親の死で叔母夫婦に引き取られたとだけ答えるようにして新しい学校での生活をはじめた。


 新しい学校に入って、1ヶ月が経った。最初は馴染めるか不安も大きかったけれど、少しずつ友達も出来始めた。ただ、クラスの中には馴染めそうもない苦手なタイプの人もいるけれど、前の学校にもそういう人はいたから、それはそれで仕方ないかなと思っていた。

特にクラスは違うけれど、家が近所で通学の時に一緒になる麻衣と友達になったのは大きかったと思う。

クラスが違うから話せる話もあったし、何よりも近所だったから放課後や休みの日も一緒に遊んだり勉強したりするのが多かった。


 私自身も、やっと慣れてきたかな―と思っていた矢先、それは起きた―――。


 クラスメイトの一人で、馴染めそうもないなーと感じていた人の一人、アキエに突然声をかけられた。

「あんた、あの震災の被災地から逃げてきたんだって?!友達やクラスメイト見捨てて逃げてきた最低なヤツなんでしょ!!」

クラスメイトしかいない教室に大きな声が響き渡った。時間は給食が終わり、昼休みに入ったばかりの頃。教室には担任はおらずクラスメイトだけ。

叔母達から言わないように言われてひた隠しにしてきた事がバレてしまった。私はその瞬間、何も考えられず呆然とするしかなかった。

連日テレビのニュースではあの震災の後の発電所の事故の続報や被災地からやむ終えず引越した人達への言われない差別などが報道されていたからだ。

私が呆然としているとアキエはこう続ける。

「みんな聞いて!!この子は友達もクラスメイトも捨てて、あの事故から逃げてきた身勝手な最低なヤツなんだよ!!こんなヤツに関わったら不幸になるだけだよ!!それに、あの事故で変な病気を持ってきているかもしれないから関わっちゃダメなヤツなんだよ!!」

その声に教室内にいたクラスメイトも唖然としていた。

アキエの話を畳み掛けるかのように、別の人物の声が聞こえた。

「私のパパが、あの子は被災地から転校してきたと言ってましたわ!!やましい事があるから今まで隠してきたのでしょう!!」

その声の主は、アキエが何時も一緒にいて従っているトモミだった。

「やましくないのなら何故今までみんなに隠し通してきたのかしら!やましい事がないなら答えなさい!!」

私はあまりの事の展開になにも答えられずにいた。

そして、トモミに何時も一緒にいて付き従っているもう一人の人物サナエがまくし立ててくる。

「みんな、見てよ!やっぱり答えられないじゃない!!テレビのニュースで見たけど、あの震災で被災した人達っていっぱい国やみんなからお金貰ったんでしょ!そのお金で生かされているのに何も答えないなんて最低だよね!!」

次々と投げかけられてくる言葉の暴力にただただどうしていいのかわからなかった。

その場にいたクラスメイトも3人と私をただみているだけしか出来なかった。

後になって知った事だけど、トモミの祖父は代議士を長年しており、下手に逆らうとこの街に居づらくなるような顔利きであった。トモミの父もその地盤を引継ぎ新進気鋭の代議士として名を轟かせはじめていた。

転校してきた私だけは知らなかった事実―――クラスメイトがただみているだけしか出来なかったのも、トモミの父親や祖父の存在がどのようなものかを知っていたからかもしれない。

お読みいただきありがとうございます。

続きの「第 5 話 vergissmeinnicht (4)」は2020/05/17 03:00頃公開します。

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