第 5 話 vergissmeinnicht (1)
【ご注意】
作品の構成の都合上、一部の人にとってはトラウマを思い出させる事になるような描写があるかもしれません。
また、全てフィクションであり、登場人物、時代背景、起きた事件など全て実在するものではありません。
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第 5 話 vergissmeinnicht
「みんなは・・・パパやママは・・・私を一人にしないで・・・おいていかないで・・・」
あの日から、私の家族は両親は居なくなった。
突然起きた巨大地震、そして津波・・・すべてを私から奪った・・・。
大切な友達も思い出の詰まった家も学校も全て波と共に消えてしまった―――。
◇◆◇◆◇◆
私はあの震災で家族を亡くし、程なくして遠方にいた母の妹夫婦に引き取られた。
叔母夫婦は叔母の身体が弱かった事もあり、子供がおらず、また叔母自身が年の離れた姉であった私の母にとても良く懐いていた事もあって快く受け入れてくれた。
叔母の旦那さんも幼少の頃から私の母には可愛がって貰っていたのも大きかったのかもしれない。
ただ、その優しさがとても辛く感じた。家族とは違う何か。そんな感じがあったからかもしれない。
あの震災は私の全てを変えてしまった―――。
私は、学校にも行かず、家にも帰らず、死に場所を求めていた。
どうせ死ぬなら、綺麗な景色の中に身を投じたい。そう思った私は何時の間にかこの湖に来ていた。
湖のそばには自殺の名所として有名な滝もある。
―――誰もいない所で、誰にも悟られず、誰にも見つからずに―――そんな気持ちを抱えたまま、湖の畔を歩いていた。
観光地でもあり避暑地でもあるここはなかなかそんな場所が見つからない。
歩き疲れた私は、一軒のカフェを見つけた。
『少し休めば、何かが変わるかも―――』何故、その時にそんな事を思ったのかは分からない。
ただ、本能のままに、気がつくとカフェの前にいた。
「いらっしゃいませ」
店の扉を開けると落ち着いた声で若い女性に声をかけられた。
店内にはお客さんもおらず、マスターと思われる男性と店員と思われる女性の二人だけ。
お店の中は北欧アンティーク調の家具で統一されていて、こんな所に私は不釣り合いなんじゃと思ってしまい足が竦む。
「お好きな席へどうぞ」
とマスターと思われる男性に声をかけられた。
何時までもぼーっと入り口に突っ立っているのも迷惑になるだろうし、一番奥の壁際のテーブル席に座った。
ここなら他に客が来ても気がつかれないだろうし、それに、今はあまり人に会いたくもなければ関わりたくもなかったからだ。
お店に入ったのだから何か頼まないとと思い、テーブルに置かれたメニューを一応目を通す。
ただ、何を頼んでいいのかわからなかった。それ以前に、何も考えたくない、考えられなくなっていた。
今あるのは、虚無感と絶望感―――傍からみたら虚ろな目をして何を考えているかわからない空っぽの状態だったと思う。
そんな感じでいると女性の店員から声をかけられた。
「ご注文はどちらになさいますか?」
「あ、ごめんなさい、どれがいいかわからなくて―――」
虚ろな目をしたままそう答えた私をみた女性は、心配そうな顔をしながらお勧めを考えてくれているようだった。
「お疲れのようですね。それなら、アールグレイベースにラベンダーの香りを添えたのはどうでしょう?」
「じゃあそれで。」
勧められたのをそのまま頼んだ。その時はどんな風味なのかとか一切興味を持つ余裕すらなかった。
暫くすると、紅茶ポットと花のかたちをあしらったカップが運ばれてきた。
「アールグレイティ・ラベンダーの香りにのせて になります。」
出された紅茶を口元に運ぶとラベンダーの優しい香りが鼻を衝く。口には優しい苦みと共にふんわりと心地良いラベンダーの香りが広がった―――
お読みいただきありがとうございます。
続きの「第 5 話 vergissmeinnicht (2)」は2020/05/17 01:00頃公開します。




