第 4 話 Gypsophila (3)
それからまた月日が流れ、無事に絢と同じ高校への進学した。
初めて絢に気持ちを伝えてから4年は過ぎただろうか。未だにあの時の返事はもらえていなかった。
ここまで返事がもらえないでいると、よからぬ想像ばかりしてしまう。
『本当は嫌われているのではないか』や『好きな人が別にいるのに私が常に一緒にいるから気を使っているのではないか』と。
ただただその想像が現実の事となるのが怖くてその時は聞けなかった。聞く勇気が持てなかった。
ある事件が起きるまでは―――。ある事件・・・いや事件と言っていいのだろうか、事が進む事になったキッカケというべきであろう。
高校に入ってから出来た友人の一人がいきなりこんな事を言い出した。
「なあ、淳と一緒にいつもいるあの女の子って本当可愛いよな。淳、あの子、付き合っている奴いるの?あ、案外お前が付き合ってるのか?!」
ちょっとチャラ男系入っている友人の桐谷にこんな事を言われるなんて思ってもいなかった。
「し、知らねぇよ。」
そう答えるしかなかった。
「そっか。じゃ、脈はないわけないんだな。チャンスはあるのか。」
まるで獲物を狙うオオカミのような目で桐谷がそう呟いたのを今でも鮮明に覚えている。
そんな会話をして1週間も経たない頃、絢が桐谷に呼び出された事があった。
何かを察したのかは知らないが、何故かその場に私も絢に連れられて行った。
まあ結果は、桐谷がものの見事に玉砕されたのは言うまでもない。
その時の絢の断りの言葉が「ごめんなさい、私、昔から好きな人がいるんです・・・。けど、今はその人の気持ちにも応えられていないから・・・。本当にごめんなさい」だった。
玉砕された桐谷を慰め、絢と二人の帰り道、突然の雨に襲われた。
近場の店先で雨宿りをしているとポツリとポツリと絢が話し始めた。
「ごめんね、淳君・・・。淳君の気持ち知りながら、今まで返事できなくて。」
「・・・いや、気にしないでいいよ。」
「正直言うとね、私の血族・・・何が起きるかわからないんだ・・・。」
「それって、一体・・・。」
「多分ね、もう少しすればわかると思うの。それがなければきちんと返事するから・・・。」
「・・・わかった。ただ、無理はするなよ。何かあれば、すぐに言えよ。何時でも絢の味方だから。」
今思えば、照れ臭い台詞でもあるが、その時は心の中からでてきた言葉であったのは間違いない。
銀色に光る空から降り続く雨がやむのを待ち続けた―――。
中学の頃から始まった受験勉強特訓が何時の間にか当たり前の勉強会になっていたある日の事であった。
桐谷玉砕事件から2ヶ月が経過したぐらいだっただろう。
休憩の飲み物とお菓子を持ってきた絢に唐突に言われた。
「淳君・・・もし、もしだよ、私が人ではなくなってしまったとしても、私の事を好きでいてくれる?」
意味が分からない質問ではあったが、当然のようにこう答えた。
「もちろんだよ。絢は絢なんだから。絢の代わりなんていないし、絢はどんなに変わろうとも絢だけなのだから。」
「・・・よかった。ありがとう。私も淳君がいてくれるだけで幸せだから。」
そういうと、絢が突然、唇を重ねてきた。
「こういう時、なんて言ったらいいのかわからなくて・・・。さっきのが私の返事・・・。これからもずっと一緒にいたいから・・・。」
そういうと顔を絢は顔を赤らめた。
こんなタイミングでこんな形で返事を貰うとは思っていなかっただけに正直驚いたのと同時にとても嬉しかった。
絢にどんな心境の変化やどんな事があったのかこの時は嬉しさのあまり気に留めていなかった。
この時からだろう、二人の距離は一層近くなり、それと共に何か大切な事を見落とし始めてしまったのは―――。
二人の距離が近くなってからは、夢を現実にできると信じていた。思っていた。
時には互いを求めあい、深い関係に進む事も増えた。
同じ大学に進学できた時も二人で喜び分かち合った。それが何時までも何時までも続くと思っていた。
絢となら何時までも・・・きっと―――。
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続きの「第 4 話 Gypsophila (4)」は2020/05/16 22:00頃公開します。