第 4 話 Gypsophila (1)
【ご注意】
作品の構成の都合上、一部の人にとってはトラウマを思い出させる事になるような描写があるかもしれません。
また、全てフィクションであり、登場人物、時代背景、起きた事件など全て実在するものではありません。
1話辺りの文書量が多い話につきましては分割して投稿していきます。
次話の投稿につきましては筆者のTwitter ( @SekkaAsagiri ) または、下部コメント欄でご案内します。
(案内忘れも発生するかもしれませんが、お許しください。)
第 4 話 Gypsophila
「私・・・あの人の元に行かなくちゃ・・・。それが・・・私の・・・血族の・・・・使命・・・。」
彼女はそう告げると、私の前から霧の中に消えるように消えていった―――。
幼馴染であり、私にとっての初恋の人でもあり、結婚までも考え、プロポーズをし、OKの返事を貰えた相手であったのにも関わらず。
プロポーズから数週間たったある日の夜、突然の雨に襲われ、ふと雨宿りに立ち寄ったライトアップが綺麗な神社での出来事―――
◇◆◇◆◇◆◇◆
彼女がまるで神隠しのように消えてから、数日が経過していた。
私はどうしたらいいのか今も悩み続けている。
あの意味深な言葉が未だに私には理解できずにいたからだ。
もやもやした気持ちを抱えたまま何時までいても、仕事に支障をきたす。
現に、仕事にも手がつかない状態で有給休暇を利用し休んでいるほどだ。
この気持ちを整理する為にもと思い、ふとこの地を訪れた。
この地に来るのは小学校の修学旅行以来だろう。
6年間の学生生活、楽しかった皆との思い出が蘇る地だから、足が向いたのかもしれない。
そして、彼女の事が好きだという自分自身の正直な気持ちに子供心に気がついた場所でもあった。
そんな思い出にふけながら、遊覧船で湖を周った後、湖畔沿いを歩いていると一軒のカフェをみつけた。
外装は落ち着いていて古いペンションのような感じではあったが、窓からみえる店内の感じは最近できたのだろうか。
若いのに落ち着いた感じのある男性がこの店のマスターなのだろうか。
その隣には、異国情緒のある美しい白銀色の長い髪をした若い女性が寄り添っている。
『きっとこの二人で創めて切り盛りしているのだろう。』
そんな雰囲気がある。
このまま、この外で店の様子を伺っているのも失礼になるだろうし、歩き疲れても来ているからお店で休ませてもらおう―そう思うと自然と足が店の中に向いていた。
「いらっしゃいませ」
店の扉を開けると落ち着いた声で若い女性が声をかけてきた。
せわしない都会のカフェとは違い、落ち着いた雰囲気がある。
店内はアンティーク調の家具で統一され、曲がプログラムされている紙が読み込まれて自動で演奏するオルゴールがBGMを奏でている。
ゆっくりと店の中に入ると、
「お好きな席へどうぞ」
とマスターと思われる若い男性に声をかけられた。
なんとなくではあったが、湖が見える窓辺の席を選び、ゆっくりと腰を掛け、テーブルにあるメニューをみる。
この店はお茶系がメインのようで種類も豊富なのがメニューから分かった。
何を頼むか悩んでいると、店の外から見た感じではわからなかったが、見た目は成人とは言い難いが少女とも言い難いぐらいの10代後半ではないかと思えるとても可愛らしい女性の店員がおすすめを教えてくれた。
「マスターの気分次第で変わるお勧めもございますが、どうなさいますか?」
悩み続けていても仕方ないし、そう言われるとそれも手かと思う。
「う~ん、それじゃそれで」
「わかりました。少々お時間をいただきますが構いませんか?」
「あぁ、お願いします。」
そう答えると女性は笑顔で返してきてくれた。
注文をしてどれぐらい経っただろう。
時間的にはそれほど経ってないのだろうけど、私の心の中では、失ってしまった彼女の事に対しての事でいっぱいになっていた。
彼女と一緒にここに訪れていれば、きっと彼女は喜んだだろう。
彼女好みの落ち着いた雰囲気のある店であったから。
そんな事を考えていると、簡単な軽食と一緒に紅茶が運ばれてきた。
「マスターの気分次第のお勧め、アップルティになります。」
出された紅茶を口につけると、優しくも甘酸っぱい味が心に染みわたる―――
お読みいただきありがとうございます。
続きの「第 4 話 Gypsophila (2)」は2020/05/16 20:00頃公開します。