三ヵ月寝太郎
むかし、むかし、ある村で、太郎という名前の、少年がいました。
太郎は、1度眠りだすと、なかなか起きてきません。
ほとんど毎日をぐーぐーぐーといびきをかいて寝ています。
朝になっても、ぐーぐーぐー。
昼になっても、ぐーぐーぐー。
夜になっても、ぐーぐーぐー。
お父さんが起こしても、ぐーぐーぐー。
お母さんが起こしても、ぐーぐーぐー。
お友達が起こしても、ぐーぐーぐー。
太郎が起きるのは、
春が夏にかわる頃に1回。
夏が秋にかわる頃に1回。
秋が冬にかわる頃に1回。
冬が春にかわる頃に1回。
1年であわせて4回しか起きませんでした。
ですので、太郎の家に友達が遊びにきても、
「せっかく遊びにきてくれたのに、ごめんなさい。今日も寝てるのよ」
と、太郎のお母さんは、謝ってばかりいました。
「太郎は、いつも寝ているな」
村の子どもたちが言います。
「そうだな。太郎じゃなく、寝太郎だ」
ある男の子が言いました。
「それなら、三ヵ月寝てるから、三ヵ月寝太郎ね」
ある女の子が、くすくすと笑いながら言いました。
いつしか村で太郎は、三ヵ月寝太郎と呼ばれはじめました。
「寝てばかりいると、三ヵ月寝太郎みたいになるぞ」
村の大人たちも、子どもに言い聞かせましたので、子どもたちは、できるだけ長く起きていようと、夜更かしするのでした。
ちょうどその頃、村では、ある歌が歌われはじめました。
寝太郎 毎日 ぐーぐーぐー。
鶏 鳴こうが ぐーぐーぐー。
お日様 呼んでも ぐーぐーぐー。
暗く なっても ぐーぐーぐー。
寝太郎 毎日 ぐーぐーぐー。
桜 咲いても ぐーぐーぐー。
蝉が なこうが ぐーぐーぐー。
お月見 せずに ぐーぐーぐー。
雪が 降ろうが ぐーぐーぐー。
寝太郎 毎日 ぐーぐーぐー。
父さん 起こそうが ぐーぐーぐー。
母さん 起こそうが ぐーぐーぐー。
誰が 起こそうが ぐーぐーぐー。
村人たちは、ちょっとしたからかいの意味をこめて、こんな歌を歌っていたのでした。
ある冬のことです。
村では病気がはやりました。
この病気にかかってしまうと、熱が高くなり、ふらふらし、家の中を歩くことも難しくなってしまいます。
村人のほぼ全員が病気になってしまいました。
そうなってしまうと、村は大変です。
冬の間中、大人たちはお仕事ができません。
子どもたちも、寝たきりになってしまいました。
村人たちは、その病気が治るまで、家でおとなしくするしかありませんでした。
さて、2か月ほどたって、村のほとんどの人が治りました。
しかし、村の中では、来年もまたこの病気がはやるかもしれないという話でもちきりでした。
その話を聞いた村人たちは震え上がりました。
「今年は、なんとかなったが、来年も続くと生活ができなくなってしまうべ」
「なんとか、病気にかからない方法はないべか?」
「そうだ。病気にかかってない人を探して、病気にかからない秘密を聞き出すべ」
「それがいい」
そこで、村人たちは、病気にならなかった人を探し始めました。
村人たちは病気にかかっていない人を一生懸命探したところ、一人だけ病気にかかっていない村人を見つけ出しました。
それは、三ヵ月寝太郎こと、太郎でした。
村人全員が太郎の家におしかけました。
村人全員でしたので、太郎の家ははちきれんばかりの人だかりになってしまいました。
「あれ? みんな集まって、どうしたの?」
目が覚めた太郎は、びっくりしてみんなに聞きました。
「太郎、お前が起きるのを待ってたんだ」
村の子どもたちが言いました。
「どうしたのさ? 大人までもが集まって」
起きたばかりの太郎は、村人たちにわけを尋ねました。
「どうして、お前は病気にかからなかったんだ?」
「病気? なんのことだ?」
太郎の家に集まった村人たちが病気について説明をしました。
「この村では、太郎だけがかかっていないんだ。何か秘密があるんじゃないかと思ってな」
「そんなもんはねえ」
「ないわけないべ。それじゃあ、太郎は起きた時に何をしてるんだ?」
「まずは、手洗いうがいだ。石鹸を使って、手をぴかぴかにして、うがいも念入りにするんだ」
「なるほど、手をきれいにするということだべな」
「おー」
村人たちからは歓声があがりました。
「そして、きちんと食べて、次に起きる時に備えるんだ」
「きちんと食べるって、何を食べるんだべ?」
「好き嫌いせずに、色々なものをたくさん食べるんだ。食べ過ぎてもいけないし、少なすぎてもいけない」
「きっと、それが病気にかからない秘訣だろう」
誰かが言うと、
「そうだ」
……と、全員が頷きました。
「それから、他に何か特別なことをしているか?」
「あとは、部屋で寝るだけだ」
「つまりは、夜更かしせずに、規則正しい睡眠が必要ということだべ」
誰かが言うと、
「そうだ、そうだ」
……と、全員が頷きました。
「寝ている間は、何している?」
「何って、それは、オラはわからんな。オラは一人で寝ているからな」
「オラたちは、1つの部屋にみんなでいたから、病気にかかったのかもしんないな」
誰かが言うと、村人たちは、太郎の家に村人全員できたことに気がつきました。
急に、お互いがお互いを意識し始め、距離をとりはじめました。
「今、病気ははやってないべ? 冬になりそうになったら、距離をとればいいべ?」
誰かが提案すると
「それも、そうだ」
村人たちは、もといた場所にもどりました。
「そういえば、太郎は、寝ている間、まるで運動でもしているかのように、よく寝返りをうっているわ」
太郎のお母さんが思い出して言いました。
「きっと、運動をすることも必要なんだべ」
誰かが言うと、
「そうにちがいない」
……と村人たちは、頷きました。
「太郎から教えてもらったことを活かして、次の冬に備えるべ」
村人たちは、一致団結して、病気と闘うことを決めました。
次の冬です。
いつしか誰かが、歌をつくりました。
太郎を まねして ぐーぐーぐー。
たっぷり 睡眠 ぐーぐーぐー。
手洗い 忘れず じゃぶじゃぶじゃぶ。
石鹸 つかって じゃぶじゃぶじゃぶ。
ついでに うがいだ がらがらがら。
起きたら ご飯を ぱくぱくぱく。
体操 忘れず 1・2・3。
自分の お家で 1・2・3。
お昼だ ご飯を ぱくぱくぱく。
食べたら 踊ろう 1・2・3。
距離を 保って 1・2・3。
夜も ご飯を ぱくぱくぱく。
わがまま いわずに ぱくぱくぱく。
疲れた 眠ろう ぐーぐーぐー。
はやめに 眠ろう ぐーぐーぐー。
夜更かし やめよう ぐーぐーぐー。
太郎を まねして ぐーぐーぐー。
これで 病気は ばいばいばい。
この歌に踊りという言葉があったので、誰かが踊りもつけました。
そして、村人たちは、歌の通りの生活を始めました。
冬の間、毎日、好き嫌いせずに食事をちょうどよく食べました。
睡眠もたっぷりととることにしました。
お仕事や用事がある大人以外は、お家にいるようにしました。
お家の中にいるときでも、人と人との距離をとるようにしました。
歌に合わせて踊ったり、適度な運動をしたりするのも忘れませんでした。
その冬、この村では、誰も病気にかかる人はいなくなりました。
病気にかからなかったので、冬でも大人たちはお仕事をがんばりました。
子どもたちも笑顔で冬を過ごせました。
太郎は、誰にもからかわれなくなりました。
その後も、この歌と踊りのおかげで、この村では病気にかかる人はいなくなりましたとさ。
めでたし めでたし
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。