①-7
『空海さまによって生み出された人工知能です』
「名前はアビスだ。さて、血液検査の結果は出たか?」
『もう少しお待ちください』
「待ってくれ!理解が追いつかない!」
人工知能でしかも作ったのが空海だって!?そんな話簡単に信じられるわけがないだろう?
そんな風に慌てふためていた僕を呆れた顔をして空海は見ていた。
「はぁ、全く。さっき説明しただろう?俺様特性人工知能、名前はアビス」
「いや、そーゆー事じゃなくて…」
「まあ、言わんとしていることは分かるさ。だが、その全てはこの俺様が天才だということで話が付いてしまう」
不思議なものだと自分でも思うけれど、なぜかそれで僕は少し納得してしまっていた。それだけ空海が特殊なんだけどさ。
「ああ、そうだね。君は本当に天才だよ。僕が思っていたよりもずっとね」
「随分と過小評価をされていたようだな、俺は。だが、それよりも今回の収穫はデカイぞアビス」
『はい、プロジェクトの進行が予定していたものよりも早く、そして確実なものになります』
「待って、待ってくれよ、何か嫌な予感がするんだけど」
「そんな悪い話じゃないさ。ヒーローであるお前なら絶対に話に乗る」
空海はそう言ってパソコンで何かを打ち始める。
今更気がついたが、ここは外見からは想像出来ないほどに中身は新しい。いや、未来を行っていると言っても過言ではない。
普通の従来通りの物理的なモニターもあるが、空中に映し出されているプロジェクターの様なものもある。投影されているといえば良いのだろうか。
僕が部屋中をジロジロと見ていると少し離れた所、その空中にある映像が映し出された。
「これはとある裏家業の使っている道具だ」
それはどうやら機械で出来た鎧のようなもので、付けている人の体よりも二回りか三周りは大きい機械に身を包んでいるようだ。
音声は無いが映像で見ている限りだとそれを使って人を脅して何かをしているようだ。
いや、脅しだけだはない。実際に人を殺している。とても簡単に。
「なあ、空海。いつの間に人類はこんなプチガンダムみたいなものを発明したんだ?」
僕がそう聞くととても悔しそうな、憎しみを込めた目で、空海は口を開いた。
「あれは俺が作ったものだ」
待ってくれ、今、なんて言った?
俺が作った?
あの人殺しの道具を?
「空海!お前は…!」
「落ち着け!確かにあれは俺が作ったものだが、あくまで元となるものだ。あれは元々手足が不自由で動けない人、それに病院、介護施設で人を運ぶ時により安全に、確実に出来るようにと開発した骨格サポートマシンだ!元々は人を救うための物だ!」
僕は今まで聞いたこともない空海の叫び声を聞いた。
「今はまだ世界でもトップクラスの病院にしか置いてはいない。だがいずれは全ての施設に置いて人を!そう人を助けるために作ったものだ!」
「それじゃあ、なんでそんなものが?」
「知るか!コレのことを知っているのはその病院の人間くらいのものだ!そして、悪用されないようにプロテクトもかけてある!それは俺にしか解除出来ないはずだ!」
空海は当たり散らす様に叫び、息を荒く吐いた。
「っ、クソが……」
「なあ空海。でも、今の様子だと」
「ああ、そうだ。どっかのくそったれがそのプロテクトを解除し、物を改造し、裏で売りさばいている。しかも見ている限りあれは使用者にかなりの負担を強いるはずだ。力をセーブするのも含めてプロテクトをかけていたからだ」
人を助けるためのものがその逆の事に使われている。
空海とは深く付き合っては居ないものの、その志の高さは見て取れた。きっと、いや確実に悔しい思いをしているだろう。
空海は僕をまっすぐ見つめ、
「見てもらってわかったと思うが、俺はあれを全て破壊するつもりだ。大本まで絶対にたどり着いてみせる。だが、それにはどうしても普通の人間じゃあ難しかった。相手はアレをセーブをせずに使っている。それに対抗するにはこっちもそれと同様に、いや、それ以上の力を使うしかない。だが、それには普通の人間じゃあ耐えきれないほどの負荷がかかる」
「だけど、ここには普通じゃない人間がいる」
「今更だが、本当に今更ですまないが。脅すような真似をして済まない。それに良いのか?いくらお前が特異だからとはいえ命の危険だって伴う」
「これをそのままにしている方がずっと危険さ」
「すまない…、感謝する」
「いいよ、それに僕はきっとこんな展開を待っていたんだ。巨悪を挫き、世界に平和をもたらす、そんな展開を」
そうだ、これが僕が望んでいたヒーローだ。憧れに近づく第一歩を踏みだすんだ。
『では、プロジェクトの方向修正をしても宜しいでしょうか』
「ああ、頼むアビス」
「あー、悪いんだけどさ、さっきから言っているプロジェクトって一体なに?」
「説明したいところだけどよ、時間は大丈夫か?」
そう言って中に現在の時刻が宙に映し出される。
現在19時30分
「やばい!」
僕は急いで帰る準備をする。これは確実に怒られる。
空海はそんな僕に呑気な声で、
「それじゃあ、後は明日学校終わったらでいいな?」
「うん!それじゃあ急いで帰らないと怒られるからバイバイ!」
その後のことだけど、もちろん怒られた。ケータイには留守電と着信履歴が沢山。でも、ヒーロー活動をしていたわけでは無いと言い、そのおかげで少しだけ怒鳴り声は小さくなったけど、それでもやっぱり怒られた