①-4
ビルとビルの間。ゴミ置き場や室外機が置かれている汚い路地裏に僕は来ている。
ここが帰り道なのかって?
その答えは合っているようであっていない。
いつもしている事をしてから帰るという意味では帰り道なのだろうけど、僕の家はここを通っても近道になるわけではない。むしろ、帰るのが遅くなるしね。
でもなんでここに来ているのかと言うのは、今からする僕の行動で示そう。いつも学校に通うのに使っているリュックから黒いパーカーと黒いズボンを取り出す。
僕は学校指定の制服を脱ぎ、それを着用した。脱いだ服はもちろんしまう。そして最後に目出し帽をかぶり、更にフードをかぶる。コレで完成だ。
いや、不審者じゃないから安心してね。もちろん今から銀行強盗するわけでもない。
今からすることは、
「キャー!ひったくりよ!」
女性の悲鳴とともに助けを呼ぶ声がする。
僕はすぐにリュックを背負ってその声の方に向かう。
さっきの悲鳴を上げていた女性らしき人がその場にしゃがみ込んでいた。
僕はその人に近づき、声をかける。
「大丈夫ですか?」
声をかけられた女性はびっくりとした顔をしたまま、そう言って200メートルほど先に居る走って逃げた男を指差した。
「あの男が私のバッグを………」
「オーケー。任せといて」
僕はそう言い、足に力を入れジャンプをした。
その瞬間、足は地面にめり込み綺麗に整えられていたコンクリートに亀裂が走る。
その場にジャンプした衝撃の風圧を残し僕はその男の前まで飛んだ。
「やあ、男にしては可愛らしいバッグをお持ちだね」
いきなり目の前に現れた全身黒ずくめの人間に男は驚いた顔をすると、
「なんだテメェは!」
男は怒鳴りながら拳を握り腕を振ってきた。
僕はそのゆっくりとした攻撃を軽く体をひねり躱す。
「おっと、危ないなあ」
そして、避けたついでにおでこに(僕にとっては)軽い力でデコピンをした。
「うぐぅ!」
「あ、ごめん。強くしちゃった?まあ、いいか。これは返してもらうよ」
男が痛みで怯んだスキに奪ったバッグを取り返す。
そのついでに足を払って転ばせた。
動かなくなったところを見ると気を失ったんだろう。大丈夫、力加減は分かっているからこのくらいで死んだりはしないよ。
このバッグを元の持ち主に返そうと思い、周りをみると持ち主の女性が近づいてきた。
どうやら男とやりあっているうちに近づいて来ていたようだ。
僕はバッグを差し出し、
「はいこれ、次からは気をつけて歩くんだよ?」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ、ヒーローですから当たり前のことですよ」
僕はそう言ってその場から飛び去った。
飛ぶと行ってもジャンプするって意味でだけどね。
そして、電柱や看板を蹴って経由しながらビルの屋上まで飛んだ。
「さーて、他に困っている人は居るかなーと」
目を凝らして今日も街のパトロールが始まった。