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①-34

「もしも――――――」

「もしも、お前が普通なら俺と友達になんてなってなかったぜ?」

「空海……」


 空海からの通信が入る。今更気が付いたけれど、父親以外で声を聞いて落ち着くことなんて初めてかも知れない。


「もしも、もしもなんてifの話なんざどうだっていい。重要なのは今、何をすんのかだ」

「でも、父さんがあの姿は、僕のせいで……」

「お前のせいじゃねえよ。それを利用して悪用する奴だ。いつだって、力の使い方は、人と違う原因のソレは、ソレを持つ人間しだいだ」

「ははっ、天才の空海の自論?」

「まあ、そんなところだ」

「うん、少し元気が出たよ」


 湊は起き上り、先ほどよりもゆっくりと動く父親の背中を見つめる。


「ああ、行ってこいって言いたいところだが、悪い知らせだ」

『マーチヘアー強制終了しました』

「……いや、空海、終わったんだ」


 煩いくらいに音を立てながら、スーツが再び変形し、元の形に戻る。

 だけど、僕はその音を気にする余裕はなく、それでも、心はなぜか静かだった。


「どういう事だ?」


 空海が疑問を口にするが、ジャックラビットについているカメラで同じ光景を見たのだろう。納得するように、ああ、そういう事か。と呟く声が聞こえた。


「再生する能力に肉体が追い付いていないのか。sっぴだな、やっぱり湊、お前は特別なんだろうよ。何に、ってのは分からねえが、きっと選ばれたんだ。」

「いや、違うよ。僕は特別でも選ばれてもいない。きっと、ただ運が良かっただけの話なんだと思う」


 どんどんと動きが鈍くなる父親の前にジャック・ラビットは湊としは立ちふさがり、顔を露出させ語り掛ける。


「もうやめよう。体が限界なんでしょ?ごめんね、僕のこの体のせいで」

「aaa―――」

「父さん、もう、休もう?」


 膨らんだ肉体が地面に激突し、ぐちゃりと言う音を立てる。それと同時にマシンの大部分も剥がれ落ち、男の顔が、顔らしきものが湊をじっと見つめた。

 湊はそれに反応するように近づき抱き寄せる。



―――――――――――――――



「ああ、湊。どうした?また眠れないのか?」


 湊の父親は倒れたまま、崩れた顔で湊を見つめ、そう言った。


「大丈夫だ。安心して眠れ。父さんがちゃんと見てるぞ。大丈夫だ」

「うん、うん。父さん」

「それにしても、この部屋はこんなに暗かったか?湊がおびえてしまうだろ。電気をつけよう」

「大丈夫だよ。僕、暗い部屋でも眠れるよ。1人でだって眠れるようになったんだ」


 そうか、そうか。と安心した声で呟く。そして、顔よりもひどく崩れた手で湊の頬を触り、


「でも、それだと父さんが寂しいなあ。こう見えて、寂しがりやなんだ。父さんは。母さんが先に逝ってしまってから、ずうっと寂しくなってなあ」

「うん、うん。知ってるよ」

「でも、お前がいるから大丈夫だって。ずっとそう思ってきたんだが、やっぱり寂しいなあ。もう1人で眠れるようになったのか」

「うん、そうだよ父さん」

「そうか、でも、安心したよ。ああ、安心した。俺1人でキチンと育てれるか心配だったから。母さんがいなくて、どうすればいいのか、父さんも分からないまま、今まで来たからなあ」

「うん、今までありがとうね」

「はは、なんだそれは。まるでもう会えないみたいじゃあないか。ほら、良いから眠りなさい。それと、今日だけは一緒に寝させておくれ」

「うん、うん。一緒に寝よう」

「はは、やっぱり寂しいと思ってしまうなあ」


 湊の頬から手が滑り落ちる。


「おやすみ、湊。愛しているぞ。明日も2人で楽しく過ごそう」

「うん、おやすみ父さん。愛してる」

『対象の活動の停止を確認。湊様……』


 眠ったように壊れかけた機械の中で眠る。

 父親の頬には一筋の水滴が付き、まるで泣いているようだった。


「おやすみ、父さん。あっちで母さんと仲良くしてね」


 そう言い、湊は立ち上がる。


「アイツはどこだ」

『ハッターはすでに逃亡したものと思われます』

「どこに行った?」


 怒りがにじみ出る様に、言葉に溢れる。


『それは、不明です。この数分で完全に消息を絶ちました』

「うぅああっ!!」


 湊が行き場を失った怒りをあたりにぶつける。

 地団太を踏んだかのような足元はひび割れ、舗装されている地面はボロボロになっていた。


「湊」

「空海!ハッターの居場所を突き止めて!」

「湊!」

「君は天才だ!だからそれくらい簡単だろう!?」

「ジャック・ラビット!」

「っ……」

 そう呼ばれ、湊はようやく落ち着き、

「……空海、頼む。どこに行けばいい?父さんの仇はどこにいるんだ?」

 すがるような声で空海に聞く。だが、空海は

「見失った。と言うよりも、そもそもの痕跡すらない。元々あいつは逃げる算段だったんだ」

「っ……!」

「それに、なあ、ヒーロー。今の周りを見ろ」

 そう言われ、湊は自分の周りをぐるりと見渡す。

 そこには戦った痕跡によってできたガレキや燃え盛る炎が遠くの一般市民を襲っていた。

「お前は誰だ?」

「僕は……」




「いや、僕たちは―――!」







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