①-32
約束の日。
その日は当たり前のようにやってきた。
時間は勝手に過ぎるものではある。だから、それは確かに当たり前のように来るのだろう。
だが、2人はいつもよりも特訓をしていただけで、いつも通りにヒーロー活動をしていただけだ。あまりにも普通に過ごしているが、それが2人なりの緊張のほぐし方なのかも知れない。
「約束の時間の1時間前だが、警戒はしておけ」
「了解」
人気のない港で1時間後に来るであろう敵をジャック・ラビットは待ち構えていた。
「でも、まだ時間あるけど本当に来るのかな」
湊は当然の疑問を口にする。
これは罠、それか囮で実際には別の場所で行われるのではないのかと。誰だってそう考えるだろう。だが、空海は違ったようで、
「多分だが、あいつは嘘はつかない」
「どこからそんな自信が?」
「アイツは本当の事は言わないのかも知れないが、嘘を吐く必要が無いって方が正しいか?何よりも自分が優秀だと思っているってのもあるだろうな」
「天才の空海には見ていて思う事があったの?」
「まあ、な。それに何よりもアイツ自身も性能を試したいってのもあるだろう。誰かに売りつける時の文句になる。ヒーローを倒したマシンだってな」
「でも、僕らヒーローとしては駆け出しどころか、つい最近警察に目をつけられたよ?」
「そりゃあ、戦績が特にないからな。そもそも、そんなに大きな事件何て早々起きるもんじゃないだろ?」
「まあ、そうだけど……」
『上空から未確認物体が落下中。急いでそこから離れてください』
「っ!」
アビスからの急な指示を聞き、急いでそこから飛びのけた。
そして、避けたと同時に上から降ってきた何かが、先ほどまでジャック・ラビットがいた場所に砂煙と大きなクレーターを作っていた。
「なんだあ?もう来てたのか?」
その砂煙の中から声が、湊にとって聞きなれた声が聞こえてきた。
「待つ手間が省けてちょうどいい」
徐々に煙がなくなっていく中、シルエットがくっきりと見えてくる。
その姿は依然見たマシンとは違い、乗っている男からも前回より自身\\自信があるように見えた。
「おい、油断するなよ。こっちで分析できるだけはしたが、あのマシン相当ヤバそうだ」
「どうヤバいのかは分からないけど、僕の父さんが乗っているんだ。結局ヤバい事には変わらないさ」
「ああ、その通りだ。だが、一応説明しておくと―――」
すると、湊は空海の説明を聞くよりも早く駆け、良く見えもしない相手のマシンに蹴りを叩きこむ。
「―――そのマシンの硬度はこっちの倍以上だ」
「今のは蹴ったのか?」
男が挑発をするような口調で言う。
蹴ったため、距離が近いジャック・ラビットは急いで間を開けようと後ろに飛ぶが、
「待てよ」
「っ!?」
相手のマシンがジャック・ラビットと同じ、いや、それよりも早く飛んでくる。
そして、そのまま空中で頭をつかまれ、地面にたたきつけられた。
まるで頭を大根おろしにされているかのような衝撃が湊に襲い掛かる。
「がっ!」
「おっと、あぶねえ。危うくつぶしちまうトコだったぜ?」
男はそう言うと、馬乗りの様な体制から、ゆっくりと歩き、自分の姿を見せるかのように、地面に寝ているジャック・ラビットの視界に入るように立った。
「聞こえるか!みラビット!」
『スーツの耐久力低下。頭部への衝撃が大きく、湊さまの能力を持っていても少し時間がかかると思われます』
湊はキーンと、大きいのか小さいのかも分からない耳鳴りが続いていた。だが、それでも立ちあがり、男の前に立つ。
並んで立っているからだろうか。両者のマシンの大きさを比べると、まるで親子の様であった。ジャック・ラビットは2メートルもないが、もう1人はジャック・ラビットに比べ大きく、全長5メートルはあった。
「おい、クソガキが。夜で歩くなって言い聞かせてたのを忘れたのか?」
「父さん、今ならまだ間に合う。やめよう」
「あぁ、そうか。ここまでバカなのも親の責任か」
湊が説得をしようとしていたのもむなしく、男はジャック・ラビットを殴り飛ばした。
「がっ……!」
「ラビット!今はとにかく距離を取れ!今のお前じゃ、相手に本気で攻撃できねえだろ!?」
殴り飛ばされ、宙に浮いている時に空海から通信が入る。
湊は殴られ、飛ばされているのに、なぜか冷静に聞くことが出来た。
そして、不格好に受け身を取り、体制を立て直す。
「大丈夫、やるよ。止めなきゃ、僕が。いや、私が!」
「おいおい、一丁前に睨んできやがるなあ!?」
ジャック・ラビットは態勢を立て直した後、相手をじっと見つめていた。
どうすれば、相手を倒せるか。父親を止められるか。
「まあ、方法はひとつしかないよね」
湊はそう呟く。
「相手は格上、なら、できることを全てするだけだ!」
「アビス、モード変更だ」
空海がそれに合わせる様に、アビスへ指示する。
「モード、マーチヘア!」
『モード変更、承認』
変わっていくスーツと共に飛び跳ねる。
相手の周りをかく乱するように飛び回る。
「ハハハ!ただ逃げ回るだけか!」
「違う!」
そう言うのと同時に、背中側を蹴り、そのまま相手を壁として再び距離を取った。
「クソッ!」
「もう一度!」
今度は横っ腹に、次は正面から。
そうして、ヒットアンドアウェイを続ける。
「っ!いい加減にしやがれ!」
何度目かは分からない攻撃の後、とうとう我慢の限界が来たのか、腕を大きく振るい、今が攻撃のチャンスだと言わんばかりの時が来た。
ジャック・ラビットはその時を見逃すことはなく、今できる最大限の攻撃を加える。
「うぉおおおおおおおおおお!」
すると、相手のマシンがガシャンと言う音と共に一部崩れ落ちた。
そして、その衝撃は乗っている人間までもちろん到達し、膝をつく。
「クソがクソがクソが!」
「とうさん、もうやめよう。ね?」
湊が希望にすがるようにゆっくりと近づいたが、離れた所から映像を見る空海だけが唯一正しい判断をすることができた。
「離れろ!そいつはもう!」




