①-31
「良かった良かった。彼は順調に忘れて行っているみたいだねえェ」
男から離れ、違う部屋に行くとハッターはいやらしく笑いながらそう話す。
「はじめは息子のために、愛する息子のために!金を集めていたんだけれどねえ。あの体質をどうにか出来ないものかと。何かあっても、金の力で解決できるようにとねエ!」
天を仰ぐように見上げ、大声でハッターは笑う。
「まさか、ただ私と話しているだけでああも簡単に変わるものかね!?今では愛する息子を護るための金欲しさに、その愛する息子を殺そうとしているんだからねエ!」
ハハハと、再び大声で笑う。そして、マリアンヌに君はどう思うんだい?とハッターが訊ねると、
「私は何も思いません」
「アハハハハハ!」
また、ハッターは笑った。だが、今度はさっきまでとは違い、ワザとらしく、嫌らしく、笑い声をあげていた。
そして、数秒後、ぴたりと笑うのを止め、表情も無くなり、ただ一言。
「私もだ」
次の日、ちょうど太陽が一番高く上る頃。空海は1人で例の港に来ていた。
「これはあそこに設置しておくか」
大きなボストンバッグに色々な機材を入れ、港の各所にその機材を他の人が見ても分からないように設置をしていた。
「アビス、この角度で大丈夫そうか?」
『問題はないかと。ですが、先に来て罠を張るなどしていてもよろしいのでしょうか』
「別に問題はねえよ。別にルールがあるわけじゃねえ。それにヒーローが正々堂々戦うなんて誰が決めた?」
『誰が決めたのかは知りはしませんが、湊様はこのような事はきっと望んではいないかと推測します』
「ああ、だろうな。あいつはヒーローだからな」
『空海様もそうなのでは?湊様がおっしゃっていたように、ジャック・ラビットは2人がいて初めて真価を発揮できるものかと』
「確かにそうだ。だけどな、ヒーローはあいつだけでいい。それ以外の必要な汚れ仕事は俺がやるさ」
『ですが、湊様はそれを』
「悲しむって言うんだろ。分かってら。そんくらい。だから、するんだ。だから、俺がしなくちゃならねえんだ」
空海はそう言いきり、その後はただ確認だけをとり、作業を進めていった。
一通りのパトロール及び訓練を終えた湊はラボに一度戻っていた。
時刻は13時丁度。
「空海はどこに行ったんだろう」
ラボの中を探してもどこにもいない相棒を探していた。
「さっきアビスに聞いたけど返事は無かったし」
うーん、と悩んでいると、ラボの扉が開いた。
「よう、お疲れさん」
「ああ、おかえり。一回お昼にしようかと思って戻ったんだけどね。いないとは思わなかったよ」
「そりゃあ、いつだってここに引きこもってる訳じゃあねえよ。それよりも、飯食うならスーツ脱げ。こぼして汚すなよ」
空海のいつもの小言にハイハイとテキトーな返事で湊は返した。
「それじゃあ、何を食べるか決めようか」
そうして2人はいつもの日常を過ごす。
明日を無事に迎えるため。
明日を超えて、明後日へ、次の日常へ行くために。




