①-23
「いつもこんな寒かったかな?」
懐かしいけれど、しっくりと来る不審者スーツ、ではなく。旧・ヒーロースーツを着て、街中を飛び回る。頭は段ボールだけどね。
「っ!」
だが、空海のスーツに慣れてしまったせいか、それとも集中できていないせいか。先ほどから何回も目測を見誤り、壁に激突しかけている。というか、何回かすでにぶつかっている。
「……はあ」
ついついため息が漏れてしまう。
なぜあんな事を言ってしまったのか。いや、だけど空海だって僕の事をバケモノだと言った。心無い事を。いや、どうせ心にも思っていない事を。だろう。
そうだ、知っている。分かっているさ。空海が僕をバケモノだなんて思っていない事は。つい、言ってしまったんだろう。
俺だって酷い事を言ったんだ。空海にだって、酷い事を言う権利はあるさ。
「分かっているよ。分かっているさ、空海。君は僕の事を思ってくれているって」
でも、戻ることは出来ない。
今更、どんな顔をして会えばいいのだろうか。
すると、突然大きな音が聞こえてきた。
コンクリートの地面が壊れる音。そして、それに混ざって機械が動く音。
嫌でも思い出してしまう。あのスーツを。
「行こう」
今の僕じゃ、きっと手も足も出ないけれど、でも行かないと言う事は出来ない
それに相手がもしも僕が思っている相手ならばなおさら―――
「オラァ!出てこいヨオ!」
音の出ている方へ向かっていくと、そこには見覚えのあるマシンスーツがあった。
だが、そこから聞こえてくる声は以前とは違い若い男で口調もチンピラの様だった。
「ジャアアック・ラビット!!さっさと来いよオ!こっちはそれを条件にコレをもらってんだからよオ!」
チンピラの様な男はそう叫びながら、意味もなく、まるで赤ん坊がじたばたと暴れているかのようにスーツを動かしていた。
その被害は、無差別で無秩序である分、とても酷いもので近くにある物は投げるか叩き壊すかだった。
「……っ!」
湊はその光景を少しの間、ジッと見ていた。
それは、湊の心に迷いがその足を止めていた。このまま自分が行ったところで太刀打ちできない。むしろ、死体が一つ増える。もしかしたら、自分を人質にしてさらに暴れだすかも知れない。
悪い予想はどんどんと膨らみ、考えないようにしていても無駄なほどに。
「やめよう。だって、どうせ僕が出て行ったところで何の役にも立たないだろうし。それに、出来ない事はしない方がいいに決まっているさ」
自分に言い訳をするようにぶつぶつと呟き、背を向け立ち去ろうとした。




