①-20
『よろしかったのですか?』
湊がいなくなったのを見計らったかのようにアビスが空海に聞いた。
だが、空海はその意味を分からないようなふりをして、
「なにがだ?」
『湊さまとこのまま別れるのは得策ではないかと。双方が謝罪すれば問題は解決するのでは?』
「確かにそうかもな」
『でしたら』
「でも、それが出来ねーんだよ。バカだからな、俺たちは」
空海が椅子に座り項垂れる。
その姿からも後悔をしているのが分かるほどだ。
「くそっ、分かってんだよ。んなことは」
僕は今どこに行けばいいのだろうか。ビルの屋上で変装もせずにすっといるのは危険だろう。だけど、今の僕には行き場がなかった。
家に帰ることも出来ず、空海とは喧嘩別れをした。どうすればいい、今の僕は何ができる?
「父さんを止めれるかな」
無理だ、スーツを着てやっと勝てた。しかも、昨日戦った機体は粗悪品の様なものらしい。本気を出してこられたら、きっと勝てない。
「これから、野良のヒーローとして生きていく」
それも無理だろう。きっといつかは正体がバレる。そうなった時、僕の体の秘密もバレてしまうかもしれない。
「このまま一人でいるしかないか……」
次の日、僕は学校に行くことも、家に帰ることも、ラボに戻ることも出来ずにいた。
なら、一体どこにいるのかって。まあ、あんまり言いたくはないんだけどさ。
「段ボールって家にもなるんだね」
僕は今、橋の下にスーパーやその辺に捨ててあった段ボールを集めて簡易的な住処を作っていた。
最初は携帯を使って何かいいアイデアは無いかと探してみようかと思ったけれど、いつの間にか落としていたみたいで、僕のポケットから無くなっていた。多分だけど、ラボで言い争っていた時か、出てくるときに落としたんだろう。
「でも、こうして初めての暮らしをして気がついたこともあるんだ。親への感謝?いや、それもそうだけどさ。段ボールって案外なんにでも使えるんだね。下には3重にしてクッション性を出し、そこから壁と天井も段ボールで作る。僕一人寝るくらいなら一畳くらいあれば十分だからね。それに布団にだってなるんだ。結構寝心地はいいよ」
僕は家出(?)一日目にして、すでに精神を病んでいた。独り言を誰かと話しているようにしないと寂しさに押しつぶされそうになる。
確かに友達は少ない方だけど、それでも空海と父さんがいた。
「まあ、今となっては両方がいないけどね」
その日は仕方がないので、一日、日が暮れるまで新居で丸くなって寝て過ごした。




