①-15
「アビス」
『はい、何でしょうか』
「さっきの顔、湊の父親と顔認証をかけてくれ」
湊が飛び出していってすぐに空海は改めて確かめていた。
「あと、さっき話していた時の湊のバイタルも確認」
『はい、バイタル確認―――。映します』
浮かび上がる画面には心拍が早くなっていることを示す数値、それに汗を異常検知していた。
「やっぱ、ウソだったか……」
『照合終了しました。適合率99.5%、ほぼ本人とみてよろしいかと』
「ああ、分かった。ありがとう、もういいぞ」
『はい、では失礼します』
アビスの声が聞こえなくなるのと同時に浮かぶ上がっていたモニターも消える。
空海は目を抑えながら椅子に深く座り、仰ぐように天井を向く。
「……くそっ」
「なあ、昨日の夜まさかどこかに出かけてたか?」
次の日の朝、開口一番に父さんから言われた。
「いや、何の事?」
僕はとりあえず誤魔化したけど、父さんの方こそ何をしていたのかと、どこにいたのかと聞きたかった。
「そうか、ならいいんだ。新聞の一面見たか?」
父さんが僕に新聞を見せてくる。そこには、
「犯人からの証言で浮かび上がる街の新たな犯罪者、ヴィジランテ?」
「ああ、そうだ。なんでも、素早く動く奴らしくてな、まるでネズミの様だと書いてある」
ネズミじゃなくてウサギなんだけどな。いや、今は置いておこう。
「それで、僕かもしれないって?そんな事あるわけないだろ?読んでみれば相手は銃を持っていたみたいじゃないか。僕が行った所で撃たれた終わりだよ」
できるだけお道化て言う。ばれませんように。
「そうか、そうだよな」
どうやら納得してくれたようだ。
テーブルに朝ご飯が並べられる。
「ほら、冷めないうちに食え食え」
「うん」
僕は急いで席に着き、味のしない朝ご飯を食べきった。