①-11
倉庫の近くまで来た僕は木の影に隠れて様子を伺う。
「ねえねえ、アビス。これズームとか出来ない?」
『出来ますよ、ついでに聴力も補強しますね』
アビスがそう言うと一気に視界が見たい所に寄った。
どうやや男性が三人、その中でも一人だけガタイが良い男がいた。
「おお!これはすごいね!」
そして、ザザと言うノイズが聞こえた後に人の声が聞こえた。
「おい、相手はまだ来ねえのか!」
「ボス、落ち着いてください。これは大事な取引ですので」
「分かっている!だが、指定された時間には来るもんだろうが!」
どうやらガタイの良い男がボスのようで後の二人は取り巻きなのだろう。
一人はボスの話し相手となり、もう一人は周囲を見張っている様子だ。
空海がラボで今の映像を見ながら、
「なんか怪しい取引現場みたいだな。今から顔認証かけて誰か探ってみる」
「よろしく!もしも善人だったら大変だもんね」
「善人はこんな時間にこんな町外れの怪しい倉庫には近寄らねーよ」
「まあ、確かに」
『相手の武装をスキャンしました。どうやらそれぞれが小型のピストルを二つずつ、車にマシンガンが一丁だけのようです。それくらいでしたら、スーツの耐久力の方が勝ちます』
いつのまにスキャンなんてしていたんだろうか。
「ありがとう、アビス。それにしてもこのスーツすごいなぁ」
「そりゃあな、銃撃戦くらい簡単に耐えられる代物じゃねーとヒーローは務まらねえよ」
それだけ空海は僕の身の安全を考えていてくれているんだろう。空海が仲間になって、いや、空海の仲間になってか?まあ、とりあえず、良かったと改めて思った。
『トラックが一台倉庫に近づいていきます』
「来たか…!」
取引が今から始まると思い、改めて気を引き締める。
トラックが止まり、中から男女一組が降りてくる。
一人は長身でハットを被った男で顔がずっとニヤついていた。
もう一人の女性は全身白いドレスのような物を来ていたが、表情がどうにも分からない。無機質といえば良いのだろうか、顔からその人となりをなにも感じることができなかった。
降りてきた二人にボスと呼ばれている男が肩を揺らして近づいていく。
「おせえぞ!約束の時間はとっくに過ぎている!」
ハットをかぶった男がわざとらしく笑いながら、
「たったの10分程度だろう?なにをそんなに声を荒げているんだい?まるで発情期の猿のようだ」
「てめえ…!」
明らかな挑発にボスは今にも殴りかかりそうだったが、手下がそれを宥めている。
「もういい!さっさとブツをよこせ!」
「そんなに焦る必要は無いだろう?全くせっかちな男だ」
「ジャック・ラビット、後ろの荷台をアビスにスキャンさせたら予想通りだ!あいつらやっぱり俺のマシンを改造してやがった…!荷台が開いた瞬間に飛び出して破壊しろ!」
空海の声には怒りと見つけることの出来た喜びが入り混じっていた。
「ああ、任せといて。それであとはあの二人組を捕まえて吐かせれば大本が分かるかもれないしね!」
帽子を被った男とボスの話がついたんだろう。もう一人居た女性が荷台のドアを開けようとしていた。
僕は足に力を込めて準備をする。
女性が扉に手をかけてほんの少しの隙間が出来た。
その瞬間に全力で飛ぶ。
一直線に。
スーツのサポートも合ったお陰もあり一回でトラックまでたどり着き、その時にちょうど僕が通れるくらいにドアも空いていた、なのに―――
「がっ!」
荷台に入ると同時に僕は何かに殴られ、飛んできた方向に飛ばされた。