プロローグ
夜の闇の闇に紛れ、今日も街を見回る。
黒いヘルメットに上下黒のジャージを着て、屋根から屋根へと飛び跳ねる。
少しだけ、人よりも身体能力が高い。
それが僕が生まれた時に神様から授かったものだった。
他の人とは違う特別。
意味があるのかも知れないし、
「今日も異常はなし」
無いのかも知れない。
自分の守れる範囲だけでも、守る。
これが、僕が僕に課した勝手な役割。
「キャー!誰か助けて!!」
「異常なしじゃ、無かったみたいだね」
女性の悲鳴が聞こえる。
悲鳴の聞こえた方へ急いで駆けつける。
そこにはガラの悪そうな男が女性の手首を掴み、ニヤニヤとしていた。
「オラ!さっさとこっちに来い!」
「離して!」
「うるせえ!いいから、こっちにーーー」
「こっちに?ってどっちに?」
音を立てないように気を使ったとはいえ、足音とかは普通に聞こえていたはずだろう。
だけど、乱暴することに集中していた男は背後に現れた僕には声をかけるまでまで気がつかなかったようだ。
「な、なんだテメェは!」
条件反射の様に殴りかかってくる。
僕はそれを避けることなく、避ける必要もなく、
「っ!」
「終わり?」
殴りつけても何ともない相手に怯んだのか、男の顔に焦りが見えた。
「テメェ、何もんだ!」
三下が言うようなセリフをこの人はよく吐くなぁ……。
でも、名前を聞かれたし、答えない訳にはいかないだろう。
「僕の名前はーーー」