天使と聖なる夜の午前0時
クリスマスのお話しです。
皆様、良いクリスマスをお過ごしください。
「ところで、夕理ちゃんはサンタクロースには何をお願いするのかな?」
それは、先日のこと。私への誕生日プレゼントは何がいいか天使様に聞かれ、無事にお家に遊びに来てもらえる約束を取り付けて、私は内心喜びの舞を踊っていた。
とはいえ、不審者と思われないように、心を落ち着かせるために、天使様がわざわざ淹れてくださった尊さの塊であるココアが入ったマグカップに手を伸ばした時だ。
衝撃的な発言に思わず手が止まる。
天使様のお顔を伺っても、いつも通り氷の精霊のように麗しくて、目を離すとすぐに何処かに消えてしまいそうな儚さがある。
どう見ても真面目な顔で冗談を言っているようには見えない。
と、なるとトンデモナイ事実に行きつく。
どうしよう。天使様、サンタさんの存在信じてる! ま、神様とか精霊とかが地球には実在するんだから、子どもに贈り物を届ける優しいサンタさんが現実に存在すると思っていてもおかしくはないよね。うん、天使様の可愛さは正義。
しかし、これは由々しき事態だ。いくらへっぽことはいえ神様としては、天使様の夢を壊すなんて真似は出来るはずがない。
ならば、私がその夢を守るためにサンタさんになるしかない! うん、完璧な理論だ。
「え、えーっと。一応ミュージックプレーヤーを」
「夕理ちゃんは音楽が好きなの?」
「はい、ドビュッシーとか親の影響でよく聞きますね」
天使様との会話をしながらも、脳内で作戦会議を続ける。
どうせなら、日頃お世話になっている家族にも日頃の感謝を込めて贈り物をしたいな。うん、いい考えだ!
皆が寝静まったクリスマスイヴの夜。私は誕生日プレゼントとして、明陽さんに頼んで作ってもらったサンタクロースを模したワンピースを着て、サンタ帽をかぶっていた。
サンタさんモチーフの赤いワンピースには、柊の飾りが付いた大きな金色のリボンが胸元で揺れるデザインでとても可愛い。
さらに、寒さや暑さを完璧に遮断する結界魔法付きだ。有難い。
厚手のタイツを履いて、誕生日に買ってもらった茶色のブーツを履いて、その場でクルリと回ってみる。
「おー、夕理さん。さすが、よく似会ってますぜ!」
「ありがとう。今日はよろしくね、オニキス君」
「お任せくだせぇ。夕理さんの頼みならたとえ火の中水の中、どこへだってお供しやす‼」
そんな危ないところへは連れていかないので、安心してほしい。
オニキス君にも今日はトナカイの角を模したカチューシャを頭にかぶってもらって、サンタさんの相棒であるトナカイさんになってもらっている。
「家族の皆の枕元にはプレゼントを置いておいたから、後は天使様の所だけだね」
両親の枕元には、お揃いのミントグリーンのカップとソーサーのセットを置いておいた。お兄ちゃんへは、勉強で使えるように黒地に金の箔押しで葉を繁らせた木の中で遊ぶ小鳥が描かれた綺麗なノートだ。喜んでくれるといいな。
佐藤夕理、9歳! 無事にサンタクロース業務を全うして、天使様の夢を守ってみせます!
雪の花が舞っている。オニキス君の背に乗って、街のキラキラ光る灯りを見ながら、天使様の家まで飛んでいく。
イルミネーションが輝いて何時もよりも街が綺麗に見えた。駅前のクリスマスツリーも白銀に輝いていて、上から見るのも中々に良い。
サンタクロースやトナカイのイルミネーションが、なんだか私のことを応援しているように思えて俄然やる気が出てきた。
天使様の家のベランダにそっと降り立ち、姿を見えなくする魔法をかける。電気が点いているからまだ、起きていらっしゃるようだ。
寝室に回り込んでプレゼントを置いておくべきかな、と思いつつ部屋の中を伺うと、赤いプレゼントの箱を親の敵か何かのように睨みながら、何事かを悩んでいる天使様がいらっしゃいました。
「何か贈りたいと思って買ってしまったが、やはり迷惑だろうな」
ため息大きいな!! 誰に贈るのであろうとも、天使様からの贈り物なら皆喜ぶと思うから心配いらないよ! 聖夜にあるまじき空気の重さだよ、これ!
「気味が悪いと思われるかもしれないな。そうだ。気に入らなかったら暖炉の火にでもくべろと書いておこう。せめて、身体を暖めるくらいは役に立ってもらわないと」
カードを取り出して、何事かを書くとプレゼントの包みに添えた。
いや、そんな酷いことする相手に贈り物とかしちゃ駄目じゃないかな。私だったら一生大事にするのに、と思ったところで心臓の辺りがぎゅーっと痛くなった。新手の風邪? いや、神様風邪引かないはずだけど。
これ以上この場に居たくなくて、早くプレゼントを置いて帰ろうと私はそっと天使様の寝室に忍びこむ。プレゼントの箱を置いて、その場から逃げ出した。
「今日はありがとう、オニキス君。メリークリスマス!」
「わぁ、ありがとうございます!」
お礼も込めて色とりどりのマカロンが入った箱を贈って、オニキス君と別れてからワンピースを脱いで、寝間着に着替えて布団に潜り込む。心がモヤモヤする時は寝てしまうに限る。
次に目を覚ました時は、既に朝だった。家では毎年家族からのプレゼントはクリスマスツリーの下に置くので、プレゼントの回収の為にリビングへ向かう。
「おはよう」
お兄ちゃんは、膝の上に載せたタブレット端末の説明書を広げて読んでいた。
「何それ?」
「一琉さんからペンタブ貰ったから、デジタルイラストにも挑戦してみようかな」
本格的にお兄ちゃんを同人誌作りの戦力として取り込む気みたいだな、一琉さんは。私もプレゼントをチェックしようとしたところで、ふと気づく。この赤い箱は、昨夜天使様が持っていたもの。添えられたカードを手に取ると、「気に入らなければ、火で燃やしてください。素敵なクリスマスを」とだけ書かれていた。
あれ、私にあげようと思って悩んでいたのか!? 逸る気持ちを抑えて箱を開けると、花の意匠が丁寧に彫り込まれた美しいオルゴールだった。
曲目は、先日私が好きな曲だと話した、ドビュッシーの『月の光』だ。
そっと、オルゴールの箱を指でなぞる。春のような嬉しさが心を満たす。
「夕理さん、どうしたの?」
居てもたってもいられなくなって、私は立ち上がる。急いで、着替えないと。
「ちょっと、天使様のところに行ってくるね!」
天使様は、クリスマスプレゼントを夕理さんに贈ろうとプレゼントを買ったは良いものの、そもそも夕理さんの親がサンタクロース役をするのではないか、と直前に気付いて自分の贈り物は要らないな、でも贈りたい、どうするかと悩んでいました。ちなみに、夕理さんは直接手渡しても遠慮されるだろうから、サンタクロースからの贈り物という体で贈りたかったようです。
なお、夕理さんが天使様に贈ったプレゼントはスノードームです。




