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キラキラ光る、貴方へ

12月22日というわけで、夕理さんのお誕生日のお話です。

お祝いの気持ち以外何も込めていないので、割と甘めのお話しです。

 去年の七五三の時、うっかり天使様を神隠ししてから、定期的に手紙のやり取りをするようになっていた。

 なお、手紙の返事は毎回丁寧な内容で返ってくるのだが、直接会う約束をしようとしてもやんわり断られることが数ヶ月続いた。

 しかし、寂しさが募って無意識に天使様を神隠ししてしまうことが3回ほどあり、ついに彼は私がいつでも遊びに行けるようにと家の近所のアパートに部屋を借りてくれた。

 そこまでさせてすみません、と話を聞いた時には土下座をしたが「好きだと思われるのは嬉しいから」と、控えめな微笑みと共に許してくれた。

 天使様が優しすぎて、お前は神かと思わず真顔で言ってしまったよね。「神様は夕理ちゃんでは?」と、不思議そうに小首を傾げられてしまったが。





 いつものように遊びに行く約束を取りつけた週末、天使様の家を尋ねると、何やら不機嫌というような拗ねているような気配をまとった天使様が出迎えてくれた。


 えっと、どうしたんだろう。


 なんか不快に思わせるようなことしたかな。脳内で日頃の行いを振り返りながら、いつものように天使様の後についてリビングに入り、定位置になりつつある椅子に座る。


「寒かっただろう。今、ココアを淹れる」


「ありがとうございます」


 自分用の紅茶と私用のココアが入ったマグカップを手に天使様が戻ってきた。お礼を言ってカップを受け取り、ふーふーして冷ます。

 天使様も私の正面に座ったが、カップを手に持ったままじっと見つめてくる。

 どうしたのか、と尋ねようとしたところで彼が口を開いた。


「もうすぐ夕理ちゃんの誕生日なんだってね。タヌキ君たちが教えてくれたよ」


 タヌキと言われて、山で鼓笛隊を結成している元気なタヌキさん達の姿を思い起こす。

 私もよくタヌキさん達に遊んでもらっているが、天使様も彼らと交流を続けていたらしい。


「はい、今月の22日ですよ」


「何故言わない?」


 目が据わっていらっしゃる。あと、声が普段より低い。何でこんな怒っているんだろう。


「特に言う必要があることですかねー? ただの誕生日ですよ」


「貴方がこの世に生を受けた大事な日だろう。何かしたいと思うに決まっているよ。それとも、俺に祝われるのは不快かな?」


「いえいえ、そんな滅相も無い!」


 私は慌ててぶんぶんと首を振る。天使様に祝って頂けるのならとても嬉しい。そう答えれば、彼は安心したような笑みを浮かべた。思わず怯む。う、本日も麗しい。輝いて見える。


「そうか。なら、プレゼントは何が欲しい? なんでもいいよ」


「え? いえ。お気持ちだけで十分ですよ」


「何が欲しいのかな?」


 天使様が身を乗り出してきた。おおう、顔が近い。絶景だな。こんな光景独り占め出来るとかなんて贅沢なんだ。あと、絶対に逃がさないと言う強い圧を感じる。でも、本当に祝ってくれる気持ちだけで十分なんだけどな。


 あぁ、だがそうだ。去年から秘かにやりたかったことを折角の機会だから、お願いしてみようか。言うだけなら無料だよね。


「じゃ、当日家に遊びに来てくれませんか。ご馳走一緒に食べたいです!」








 12月22日。朝、目が覚めてベッドから伸びをしながら起き出し、鏡の前で髪の毛に丁寧に櫛を入れていると、こんこんと窓が叩かれる音がした。

 窓の外には楽器を持ったタヌキさんたちが集合している。急いで窓を開ければ、タヌキさんたちがお部屋に飛び込んできた。


「おはようございます! 起きていて良かった」


「おはよう。どうしたの? こんなに朝早く」


「お誕生日おめでとうございます! お祝いの演奏に来ました‼」


 タヌキさんたちの『ハッピーバースデー』の歌の演奏は、鼓笛隊だけあって感動した。拍手を送ったところで、今日は他にも祝いたい人がいるだろうからとタヌキさんたちは帰って行った。今度またお菓子を持ってお山に遊びに行こう。



 着替えようとしたところで、今度はベッドの上に色とりどりの花を集めた綺麗な花束が置かれていた。差し込まれたカードには、オニキス君の名前が書かれている。本当に律儀な狼さんだ。更に、プレゼントの箱がまとめて積み上がる。

 送り主を確認すれば、冬歌さんや日奈さんに佳乃子さん、なんと壱春さんと菖蒲さんからも届いていた。添えられた手紙には、私たちに対する感謝と兄が手に入れた情報を元に犯罪組織を潰し、今は事後処理にあたっていて、元気にしていることが(つづ)られていた。気になっていたけど、無事に悪者退治が済んだのなら良かったな。


 明陽さんからの贈り物は、前から頼んでおいたお洋服だったのでにんまりしてしまう。この服を着る当日が楽しみだな。


 天使様が折角家に来てくれるのだから、半端な格好は出来ないとプレゼントを開けるのもそこそこにお洋服に着替える。

 黒いリボンが特徴のダークブルーのブラウスに、ステンドグラスをモチーフにした綺麗なロングスカートを合わせる。髪を白いレースのリボンで飾れば、少しでも大人に近づけたような気がした。








「おはよう、今日もゆーちゃんは可愛いね。お誕生日おめでとう」


「ありがとう。お母さん」


 下に降りれば、お母さんが笑顔で迎えてくれた。お兄ちゃんもキッチンから、おめでとうを言ってくれる。

 一方、お父さんはソファーに座って腕をくみ、なにやら難しい顔で唸っていた。


「お父さんは一体どうしたの?」


「ゆーちゃんの大事なお友達が家に来るから、どう迎えるべきか悩んでいるのよ」


「俺の態度一つでもしかしたら、もう夕理さんの家には行かないとか、最悪遊ばないとか言われるかもしれないんだよ! 夕理さんの足を引っ張るわけには」


 思考が相変わらず重い。そんな今から戦争だ、と言わんばかりの顔で悩まなくても、天使様は優しいから大丈夫なのに。

 まず、故意ではないとはいえ、神隠しをした段階で普通は縁を切られると思う。


「あぁ、ごめん。夕理さん、おはよう」


 ようやく私の存在に気付いたらしいお父さんのお膝に抱っこされる。向かいあう形になって、そのまま頭を撫でられる。


「お誕生日おめでとう。生まれて来てくれて、出会ってくれてありがとう」


 額にキスが降ってくる。相変わらず直球で熱量が高い言葉を言ってくるから、少し照れてしまう。お返しに頬にキスをおくり、私にもー、とせがんで来たお母さんの頬にもキスをした。

 ご飯を食べて、天使様が来るまでまだ大分時間がある。ソワソワと落ち着きなく、もう何回目かも分からない部屋の片付けやお菓子のチェックをしてしまう。

 でも、ついにやることがなくなって、リビングのクリスマスツリーの色とりどりの光を眺めながら心を落ち着かせることにする。お兄ちゃんが作る料理の美味しそうな香りが漂ってきて、別の方向に思考がシフトするし。

 誕生日の夕食はお兄ちゃんが腕をふるってくれる。私の大好物な、ヨーグルトを隠し味に加えたカレーがメインだ。


「今年は夕理さんには迷惑をかけたからね。せめてお返ししないと」


「もう、あの事は別に気にしてないよ。むしろ、普段お世話になっているのは私だよ。いつもありがとう」


「やめて! これ以上お兄ちゃんを甘やかさないで‼」


 両手で顔を覆ってしまわれた。全部本音なんだけどな。でも、お兄ちゃんの手料理も美味しくて大好きだから、とっても楽しみだ。




 チャイムが鳴る音に、弾かれたように玄関に走り出す。お母さんも苦笑しながら、後に続いてくれる。


「本日はお招き頂きありがとうございました」


 そう言って自然と手土産を渡してくる天使様は何時にも増して輝いていた。ただの家の玄関が聖堂に見える。お布施を払わないと。

 真っ直ぐな長い銀髪を後ろで束ねた天使様は、今日はざっくりとした白いニットに黒いジーンズをあわせて、紺色のコートを羽織っていた。

 そして、なんと今日は普段と違って眼鏡である。誕生日特典でレアスチルを回収してしまった。より知的で洗練された雰囲気に、なんだか胸のドキドキが抑えられない。心臓がギュンとする。なんだこれ。不整脈か?

 お料理が出来るまで、天使様を私の部屋に案内する。クローゼットに大きなダークブラウンの本棚、飴色の学習机にベッドとテレビ、中央にはカーペットを敷いてその上には丸いミニテーブルがある。明陽さんが毎年クリスマスに贈ってくれるぬいぐるみがベッドのヘッドボードに置いてあるから、そこそこ女の子っぽいのではなかろうか。掃除はしたけど、おかしい所はないよね。


「どうぞ、座ってください」


 丸テーブルの前を示せば、天使様は頷いて腰を下ろした。ふわふわ感触が気に入っているトーストモチーフのクッションを渡す。


「ありがとう」


 控えめに扉を叩く音がして、急いで開ければお母さんがお菓子とコーヒーが載ったトレイを持っていた。私用はカフェオレにしてある。


「ドーナツ、わざわざありがとうございます。皆で食べますね」


「いえいえ、気に入って頂ければ良いのですが」


 じゃ、この見覚えのないドーナツは天使様からのお土産か。心して食べなければ。


 お菓子をたべながら、いつものように学校や友達や家族であった天使様に聞いて欲しい話をとりとめもなく話していく。そこで、ふと気になったことを聞いてみる。


「今日は眼鏡なんですね。格好よくて素敵です!」


「ありがとう」


「あれ、でも視力悪かったですっけ?」


 首を振られる。なるほど、オシャレかと思ったところで。


「お揃い、だからね」


 ふふっと悪戯が成功した子どものような笑みと共に言われて、宇宙の始まりを幻視した。


「渡すタイミングが掴めなくて。お誕生日おめでとう」


 衝撃から立ち直る前に、天使様がプレゼントの包みを出してきた。いや、待ってほしい。まだ、情報の処理が追い付いていないんだけど。あと、私プレゼントは断ったよね!

「俺が贈りたいだけだから。良ければもらってほしい」

 ダメかな? と伺うように小首を傾げられたら貰う以外の選択肢がなくなる。赤いリボンをほどいて、破らないように丁寧に深緑色の紙を開けていくと、中身は森の中を歩くトナカイの姿が刺繍されたミルクティー色のブランケットだった。

「寒くなってきたから、夕理ちゃんが風邪を引かないようにね」

 神の血が混ざっているから、病気とは無縁なのだがその心遣いが嬉しい。素直に微笑んでお礼を言えば、ほっとしたような笑顔を向けられた。


 食事の準備が出来たことが伝えられて、天使様の手を取って一緒にリビングに降りていく。テーブルに着いた時に一瞬空気がピリッとしたがすぐに霧散する。お父さんったらまだ緊張しているのか。

 今日の主役ということで、私の分のカレーだけご飯で雪だるまが作られていてとても可愛いかった。サラダもサーモンを何枚か巻いてバラを作って飾っていた。

 お兄ちゃん、普段不器用なのになんで料理の飾りは器用なんだろう。フライドチキンにポテトも美味しかった。デザートはリクエスト通りに苺がたっぷり載ったチョコレートケーキだった。本当になんでこの器用さが料理以外に活かされないんだ。

 楽しい時間だったが、一つ気になることが。お父さんは終始にこやかだったが、家族である私には何かを我慢しているようにしか見えなかった。

 お客様がいるからと遠慮しないで、お腹空いているなら食べれば良いのに。ほら、フライドチキンをお食べ。






「来てくださってありがとうございました。お陰で良い誕生日になりました」


 天使様が帰るので、玄関前でお見送りする。家族は気を使ったのか、「またいつでも遊びに来てね」と一通り声をかけてから、家の中に引っ込んで行った。


「寒いでしょ。夕理ちゃんも中に」


「もうちょっとだけ。天使様の誕生日はいつなんですか?」


 今度は私がお祝いしたいと勢いこんで聞けば、天使様は少し考えたようにすると、唇に人差し指を当てて「秘密」と答えた。誕生日を教えなかった私への意趣返しか。今日はしてやられてばかりだ。なんだか悔しいので、しゃがんでもらう。

 なんの疑いもなく、すぐに言う通りにしてくれるのが、堪らない気持ちになることを天使様は知らないだろう。


「今日はありがとう。嬉しかった」


 手を添えて頬にキスをして耳元で囁ければ、一気に天使様の顔が赤くなる。あらら、可愛い。

 と、思ったところで、さっと天使様が私から距離を取った。気配がこちらを警戒している野性動物そのものだ。

 頬を手で抑えて、混乱したような目を向けて来る。


「このマセガキが……」


 おや、意外とお口が悪い。余程混乱しているらしいな。


「失礼ですね。頬のキスの意味は親愛と満足ですよ。私からの今の気持ちを知ってほしくて、キスを贈っただけです」


 涼しい顔で言ってみせる。天使様の意地悪の意趣返しの意味も有ったが、伝えた気持ちも本物だ。

 私は悪戯が成功した嬉しさにニンマリと微笑んだ。



 あぁ、今年は本当に良い誕生日だったな!

次は間に合えば、夕理さんがサンタクロースになるクリスマスのお話しを書きます。

間に合わなければ、お正月と一琉さんの誕生日祝いのお話を書きます。(多分)

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